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九州の覇王  作者: 大野半兵衛


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第10話 立花の動きが怪しい

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 第10話 立花の動きが怪しい

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 天文23年7月。

 豊後の大友義鎮(後の宗麟)が、肥前守護に任じられた。

 龍造寺は大内の後ろ盾がなくなり、名目上だけ膝を屈したように見せた。

 大友義鎮は配下の蒲池が支援し、龍造寺が肥前に復帰できたから感謝しているだろう。

 そんな甘いことを考えているんだろうな。

 もちろん史実を知っている儂は、龍造寺がこのまま終わるとは思っていない。

 そんなある日のことだった……。


「殿」


 聞こえるか聞こえないか、微妙な声。

 それでいてちゃんと聞こえる声。

 ジイ様の伝手で家臣になってくれた、葉隠の棟梁だ。


「正三か、どうした?」


 儂の部屋のそばには、基本的に船千代丸以外いない。

 その船千代丸がまったく気づいていない。

 天上の隙間からヒラヒラと紙が落ちてくる。

 それを空中で掴み、内容を読む。


『立花山城、立花鑑光出兵の兆し』


 我が宗像と領地を接する立花氏。

 あの有名な立花道雪ではない。

 道雪は今の立花氏から立花姓をむしり取っただけで、元々は戸次姓だ。

 史実では、大友の筑前支配には欠かせない大事な土地を押さえている立花氏は、一度は大友に降ったが立花鑑光が殺されて反旗を翻す。

 どっちが悪いかまでは知らん。

 勝ったほうが負けたほうを一方的に悪者にしていることはいくらでもあるから、信用はしてないし、そこまで細かいことは知らない。


「宗像の富に目が眩んだか」


 こうなることは予想していた。

 宗像はこれまでの比ではない、明らかに大きな銭を動かしている。

 それを知れば、宗像の富を奪おうと考える人が出てきてもおかしくはないのだ。


 件の立花氏は、商人の町博多に接する領地を持つ。

 宗像に富が流れていると、噂くらいは知っていてもおかしくない。

 宗像と立花を比べると、国力はそこまで差はない。

 向こうのほうが少し上なくらいだ。

 だが、博多の商人を脅せば銭を出させることは可能。

 その銭で兵を集めることも可能だ。


「引き続き、探ってくれ」

「はっ」


 正三の気配はまったく掴めない。

 さすがだ。


「船千代丸」

「はい」

「直ちにジイ様と重臣らを呼んでくれ」

「承知いたしました」


 呼んですぐくるものではない。

 1刻半(約3時間)後に皆が集まった。

 皆がこの城の中で仕事をしているわけじゃないから仕方がない。


 俺が広場に入ると、重臣らが頭を下げて迎えてくれる。

 当主席に座り、重臣らをの頭を見渡す。

 ジイ様も俺の横で軽く頭を下げている。

 気持ちいいよね、この瞬間。


「面を上げよ」


 重臣らは急な招集に、何事かといった顔を向けてくる。


「単刀直入に言う。立花が兵を集めておる」


 空気がズンッと重くなった。


「目標は宗像の富、であろう」

「戦、にございますな」

「その通りだ、弾正忠(吉田兼致)」


 兼致は筆頭の家臣。

 ジイ様ほどではないが、銭勘定が得意だ。

 もちろん兵を率いてもそこそこやってくれる。


「ガハハハ! 腕が鳴りますな!」

「右馬助(占部氏時)、期待しているぞ」


 軍奉行である氏時は、豪快な性格でありながら細かい仕事もできる稀有な存在だ。


「立花なら1,500は出してきましょうな」

「最低でも1,500は見ておかねばならぬな、三河守(許斐氏任)」


 神宮奉行である氏任は、戦には出ずに留守居や後方支援が主な任務になる。


「1,500だろうと2,000だろうと、今の宗像には敵いますまい」

「油断はするな、越前守(土橋氏康)」


 常備兵を鍛えているのが氏康になる。

 毎日の山岳マラソンと筋トレ、そして武術訓練をこなす常備兵は、ゴリゴリのヤツらばかりになっている。

 現在は700人まで増やしたが、200人はまだ新人だ。


「して、当方の陣容は」


 傅役の貞安の問に、俺は頷く。


「常備兵のみを出す。鉄砲の扱いは、越前守が一番よ。鉄砲隊100は、お主が率いよ」

「はっ」

「主力300は右馬助、そなたが率いよ」

「応!」

「本体100は儂」


 その瞬間、皆から剣呑なものを感じた。

 元服もしていない儂が戦場に出るのは認めないぞという圧だ。


「と言いたいところだが、弾正忠に任せる」

「はっ。お任せくだされ」


 剣呑さが消える。

 こいつらこえーよ。


「三河守は新人常備兵100を率い、輜重隊を指揮せよ」

「はっ!」

「貞安は儂と城で留守居だ。必要に応じ、貞安には残りの新人常備兵100を率いて援軍に出てもらう」

「承知」

「ジイ様も俺のそばで待機だ。いいな」

「承知しておる」

「うむ。では、皆の者。立花を撃退してこい」

「「「ははぁぁぁ!」」」


 宗像500対立花1,500。

 戦力差は3倍。

 だが、常備兵はこの日のために鍛え上げてきた。

 乱戦になっても伍は連携して動けるように、徹底して訓練を行ってきた。

 伍というのは、5人1組の部隊のことだ。

 乱戦になると、どうしても大将の指示が届きにくくなる。

 だから伍長が配下の4人を指揮して戦う。

 この仕組みは広く日ノ本で使われている軍の制度だ。


 翌日には、各人が武装して兵を率いていく。

 あと数日で7月も終わるという日である。

 常備兵は徴兵する必要がないので、すぐに動けるのが特徴だ。

 立花が徴兵している間に、こちらは兵を動かせる。とはいえ、こちらから攻めるわけにはいかないので、許斐岳城に入ってもらう。


 立花勢が攻めてくるなら、最前線は許斐岳城の支城の飯盛山城になる。

 飯盛山城が攻められた瞬間に、許斐岳城から打って出てもらう。

 これで、戦をしかけたのは立花で、宗像は防戦しただけという名目ができる。

 向こうが先に手を出したのだから、今後宗像が立花を攻めても文句を言われる筋合いはないわけだ。

 もちろん、立花がこちらにこない可能性もあるが、かなり低いだろう。


 今回は防戦だ。

 儂が本格的に動くのは、13歳になってから。

 それまでに、攻勢に出られる体制を整えるのが、今の俺のミッションだ。



ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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