第6話 悪だくみは蜜の味
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第6話 悪だくみは蜜の味
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5名が俺の部屋に集まった。
「少し力を入れ握り、引っ張れ。こうだ」
俺は懐に忍ばせておいたカプセルを開けて見せた。
もちろん、俺のカプセルには何も入っていないが、彼らのものには紙が入っている。
紙に書かれているものは……。
吉田兼致の紙には、椎茸。
占部氏時の紙には、硝石。
許斐氏任の紙には、玻璃。
土橋氏康の紙には、鉄砲。
吉原貞安の紙には、造船。
上手いことバラけてくれた。
畑違いなものに当たったらどうしようかと思っていたが、適材適所で何よりだな。
これも宗像三女神のお導きだろう。
儂がこの時代に転生したのも、宗像三女神のお導きだ。
そう考えると、納得がいく。
だから、宗像三女神の名を使いまくってやろうと思う。
責任は取ってもらわないとな。
違ったら、神罰によってまた死ぬかもしれないな。
何度も言うが、一度死んでいるのだから問題はない。
あるけど、ない。
5名の前に、それぞれの生産の手引きを置いた。
「これは秘中の秘なる。家中の者でも、お主らが信頼する者以外、職人以外に伝えてはならぬ。職人も厳選せよ」
誰の喉がゴクリと喉が鳴った。
「以前、父にな」
俺は唐突に話始める。
「大内に政変が起こる、そう三女神様のお告げを伝えたことがある」
「「「なっ!?」」」
そりゃー驚くよね。
「ことの重大さゆえに、父のみに伝えた」
もったいぶる。
「だが、父は何もしなかった。宗像を守る策を講じなかった」
父よ、すまない。
今からあんたを悪者にする。
「ゆえに三女神様の神罰を受け、あのような死に方をしてしまった」
「「「なっ!?」」」
神罰じゃないと思うよ。
あれは重度の胃潰瘍だと思う。
だけど、ものは言いようなんだ。
今を生きる俺のために、汚名を着てくれ。
「あの時父が動いていれば、氏男殿は死なずに済んだやもしれぬな。山田事件も起きずに済んだかもしれぬ。残念なことだ」
しんみりとした空気感を醸し出す。
「お主らが、その手引きを宗像以外に出せば、その時は神罰を受けると心得よ。ゆえに、手引きの管理はしっかりとし、それにかかわる者も管理しろ。特に酒と女には気をつけよ。本人は覚えてないかもしれぬが、情報を漏らしていたということになりかねぬ」
また誰かの喉が鳴った。
「さて、吉田と許斐には、銭を生んでもらう。椎茸と玻璃を作り売るのだ」
椎茸は言わずとも分かる戦国錬金チート食材だ。
10貫(37.5キログラム)の乾燥椎茸を売れば、城が建つ。
それほど高級な食材である。
玻璃はガラスのことだな。
こちらは今の日本では生産されていないんじゃないかな。
江戸以降になると、ギヤマンとして作られるようになるものだ。
「其方らが生んだ銭の5割を宗像に入れよ。その銭で占部の硝石、土橋の鉄砲、吉原の造船を支える」
「「はっ」」
「貞安は南蛮の船にも負けぬ船を造り、澳門に船を出せ。澳門では日本の太刀や漆器などが高値で売れると言うぞ」
「承知」
他にも高値で売れるものはあるはずだ。
「土橋の鉄砲は、これからの戦のありようを変えるものだ。儂は13になったら元服する。それまでに年間300挺は生産する体制を作ってもらう」
「さ、300」
「将来は年間500挺の生産だ」
年間500挺なら、10年で5,000挺を保有できることになる。
使っている内に壊れたり紛失するものもあるだろうが、それでも織田信長が長篠の戦で使った3,000挺以上は所有できる。
