第34話 鉄鬼兵の悲哀
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第34話 鉄鬼兵の悲哀
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蒲池城は平城だが、筑後最大勢力の蒲池氏の居城だけあって、大きな城だ。
周囲は湿地で攻めるのに苦労する。
だから、木砲だ。
木砲によって徹底的に城壁や城門を破壊し、さらに籠城する兵の士気を下げるために、夜の間も撃ち続けた。
最初は100門の木砲で連射し、夜は5分から10分おきに砲弾を叩き込む。
砲弾は石だが、人間の頭ほどもある石が降ってくるのだから、気が休まる時はない。
敵を眠らせず一晩中恐怖を与えていたおかげで、翌日の朝から始まった総攻めは大した被害なく城を陥落させた。
儂としてもえげつないことをしているという自覚はある。
だが、味方に被害を出すくらいなら、敵を皆殺しにしたほうがいい。
100門の木砲が今回の蒲池城攻めで廃棄になったし、多くの硝石を消費したが、後悔はない。
豊後を攻めている吉田兼致にも、300門の木砲を持たせてある。
木砲の砲撃で大友義鎮を殺してもいいから、遠慮せず使えと言ってある。
話は少し前後するが、儂が蒲池城の攻囲に合流した日のことだ。
元筑後十五城の10家の当主と面会した。
「某、西牟田家当主、左衛門大夫親氏と申す。宗像の殿の筑後入りを歓迎いたしますぞ」
綾瀬の父、つまり儂の舅になる。
「宗像四郎左衛門氏貞にござる。舅殿、この度の馳走、感謝いたす」
朝廷が贈ってきた左衛門大尉をそのまま使うのも癪なので、四郎と左衛門を合体させて使うことにした。
ジイ様には睨まれたが、儂は朝廷の下につく気はないという意思表示だ。
「いやいやなになに、ハハハ」
西牟田親氏は気のよいオッチャンといった感じの人だった。
まあ、目は笑ってないので、腹の中ではというヤツだろう。
舅殿の後に他の9家の当主とも言葉を交わす。
この10家で実際に宗像に敵対できる勢力は舅殿くらいなものだ。
筑後十五城と言っても、下蒲池が12万石、上蒲池が8万石、そして西牟田が5万石の大身だっただけで、他の12家は数千石から2万石程度の家でしかないのだ。
西牟田に続く大身の家は、今回の征伐で潰していることから、西牟田以外は1万石前後の家しか残っていないのである。
儂はこの10家に、所領安堵を約束した。
永禄5年3月。
筑後の平定を粗方終えたことで、軍を2つに分ける。
大和貞秀に筑前勢8,000を与え、豊後へと進ませる。
その際に元筑後十五城の9家を道案内につける。
この頃の豊後では、戸次鑑連が率いる大友勢7,000と吉田兼致が率いる豊前・豊後勢8,000が対峙していた。
兵力は互角で、相手は戦上手と評判の戸次鑑連が指揮する軍勢とあって、軽々しく動くわけにはいかない。
儂としても大友が最後のあがきで7,000から8,000くらいは兵を集めてくると思っていたので、吉田兼致には時間を稼ぐようにと指示をしておいた。
時間がかかればかかるほど、大友の兵たちは離散するはずだ。
それほど豊後の民は疲弊している。
儂のほうは肥後へと進むが、西牟田の舅殿に道案内をしてもらう。
肥後では、隈部が抵抗を見せた。
そこに阿蘇も加わる。
赤星と城は動かない。
隈部・阿蘇勢は10,000の軍勢を率いて野戦に打って出た。
まさか野戦になるとは思わなかったが、地の利は敵にあるので油断せずに粛々と倒そうと思う。
儂のほうは肥前勢5,000(3,000は筑後の押さえに置いてきた)と、常備兵8,000の、合わせて13,000。
隈部・阿蘇勢10,000に対して13,000と兵力ではやや上まっているが、楽観視できる差ではない。
「窮鼠猫を噛む、という故事もある。油断せずに敵を撃滅せよ」
「「「はっ!」」」
戦が始まると、鉄砲と木砲の音が響いてくる。
蒲池城攻囲戦では、木砲の轟音に驚いていた舅殿だが、すでに慣れたようだ。
その舅殿を幕僚に加え、儂はどっしり構える。
基本方針を示すのが儂の仕事だ。
戦場で儂が指示をすると配下が混乱するから、戦場の総指揮は全てを占部氏時に任せている。
占部氏時は儂の軍配者といったところだろうか。
あとは参謀がいればいいのだが、宗像の家臣たちは勇猛な者は多いし、兵を率いることもできるのだが、謀略や戦略といったものには疎い。
小早川隆景が儂の家臣になってくれたらよかったが、すでにこの世にはないからな……。
大友の重臣たちが儂に仕えてくれることに淡い期待をするか。
「殿、越前守(土橋氏康)殿の騎馬鉄砲隊を敵の左翼に当てまする」
占部氏時の提案に、頷く。
すぐに土橋氏康が陣を出ていく。
その顔には、獲物を狙う猛禽類のごとく冷徹な笑みを浮かべていた。
半刻(1時間)ほどすると、敵左翼が崩れた。
土橋氏康の騎馬鉄砲隊による一撃離脱斉射が3度に渡り行われ、兵が逃げ出したのだ。
「殿。鉄鬼兵を突撃させます」
「うむ」
鉄鬼兵とは、儂がネタで配備したフルプレートメイル隊だ。
兵員500が全て重厚なフルプレートメイルを着込んでいる。
もちろん、常備兵の中からパワーとスタミナに優れた者たちが集められた集団で、重いフルプレートメイルを着込んでも戦い続けることができる。
鉄鬼兵のフルプレートメイルは漆黒に塗られており、足軽には2本の角、伍長には3本の角、足軽小頭以上には4本の角が兜についている。
鉄鬼兵が地面を踏み鳴らす。
地獄から這い上がってきたような漆黒の軍団が近づいていくことに、隈部・阿蘇勢の兵は恐怖した。
「な、なんだよあれは!?」
「お、鬼だ! 鬼が出たぞ!」
「「「うわぁっ、逃げろぉぉぉっ」」」
隈部・阿蘇勢は鉄鬼兵の姿を見て逃げ出した。
おかげで、鉄鬼兵はほとんで槍を振ることなく、この戦いは決着した。
「逃んじゃねぇーよ……」
「それな」
不完全燃焼の鉄鬼兵らは、逃げる隈部・阿蘇勢の背中を見つめる。
せっかく戦えると思ったのに、と誰かが漏らす。
追撃は騎馬鉄砲隊や通常装備の者たちが行った。
鉄鬼兵は追撃戦には向かないのだ。
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