小さな 好奇心 ( ランドルフ 視点 )
夏のチャレンジホラーに投稿したくて書いた作品です。
異世界恋愛に ひとつだけ願いが叶うならに続いていたのですが。
物語としてセットで読んでいただきたかったので 異世界 恋愛に統一して連載として掲載します。
以前にホラーと異世界 恋愛のふたジャンルをはしごしていただいた方は、1.2話は、誤字や言い回しを少し修正しただけですのでご了承ください。
「お前、名前は、なんて言うんだ」
夏の長期休暇で、領地を訪れていた俺は、曾祖母の住む別棟の裏で、見知らぬ女の子を見つけた。
「お兄ちゃんだあれ?」
「ここは、僕のおばあ様の家だぞ、お前が先に名乗れ」
俺が両手を組んで少女の前に立つと、少女はくりくりした大きな瞳で、俺を見上げてほほ笑んだ。
摘んでいた花を置いて、立ち上がった少女は、驚くほど綺麗なカーテシーをする。
「グリフィス伯爵家のアリアと申します」
アリアは膝を折ったまま、頭を下げている。
「ア アリア!頭を上げていい。俺はアルバ侯爵家のランドルフだ!アリアはどうしてここにいるんだ?」
「我が伯爵家は、家庭教師を雇うお金がないので、エレナ様にマナーやピアノ、家政を教えてもらっています」
「おばあ様に…………。」
アリアを改めて見つめる。
体格は小さいが、話し言葉や所作は、とてもしっかりしていて………かわいい。
「アリアは何歳だ?」
「はい。先月のお誕生日で6歳になりました」
はきはきと、元気に答えるアリアは、俺の周りにいる令嬢達にはいない。
興味がどんどん沸いてきて、じっとアリアをみつめていると、返事をしない俺に近づき、彼女はキョトンとした表情で首をかしげる。
ぐわぁ。
俺は思わず目線をそらして、横を向いた。
「あの。アルバ侯爵令息様?どうされました?」
顔を覗き込むアリアの顔を見ないままに、俺は彼女に手を差し出した。
「俺のことはラル様と呼べ、俺も…………。おばあ様と一緒に、アリアに勉強を教えてやる!」
俺が差し出した手に、小さくて暖かなアリアの手が重なる。
小さな手を、ぎゅっと握りしめると、急に恥ずかしくなって………グイグイと手を引いて、おばあ様の屋敷に向かった。
「あらあら、まあまあ。私のかわいい天使が二人」
エレナおばあ様は、窓辺のロッキングチェアに座りながら刺していた、刺繍の手を止めて、俺達を見て穏やかにほほ笑む。
「おばあ様、アリアにマナーを教えていらっしゃるんですか?」
「ええそうよ。アリアは私の優秀な生徒よ」
「おばあ様、僕もアリアの先生になってもいい?」
「ふふふ。まあ先生に?」
「うん。僕お勉強教えてあげられるよ」
おばあ様が、アリアを見てにっこり微笑む。
「アリアは先生が増えてもいい?」
「はい。よろしくお願いします」
俺はアリアがほほ笑むのを見て、胸が弾んだ。
「よし、アリア!裏の小川でザリガニが取れるんだ、行くぞ」
俺は、アリアの手を引いて急いで部屋を出る。
「あらあら。ランドルフ、お勉強するのではなかったの?」
「おばあ様、ザリガニ捕まえたら!すぐに戻ります」
それからの毎日は楽しかった。アリアは、俺より年下とは思えない優秀な子で、俺も………おばあ様に、マナーを一緒に習い、空いた時間は一緒に山や川で過ごした。
✿ ✿ ✿
「ねえラル様、あの森の端にあるお屋敷はなに?」
「ああ、あそこは昔、えーっとおじい様の妹だから……大叔母様か、そのおばさまは小さな頃から体が弱くて、領地のあの屋敷でずっと静養していたそうだが、大人になる前に死んだって聞いた」
アリアの瞳が不安げに揺れる。
「どうした?」
アリアが、ぎゅっと俺のジャケットの裾を握る。
「侍女の皆さんが話していたのでけど…………あのお屋敷から、女の人が泣く声が聞こえるんだって…………時々叫び声も聞こえるって…………。」
幽霊が怖くて、俺の服をぎゅっと握るアリアが、むちゃくちゃかわいくて、頼りにさえた俺が誇らしくて、俺は何でもできる気持ちになった。