「占部の硝石生産は重要ぞ。鉄砲はその硝石がなければただの棒だ。鉄砲を有効に運用できるかは、どれほど潤沢な硝石を生み出すかにかかっているのだ」
もちろん、南蛮からも硝石は買う。
だが、使用する6割以上、できれば7割を国内生産にしたい。
「責任重大ですな……」
「硝石も鉄砲も全て宗像が買い上げる。安心しろ、ちゃんと代金は払う。そのために、椎茸と玻璃、そして船を造るのだ」
神妙な表情で皆が頷く。
いい傾向だ。
傅役の貞安以外は、やや信用に劣る。
この楔によって俺に重臣たちを繋ぎ止めるのだ。
「5名とも、職人の手間賃をケチるなよ。ケチには誰もついていかぬ。いい仕事をさせるには、気持ちよく仕事をさせるのが一番よ。だが、情報管理は徹底せよ。その不満を銭で緩ませろ」
「「「はっ!」」」
「儂は幼い。先ほども言ったように、13になったら元服する。その時までに、宗像の領地は変らぬが、宗像の経済力は数倍に大きくなっておる。皆の働きに期待するぞ」
「「「お任せくだされ!」」」
5名を下がらせる。
一息吐くと、襖がスーと開く。
顔を出したのは、祖父貞氏だ。
「ジイ様、聞いていたな」
「後見が、何も知らぬでは話にならぬゆえな」
「情報は秘してもらうぞ」
「分かっておる。じゃがのー、儂には何もないのか?」
きたきた。
「あるぞ」
「ほう、あるのか」
「とびっきりのがある」
「楽しみじゃのー」
祖父が俺の前にどかりと腰を下ろす。
俺は懐から取り出した書を差し出す。
「これは三女神様には関係ない。儂が考えたものだ」
「なんじゃ、三女神様のお告げではないのか」
「なんでもかんでも三女神様のお告げがあるわけじゃない。だが、確実に儲けが出る」
「ククク。よき響きじゃの」
宗像の者は銭の力を知っている。
伊達に朝鮮との貿易を差配していないのだ。
祖父に渡した書には、銭の鋳造法が記されている。
現在、日本では銭を造っていない。
銭は明(大陸)から勘合貿易で入ってくるのだ。
そのため、昔輸入した使い古された銭は、誰も回収することなく市場に出回っている。
そんな質の悪い銭を主に鐚銭と言っている。
鐚銭は銭としての価値は低い。
鐚銭4枚で良銭1枚、鐚銭を良銭に交換しようとすると、4枚必要になる。
これまでは大内が勘合貿易で銭を細々と輸入していたが、今後はそうもいかない。
良銭の価値はもっと上昇することになる。
「儂に偽銭を造れと言うのか」
「この日ノ本では銭を造っていないのだから、偽銭ではない」
「物は言いようじゃな」
「その通り。それに、その書に書いてあるように造れば、良質な銭を鋳造できる。誰も100貫の買い物に、鐚銭400貫分を持ち歩きたくはないでしょ? 銭は重いですからね」
「それはもっともなことだな」
「ですから、市場を円滑に回す銭を宗像が出すのです。もちろん、名目は朝鮮を経由して輸入したことにして」
「その良銭1枚と鐚銭4枚を交換し、造り直すというわけじゃな」
「鐚銭4枚から良銭が3枚以上になるでしょう。それに、欠けが大きなものは、もっと価値を下げて10枚とかで交換すればいいのです」
「たしかに儲けが出そうじゃ」
「4,000貫の鐚銭から3,000貫の良銭ができれば、銭の風呂に入れますよ、ジイ様」
「銭の風呂?」
「ハハハ。気にしないでください」
「ククク。まあいいわい」
祖父は俺が書いた銭の鋳造秘伝書を持って帰っていった。
もちろん、5割は宗像に入れてもらうけどね。それでも祖父の懐はかなり潤うだろう。
ちなみに、吉田らに渡した手引き書は、ガチャのアンコモンの景品だ。
アンコモンであのようなものが出てくるとは思っていなかったので、嬉しい誤算だった。
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