第百八十九話「骸骨のサーカスと、王女の『錆びたメロディー』」
その日の午後、今は使われていない古い格納庫は、煤と油にまみれた、巨大な機械の墓場と化していた。天井の窓からは、薄汚れた光が、不規則に歪んだ鉄骨の影を床に投げかけ、すべてがモノクロームで荒廃した、世紀末のような光景を作り出していた。
そのガラクタの山の中に、一体の、骨格だけが残ったような、奇妙な小さい道化師の人形が、転がっていた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、その道化師の前に立った。道化師は、顔の塗料が剥がれ落ち、眼窩が大きく、深い孤独を湛えている。しかし、シャルロッテの目には、その異形な骸骨の中に、「誰かを笑わせたい」という、無邪気で切実な願いの魔力が、まだ宿っているのが見えた。
「ねえ、モフモフ。この道化師さんから、忘れられた夢の匂いがするよ」
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シャルロッテは、その道化師を抱き上げ、荒廃した格納庫全体を、「最後の、即興サーカス」の舞台にすることにした。
彼女は、風属性魔法と土属性魔法を応用した。彼女の魔法は、床に散乱したネジや、錆びたワイヤーを、まるでクレイアニメのように、ユーモラスで、ぎこちない動きで、踊り始めた。ワイヤーは、不規則なリズムで跳ね、ネジは、パーカッションのような甲高い音を立てた。
その音は、荒廃した空間で、滑稽で、しかし切ない、懐かしいメロディーを奏で始めた。
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そして、シャルロッテは、片腕のない道化師の人形を、ガラクタの山の頂上に置いた。
彼女は、光属性と変化魔法を融合させた。彼女の魔法は、人形に鮮やかなショッキングピンクと、ターコイズブルーの、光のパッチワークを纏わせ、顔の剥がれた部分に、笑顔の光のメイクを施した。
道化師は、一瞬にして、荒廃の象徴から、無邪気な生命の象徴へと変貌した。その光の笑顔は、格納庫の闇を打ち破る、強烈な原色の光を放った。
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その光景を見ていた、フリードリヒ王子は、妹の許に駆けつけた。彼は、この「醜さと美しさの倒錯的な融合」に、心を打たれた。
「シャル! これは、単なる魔法ではない! 君は、ガラクタに、最も美しい『存在の価値』を与えたんだな!」
シャルロッテは、道化師の光る手を握り、兄に説明した。
「ね、兄様。壊れてるって、恥ずかしいことじゃないよ。壊れて、だって『誰かに、直してほしい』って、お願いできるんだもん。そう、みんな完璧じゃないから、可愛いの!」
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うたかたの演奏が終わると、光の衣装は消え、道化師は再び、錆びた骸骨に戻った。しかし、その眼窩の奥には、愛された記憶という、温かい光が残されていた。
フリードリヒは、妹の愛の哲学に、深く感動した。彼は、道化師の人形を、ガラクタの山から降ろし、丁寧に抱きしめた。
シャルロッテの純粋な慈愛は、荒廃と異形の美学の中に、「不完全さこそ、愛の真実である」という、究極の希望をもたらしたのだった。




