第百八十三話「完璧な祝典と、王女の『七分の愛らしさ』」
その日の午後、アルベルト王子は、遠方の国の王族を迎えるための歓迎祝典の準備に、極度の集中力をもって取り組んでいた。彼は、王国の威信を示すため、祝典の全てを「完璧」にすることを目指した。
料理の配置、音楽の選曲、貴族の立ち位置、すべてが計算され尽くした、一分の隙もない、理想的な配置となっていた。
「いかん。このシャンデリアの角度は、0.5度だけズレている。完璧に直せ!」
アルベルトの追求する「完璧さ」は、周囲の使用人や貴族に、極度の緊張と疲労をもたらしていた。彼の目には、その「完璧さ」の追求が、人々の「幸福感」を奪っていることが、見えなくなっていた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、その完璧な準備の様子を見ていた。彼女の目には、その「完璧な祝典」が、息苦しい、冷たい仮面に見えた。
「ねえ、モフモフ。兄様、やりすぎだよ。これじゃ、みんな、笑い方だって忘れちゃうよ」
シャルロッテの哲学は、「完璧さの過剰さ」は、「愛の不足」と同じくらい、心を貧しくすることを知っていた。
シャルロッテは、アルベルト王子の隣に立ち、彼が苦心して配置した、完璧な位置にある、一輪の薔薇の花瓶を、そっと指一本分だけずらした。
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アルベルトは、その「不完全な行為」に、思わず声を荒らげた。
「シャル! 何をする! その0.5度のズレが、全体の調和を崩すのだぞ!」
シャルロッテは、兄の怒りを恐れることなく、にっこり微笑んだ。
「ううん、違うよ、兄様。これはね、『七分の愛らしさ』だよ!」
シャルロッテは、風属性と光属性を応用した。
「ね、兄様。完璧はね、十割の力で、誰にも隙を見せないの。でもね、愛らしいはね、七割の力で、『ちょっとだけ、隙を見せてあげる』のよ」
「隙がないと、誰も、『手伝ってあげよう』とか、『一緒に笑ってあげよう』って、思えないでしょう? 完璧すぎる祝典は、誰も入れない冷たい壁なんだよ!」
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アルベルトは、妹の言葉と、その愛らしい論理に、衝撃を受けた。彼は、自分の追い求めていた「完璧さ」が、周囲の優しさや、参加者の笑顔を拒絶するものになっていたことに気づいた。
彼は、妹の教えに従い、すぐに祝典のいくつかの配置を、わざと「七分の愛らしさ」が残るように、不完全な状態に戻させた。
その日の祝典は、アルベルトの「完璧な準備」と、シャルロッテの「七分の愛らしさ」が融合し、温かい笑いと、心からの感謝に満ちた、最高の場となった。
アルベルトは、妹を抱きしめ、心から感謝した。
「シャル。君は、私に、『過ぎたるは、愛なきが如し』という、最も大切な教訓を与えてくれた」
シャルロッテの純粋な哲学は、「過剰な努力よりも、愛の余白」が、真の豊かさをもたらすことを証明したのだった。




