第百九十五話「裏口の寒さと、姫殿下の『手袋の約束』」
その日の夜、王城の裏口にある、使用人や納品業者が使う通用門の周囲は、冬の冷たい風が吹き付け、最も寒く、孤独な場所だった。
王城の誰もが、通用門を守る衛兵の地味な責に、注意を払うことはなかった。彼らの仕事は、派手な外交や騎士の訓練とは違い、常に影の中にあった。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、その通用門へ向かった。彼女は、衛兵たちが、誰も見ていないところで、寒さと、自分の仕事の無名さに耐えていることを、敏感に感じ取っていた。
「ねえ、モフモフ。この門はね、みんなの安全を守ってるのに、『ありがとう』って言ってもらえないから、寒いんだよ」
彼女の「可愛い」の哲学は、「誰にも見られない場所で、最も努力している存在」への、深い尊敬へと変わっていた。
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衛兵が、門の鍵を点検していると、シャルロッテが、ごくシンプルな、白いウールの手袋を、そっと差し出した。
「ね、お兄さん。これ、つけて」
衛兵は、姫殿下の突然の訪問に驚き、恐縮した。
「ひ、姫殿下。私ごときにこんな……もったいのうございます!」
シャルロッテは、光属性と風属性の魔法を融合させた。彼女の魔法は、手袋に、「誰にも見られなくとも、この手は、国を守るために、温かい」という、静かで力強い祝福を与えた。
「ううん。この手袋はね、『誰も見ていないところで、頑張っている人』のためのものなの。ありがとう、って、わたしが言いたいからあげるんだよ」
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シャルロッテは、衛兵に、もう一つの約束をした。
「ね、お兄さん。この手袋、絶対に、誰にも自慢しちゃだめだよ。秘密の約束ね。誰も見ていないところで、一番温かいのが、一番可愛いんだよ」
それは、「人知れぬ献身」という、最も高貴な美徳を奨励する、シャルロッテ流の高貴なる者の義務だった。
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衛兵は、シャルロッテの純粋な心に感動し、手袋を受け取った。その日以来、衛兵は、その手袋を肌身離さず身につけ、寒さだけでなく、「自分の仕事は、姫殿下から認められている」という、内面の充実感で、門番の責務を果たした。
後日、アルベルト王子が、裏口の通用門の衛兵の士気が、驚くほど高いことに気づいた。
「おかしい。彼らは、誰にも注目されない仕事なのに、なぜ、これほどまでに満たされているのだ?」
アルベルトは、衛兵の手袋を見て、その裏に隠された、妹の「静かなる愛の奉仕」を悟った。
「シャルロッテは、目立たない場所に、最も強固な『愛の光』を灯したんだな」
シャルロッテの純粋な哲学は、王国の隅々にまで、「真の価値は、内面の誠実さにある」という、温かい真理をもたらしたのだった。