「なんだ~アリア。幽霊が怖いのか?」
「…………。ラル様は怖くないの?」
「怖いはずないだろ!俺はもう10歳なんだぞ」
夕日に照らされて、ピンク色が濃くなり、キラキラとしたアリアの瞳が、尊敬を乗せて俺を見ている。
俺は、アリアの耳元で小さな声で囁いた。
「今夜、こっそり抜け出して、あの屋敷を探検しないか?」
「うぅ。幽霊は…………。」
「大丈夫、幽霊なんていないさ、この間ホタルを見に行った夜も、なんでもなかっただろ、もし幽霊がいても俺がやっつけてやる」
アリアが俺をじっと見つめる。
「今夜、夕食の後、着替えずに待ってて、迎えに行く」
アリアは、眼を左右に泳がせながら、コクリと頷いた。
✿ ✿ ✿
夕食後、早く眠るとベッドルームに入った俺は、倉庫から持ち出したランプと、小さな短剣を持って、こっそりと裏口から外に出る。
アリアのいる客室は一階の角部屋、窓を外からノックすると、直ぐにアリアが顔を覗かせた。
「ほら、アリア、手を貸して」
少しだけ、高い位置にある窓から、アリアを抱える様に降ろすと、しっかりと手を握り、あの屋敷へと向かう。
「ラル様……暗いですね……私。こんな時間に、大人なしで外に出るの、初めてです」
俺は、ぎゅっと唇を引き結んだ。
俺だって初めてだ………でも、アリアを守らなきゃ。
「アリア。もっとそばにおいで、ランプの明かりで、足元が見えやすいよ」
アリアの指先が冷たい。
冷たい手をグイっと引いて、腕を組む。
屋敷に近づくにつれて、草の背が高くなる。
「ラル様、大きなお屋敷ですね、扉は空くのでしょうか?」
玄関の扉はかなり大きく、薄汚れているが、壊れている様子はない。
「そうだな、扉があかなければ、ぐるりと周りをまわって帰ろう」
アリアがコクリと頷く。
俺は、ランプを床石に置くと、大きな扉を手前に引く。
ぎぃぃぃぃ…………ぎぃ。
扉はきしんだ音を響かせて開いた。
バサバサ、ガン、バサバサ。
「うわー」
「キャー」
開いた扉から、大きなコウモリが飛び出して、驚いて二人ともひっくり返る。
俺が転がった先には、鉄の柵があり、折れた先がちょうど肘にあたって服も肘も少し切れた。
「いたたた…………大丈夫か、アリア」
肘を抑えながら、直ぐにアリアを助け起こす。
「はい。しりもちを突いただけ…………。」
「ラル様!肘から血が」
「大丈夫だ、かすり傷だよ」
アリアは、ごそごそと、ドレスのポケットを探り、小さな水袋とハンカチを取り出した。
「ラル様、見せてください、あの私のハンカチですが、ガーゼの代わりになりますから」
アリアはおもむろに、二つに結んでいた髪のリボンをひとつ解き、水袋の水を含ませて俺の肘を綺麗に拭いた。
創の上に、緑のかわいい縁取りが刺繍された、白いハンカチを当てると、もう片方のリボンも解いて、ハンカチを俺の肘に結ぶ。
「凄いな~アリア、手際がいい」
「あ、あの~」
アリアは恥ずかしそうに頬を染める。
「弟がよく怪我をするので…………。」
よし!今度こそ、俺が絶対にアリアを守る。
シクシク…………シークシーク。ギヤー。
部屋の奥から、鳴き声と叫ぶような声。
「ゆ…………幽霊?」
「幽霊なんかいないよ、コウモリかな?」
……………コウモリは鳴かない………。
アリアの手を握り、屋敷の中に入る。
歩くたびにギシギシと床が軋む音。
屋敷の中には月の光が入らず、どんどん周囲が暗くなる。
……………………。
ガリガリガリガリ…………ガリガリガリガリ。
突き当りの部屋から、何かをひっかく様な音が響く。
俺は、アリアと繋いだ手に力を込める。
「あの奥の部屋だな…………。」
廊下の奥を、ランプで照らすと、白い影が横切った。
「きゃ」
アリアが小さく悲鳴を上げる。
……………………。
ガタガタガタガタ…………。
「ラル様、やっぱり幽霊が…………。」
そう言いながら、アリアが俺の腕にしがみ付く。
頑張るぞ俺!
