第百八十五話「銀の櫛と、秘密の鏡の『交換された宝物』」
その日の午後、王城の仕立て屋「銀の針」の主人ヨハンは、極度の悲嘆に暮れていた。彼が、長年の夢であった**「王妃への献上ドレス」**を完成させた矢先、不運な事故で、ドレスの最も重要な部分である、王家の紋章を織り込む特殊な『魔法の針』を折ってしまったのだ。
ヨハンは悲嘆にくれた。
「ああ、この針は、普通の針ではない。王妃様への献上品の紋章を、『真の王家の魔力波動』で織り込むための、古来の儀式的な道具なのだ。これを折るということは、私の技術が足りなかっただけでなく、王妃様の美の戴冠という最高の儀式に、穢れを持ち込んでしまったことになる! ああ、私は、王妃様に、最高の愛ではなく、最大の恥をかかせてしまう! なんということだ!」
彼は、王妃への献身を尽くしたからこそ、その完璧さの崩壊に絶望していた。
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シャルロッテは、ヨハンに、母エレオノーラ王妃から贈られた、愛用の『金の櫛』*を差し出した。
「ね、ヨハンさん。わたしのこの櫛は、ママの愛が詰まっているよ。この櫛を使って、魔法の針を作って?」
「いけません、姫殿下。そのように大切なもの、この老いぼれが受け取るわけには……!」
ヨハンは、王女の大切な櫛を受け取ることを頑なに拒否した。
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その日の夜、シャルロッテは、ヨハンの工房に忍び込んだ。彼女は、「最も大切なもの」を犠牲にして、愛と誇りを救うことをすでに決意していた。
シャルロッテは、折れた針の破片に、光属性と変化魔法を応用した。彼女は、櫛の柄に込められた母の愛の魔力を、全て引き出し、折れた針の破片に、一点集中で流し込んだ。結果、針は、元の何倍も強靭な、「愛の魔力合金」の針へと再生した。しかしその代償として、シャルロッテの金の櫛は、ただの真鍮の櫛へと変わってしまった。
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翌朝、ヨハンは、奇跡的に再生された「魔法の針」を見て、激しく動揺した。
「な、なぜだ!? この針は、物理的な力では直せないはず! まさか、夜中に、姫殿下の魔法が……?」
ヨハンは、針の柄に残る微かな、七色の光の粒子(※シャルロッテの魔力色)と、失われたはずの王女の金の櫛の台座を見て、すべてを悟った。彼は、王女の無私の献身に、涙を流した。彼は、王女への感謝と畏敬の念を胸に、最高の刺繍を完成させた。
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王妃エレオノーラは、その日の晩餐で、ヨハンからドレスを受け取った。そして、娘の部屋を訪れた。
「シャル。あなたが、自分の金の櫛を、その美しいドレスのために、犠牲にしたと聞きました」
「お母さま、どうして……?」
「シャル。あなたは、なぜ、私が真実を知ったか、不思議に思っているでしょう?」
王妃は、娘の手を握った。
「あの金の櫛はね、私があなたに初めて治癒魔法を教えた時の記念に贈ったものよ。私は、あなたの魔力の波動を知っている。夜中に、あなたの櫛から、『自己犠牲』という名の、強く、切ない魔力の波動が、一気に放出されたのを、感じたわ」
エレオノーラは優しく微笑んだ。
「あなたの魔法は、私に、『娘が、誰かの愛のために、全てを捧げた』という、最も美しい真実を伝えてくれたのよ」
王妃は、涙を流しながら、娘の自己犠牲的な愛に、心から感謝した。そして、彼女は、娘が失った宝物以上の、「母の愛と、最高の幸運」という、二重の報いを与えた。
「あなたの愛は、物の価値よりも、愛という名の、新しい宝を生み出したのよ。それは誇るべきことだわ」
「お母さま……」
ふたりは静かに抱き合った。ただモフモフのがその美しい親子愛の証言者になったのだった。




