第百八十六話「古びた小屋と、姫殿下の『人質ごっこ』」
その日の夜、城下町の外れにある、廃墟同然の古びた小屋は、異様な空気に包まれていた。そこには、間抜けな二人組の誘拐犯、ガスとフリッツが潜伏していた。彼らは、巨額の身代金を目当てに、シャルロッテ姫殿下を誘拐したのだ。
「やったぞ、フリッツ! これで俺たちは、贅沢に暮らせるぞ! これからは酒池肉林だ!」と、ガスは興奮気味に言った。
彼らの目の前には、パジャマ姿のシャルロッテ姫殿下が、モフモフを抱き、大きな瞳をキラキラさせて座っていた。
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しかし、誘拐されたシャルロッテは、全く泣きも騒ぎもしなかった。
「わあ! この小屋、秘密基地みたい! 可愛い! 私ね、人質ごっこが、ずーっとしたかったの!」
シャルロッテは、その薄汚れた小屋を、「特別な、秘密の遊び場」と認定した。彼女の「可愛い」への追求は、誘拐犯の計画を、一瞬で「ごっこ遊び」へと変貌させたのだ。
「ね、おじさんたち! 今日はね、『泥棒さんと、可愛い姫の、お茶会ごっこ』をしましょう!」
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翌日から、ガスとフリッツの地獄の日々が始まった。
睡眠の強奪:シャルロッテは、夜中に起き、「お星様とモフモフのティーパーティー」を開くと言い出し、二人の顔に、黒いインクで、可愛いヒゲを描き、ティーパーティーの参加者に仕立て上げた。
食事の儀式:朝食のパンを食べるときも、「これは、『勇気の出る魔法のパン』だから、五分かけて、真ん中から優雅に食べるのよ!」という、非論理的なルールを強制した。
変身の魔法:シャルロッテは、変化魔法を応用し、小屋の中にあったボロ布を、次々とフリルとリボンに似せた「変な衣装」に変え、二人に着せようとした。ガスとフリッツは、抵抗するが、シャルロッテの「着てくれないと、悲しい」という純粋な涙に、根負けし、屈辱的な衣装をその身に纏った。ちなみにシャルロッテは「とっても可愛い!」とご機嫌だった。
いずれもシャルの魅了魔法によって二人は逆らえなくなっていた。
二人の心は、身代金への期待よりも、「この子を、元の家に返したい」という、切実な願いに満たされていくようになった。
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三日目。ガスは、疲労困憊で、フリッツに囁いた。
「フリッツ。もうダメだ。俺たちの命の方が、この子に奪われる! この子を、タダで王城に返そう!」
「いやっ! シャルはもっとここで遊ぶんだもん!」
「もう勘弁してくれ! ガス、身代金どころか、俺たちが王家に身代金を払ってでも、この子を解放してもらおう!」
二人は、王城に、「身代金は不要、代わりに、我々が金貨を払うので、姫殿下を引き取ってください」という、間抜けな手紙を送った。
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王城からの返信は、すぐに届いた。
ルードヴィヒ国王は、娘の身の安全よりも、誘拐犯の心の状態を心配した。それはシャルのことをよく知るルードヴィヒならでは反応だった。
「私の娘が、あなた方に、どれほどの迷惑をかけたのか、察するに余りある。しかし、愛の交換は、成立している。金貨は不要だ。その代わり、娘があなた方に贈った『愛らしい教訓』を、生涯忘れないように」
国王は、騎士団に命じ、ガスとフリッツを罰することなく、安全に解放した。
古びた小屋の前で、シャルロッテは、二人に満面の笑顔を向けた。
「ね、おじさんたち。人質ごっこ、楽しかったよ! また、遊んでね!」
ガスとフリッツは、涙ぐみ、こう叫んだ。
「「もう結構です!!」」
しかし彼らは、この事件で金銭的な富ではなく、「愛という、最も貴重な教訓」を得たのだった。




