第28話 別れ
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第28話 別れ
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門司城を囲んで5日。
陣借りも含めると、10,000を超える兵数になった。
暑い日が続く。
小早川隆景は門司城に籠り、出てこない。
儂は斥候を周囲に放ち、敵の奇襲に備える。
「何も、ないか」
小早川隆景の思惑が分からん。
だが、ここで睨めっこをしているのは気に入らん。
「殿。城攻めの下知を」
吉田兼致の言葉に頷く。
「木砲による攻撃をしかけよ」
「はっ!」
儂の指示で皆が動き出す。
四半刻もすると、木砲による砲撃音が激しく鼓膜を揺らす。
腹の底に響く轟音だ。
見上げる門司城からは、土煙が立ち上っている。
伝令が駆けこんできて、大手門を破壊したと報告していく。
尚も砲撃が続く。
これも多量の火薬を作っているからできることだ。
さらに四半刻ほどしたか、味方が門司城に突入したと報告がある。
激しい攻防が城内で繰り広げられ、ひっきりなしに伝令が駆け込んでくる。
小早川隆景配下の武将たちを討ち取ったという報告が多い。
肥前侵攻時も思ったが、人が人を殺す。
それを儂が命じている。
重圧に圧し潰されそうになるのを、歯を食いしばって耐える。
こんなことで潰れていては、九州の覇王になどなれない。
そこに別の伝令が駆けこんできた。
「豊後方面より船団が接近! 吉原源内左衛門様、これを迎え撃たんと出撃」
豊後から? 若林水軍か?
だが、若林水軍は毛利水軍との戦いで半壊したはず。
もう立て直してきたのか?
そして、正三が陣に入ってくる。
「秋月殿、兵3,000を率いてこちらに向かってきておおります」
「……そうか」
幕僚たちが騒ぐが、儂は扇子で膝を叩くと黙った。
「慌てるでない」
儂は皆を睨みつけるように見渡す。
「弾正(吉田兼致)よ、秋月の参戦は、聞いておるか?」
「まったく」
「ならば、敵の援軍と判断するべきか」
「そうかと」
「ふむ……。右馬助(占部氏時)よ、常備兵2,000を与える。秋月を撃滅せよ」
「承知!」
占部氏時が甲冑を鳴らし、陣を出ていく。
「皆の者、秋月の裏切りは残念だが、今は門司城だ。よいな」
「「「はっ!」」」
マジか。
なんで秋月が裏切るんだよ!
今年は芽衣に子も生まれたんだぞ!
くそ……。
「殿。立花山城に伝令を」
「……そうだな。弾正忠、伝令を送っておいてくれ」
「はっ」
その1刻後、門司城が落ちた。
籠城していた城兵は、木砲の砲撃に恐れおののき戦意を失っていた。
それでも小早川隆景は兵を鼓舞し、最後まで抵抗を続けた。
門司城に入った儂は、首になった小早川隆景と対面した。
秋月が儂を裏切ることで挟撃を考えたようだが、その秋月も占部氏時率いる常備兵2,000によって撃退された。
さらに海上でも貞安が豊後方面からやってきた船団を撃破。
この船団は予想通り若林水軍だった。
どうやら大友と毛利が手を結んだようで、小早川隆景は豊後の生領地を大友に返還している。
それなら儂に企救郡を割譲すればよかったものを……。
門司城だけは手放せない、そういうことか。
毛利元就の欲のおかげで、若い小早川隆景は死んだ。
老害でしかないな。
「小早川殿の遺体は、丁重に葬ってやれ」
その後、儂は軍を分けた。
常備兵3,000を占部氏時に率いらせ、山岳地帯が多い内陸部に進軍させた。
百姓兵と陣借りの5,500は吉田兼致に率いらせ、沿岸部を進軍させる。
儂は後方から指示を出す係だ。
永禄2年11月。
豊前全域と、豊後の国東郡、速見郡を平定。
さらに秋月の筑前鞍手郡、豊前田川郡、豊後玖珠郡と日田郡を押さえると、秋月から降伏の使者がやってきた。
使者は板並左京亮忠成。
秋月家の重臣だ。
「秋月はなぜ裏切ったのか」
儂はそれが知りたい。
芽衣との間に嫡男鍋寿丸が生まれ、宗像と秋月の婚姻同盟は固いものだと信じていたのだ。
「竜福寺殿(大内義隆)様がご存命の折より、毛利殿とは友誼がありましてございます」
長いつき合いと言えばそうだが、娘婿を裏切るほどのものか。
それに約束を破ったのは、毛利だ。
それを棚に上げて毛利に加勢するなんて信じられない。
「そうか……」
起こってしまったことは仕方がない。
儂はこれからのことを考えなければいけない。
「降伏は受け入れる。条件は、当主長門守(秋月文種)の隠居、家督は左兵衛尉(秋月種実)に譲ること。秋月には上座郡と下座郡のみを残す。また、長門守とその妻子は立花山城下の屋敷で過ごすこと。以上だ」
板並忠成は顔を真っ青にした。
当主秋月文種の命は取らないが、領地を大幅に削られる。
すでに多くの領地を失っているのに、さらに削られるのだから、簡単に受け入れられるものではないだろう。
だが、これを受け入れられないのであれば、秋月が滅ぶまで攻めることになる。
一度は縁を結んだ家だから、温情を与えていると分かってほしい。
また、秋月文種には秋月晴種という嫡子がいる。
しかし、この晴種ではなく、次男の種実に家を継がせることを条件にした。
これも秋月の家臣からしたら認められないことになる。
秋月家内は徹底抗戦派と降伏派で真っ二つに分かれたようだ。
家督にも口を挟まれ、残っていた穂波郡、嘉麻郡、夜須郡を削られるとは思っていなかったのだ。
上座郡と下座郡だけだと4万石もないだろう。
逆に穂波郡、嘉麻郡、夜須郡は10万石ほどになる。
信じられない沙汰だったのだ。
秋月文種が儂のところへやってきた。
「この首を差し出すますゆえ、嘉麻郡を残していただきたく……」
平伏する秋月文種を見つめる儂は、大きなため息を吐いた。
別に命がほしいわけじゃない。
儂に忠誠を誓ってほしいのだ。
秋月に嘉麻郡を残すことを認めた。
実は、嘉麻郡にかんしては元々残してもいいと思っていたのだ。
多くを言っておいて、譲歩して恩を売るのが目的だ。
もちろん、秋月文種の首など要らない。
家臣たちの手前、人質として立花山城下の屋敷で過ごしてもらうことにはなるが、それでいい。
さて、一番の問題は……。
「殿。秋月殿は離縁し、鍋寿丸殿は寺に入れるべきかと」
秋月の娘である芽衣を、正室のままにしておけない。
生まれたばかりの鍋寿丸を寺に入れろ。
家臣らは儂にそう迫ってきた。
儂は当主として絶対的な権力を握っているが、それでも家臣の意見を無視するわけにはいかない。
泣く泣く芽衣を離縁し、秋月文種と共に城下の屋敷に住まわせ、鍋寿丸は7歳になったら寺に入れることで、芽衣に預けた。
これが儂にできる精一杯だった。
ご愛読ありがとうございます。
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