部屋の扉に手を掛けると。
「ミャーミャー」
今度は、猫みたいな鳴き声が、後ろからして振り返る。
そこには、真っ白な子ぎつねが二匹。
「アリア、見て子ぎつねだ、真っ白だよ」
俺がアリアの手を引いて、子ぎつねに駆け寄ると、「ギャー」と大きな鳴き声がして、後ろから何かがぶつかってきて、アリアと一緒に、廊下の隅に転がった。
「アリア」
俺は隣に転がっている、アリアを引き寄せ顔を上げる。
グルゥ。グルゥ~。
目の前には、低い声でうなりながら俺達を見据える、大きな白い狐。
足元には、さっきの子ぎつねが二匹、小さくなって隠れている。
グギャーーーー。
大きな狐は大きく口を開け、高く飛びあがった。
俺はアリアを守るために、ぎゅっと抱きしめて眼を閉じる。
「あっちにいきなさい!」
叫び声に、俺は眼を開けた。
目の前には、ボロボロと大粒の涙を流しながら、歯を食いしばるアリアの顔。手には、俺が腰に下げていたはずの、短剣を両手で握りしめ、唸る白狐に向けている。
ギャアァーー。
もう一度大きく鳴いた白狐が、飛び上がろうとすると、バタバタと複数の足音が聞こえ、白狐の頭に石が命中した。
キャン。
白狐は、二匹の子ぎつねを咥えると、屋敷の外に逃げていく。
短剣がころりと床に転がった。
「ランドルフ坊ちゃん、お怪我はありませんか?」
護衛騎士のカイセルが駆け込んでくる。
腕の中でアリアの涙は止まり、うるうるとした瞳が俺を見上げた。
俺は…………。
「アリア嬢も、怪我は無いかい?」
カイセルはアリアをするりと抱き上げ、髪を撫でる。
他の騎士たちが、屋敷の中を確認する声が響く中、俺は立ち上がり床に落ちたナイフを拾う。
アリアは安心したのか、カイセルの肩に頭を乗せて、眼を閉じている。
俺は、ぐっと拳を握りしめた。
「さあ坊ちゃん、皆さん心配してお待ちですよ」
カイセルが差し出す手を、俺は握らずに一歩前に出る。
「カイセル、俺に剣術を教えてくれ」
「はい。承知しました坊ちゃん」
「坊ちゃんて呼ぶな」
屋敷の玄関を出て、空を見上げると、月がかなり高い位置まで登っていた。
それから俺は、父上にこってり絞られて、5日間の自室での反省を言い渡された。
✿ ✿ ✿
「アリア!」
5日間、いい子に過ごした俺は、急いでおばあ様の屋敷に行くと、アリアの姿が見当たらない。
使っていた客室も、綺麗に整えられている。
アリア………どうしたんだ…………怖い思いさせたから、俺を嫌いになったのか?
俺は、おばあ様の部屋を訪ねる。
「おばあ様、アリアが居ません」
ノックもせず扉を開けた僕を、おばあ様は、優しく微笑んで手招きした。
「ランドルフ、こちらにいらっしゃい」
駆け寄ると、おばあ様は、僕に小さな包みを差し出した。
「開けてもいいのですか?」
「ええ」
ピンク色の包みを開けると、花のかわいい模様がある封筒と紫、ピンク、シルバー三色の組みひもで作った、ブレスレットが入っていた。
「手紙を読んでみて」
おばあ様に促され、封筒を開く。
= ラル様 =
お手紙での報告、すみません。
私は、隣国にいる叔母の家に養女に行くことになりました。
ラル様と過ごした毎日は、とってもとっても楽しかったです。
ありがとうございました。
組みひもで編んだブレスレットは、私が作ったので、あまり上手ではないのですが、私からの精一杯のお礼です。
お元気で、さようなら。
アリア・グリフィス
手紙は、6歳の子が書いたとは思えない、綺麗な字で書かれていた。
俺は、手紙を握りしめ、おばあ様を見上げる。
おばあ様は、アリアの境遇や組みひもを編んでいる様子、最後に俺に会いたがっていたことなど、会えなかった毎日のアリアの様子を聞かせてくれた。
俺が…………。
俺はおばあ様の膝に顔をうずめて、大声で泣いた。
勉強も剣術も、いっぱい頑張って、アリアを迎えに行くんだ。
(´艸`*)




