第百七十九話「桜の古木と、王女の『平和の音符』」
その日の午後、王城の庭園にある、樹齢数百年の桜の古木の前に、シャルロッテは立っていた。桜は、既に花の時期を終え、葉桜の静かな緑を湛えている。しかし、シャルロッテの目には、その古木が、過去の、数多くの「戦争と平和」の歴史を、静かに見つめてきた賢者のような存在として映っていた。
彼女は、その古木の周りから、過去の悲しい記憶と、平和への切実な願いという、二つの相反する感情の魔力を感知していた。
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そこに、フリードリヒ王子が、新しい軍事パレードの計画書を持って、妹の元へやってきた。彼の計画は、最新の兵器と、騎士団の力強さを誇示するもので、「平和は、強大な力によってのみ守られる」という、彼の信念に基づいていた。
「シャル。見てくれ! このパレードは、王国をどれほど守る力があるか、他国に示すためのものだ。力こそが、平和への道だ」
フリードリヒの言葉は、強い決意に満ちていたが、シャルロッテは、その計画に、「力の誇示が、新たな争いの火種になる」という、危険な予感を覚えた。
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シャルロッテは、古木の前に、静かに膝をついた。そして、古木の、苔むした幹に、そっと触れた。
「ねえ、兄様。この木はね、大砲の音も、人々の笑い声も、全部聞いてきたよ。そしてね、この木が一番好きなのは、優しい風の音なんだって」
シャルロッテは、風属性魔法を応用し、古木の枝葉を、ごく微細な、しかし規則正しいリズムで揺らした。
そして、彼女の光属性魔法が、その揺らぎに合わせて、空気中に、七色に輝く、目に見えない「平和の音符」を創り出した。それは、「力」ではなく、「調和」と「生命の尊厳」を奏でる、静かで、叙情的な音楽だった。
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フリードリヒは、妹の創り出した「平和の音符」の美しさに、心を打たれた。彼は、自分の計画が、「相手を威圧する」という、暴力的な美学に基づいていたことに気づいた。
シャルロッテは、兄を見上げ、優しく言った。
「ね、兄様。本当の平和ってね、誰かに『怖い!』って思わせることじゃないよ。みんなが、この古木みたいに、優しく、静かに、微笑むことなの」
「だからね、パレードは、『力を誇示する』んじゃなくて、『この王国が、どれほど、愛に満ちているか』を見せてあげるものにしようよ!」
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フリードリヒは、妹の純粋な「平和の哲学」に、深く感動した。彼は、妹の言葉に従い、軍事パレードを、「最新の兵器」ではなく、「王立音楽隊と、子供たちの合唱団による、平和への賛歌」を中心とした、文化的な祭典へと、大胆に変更した。この決断は民草にも温かく迎えられた。
そのパレードは、隣国に、「エルデンベルク王国の真の強さは、その文化と、愛にある」という、最も強く、美しいメッセージを伝えた。
シャルロッテの純粋な愛は、「力の美学」を否定し、「平和の美学」という、普遍的な真理を王国にもたらしたのだった。




