第百七十八話「庭園のチェス盤と、王女の『八歩先の優しさ』」
その日の午後、王城の庭園で、アルベルト王子は、隣国の賢者との「王国の未来を賭けたチェス」に挑んでいた。対局は、局面が複雑になり、アルベルトは、勝利への執着から、自分の視野が狭くなっていることに気づけずにいた。
彼は、「次の最善の一手」を探すことに没頭し、チェス盤の「遠い隅」で起こっている、相手の巧妙な布石を見逃していた。
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対局の周りには、マリアンネ王女、フリードリヒ王子、そして多くの貴族たちが集まり、静かに見守っていた。彼らは、チェス盤の上で繰り広げられる、緻密な論理の戦いに心を奪われていた。
しかし、その中で、シャルロッテは、モフモフを抱き、チェス盤から少し離れた芝生の上に座っていた。彼女の目には、チェス盤上の駒だけでなく、アルベルト王子の顔の、わずかな「焦りの影」と、対局相手の賢者の「隠された意図」が、はっきりと見えていた。
「ねえ、モフモフ。兄様は、目の前の駒しか見てないよ。でもね、チェスの世界は、もっと広いの」
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シャルロッテは、チェス盤の前に立とうとはしなかった。彼女は、「当事者になると、愛と焦りで見えなくなる」という、人間の限界を理解していたからだ。
彼女は、芝生の上から、風属性魔法をごく微細に応用した。彼女の魔法は、チェス盤の上を吹く風の向きを変え、アルベルトの視界に、ごく一瞬だけ、チェス盤の「八歩先」にある、遠い隅の駒を、鮮明に意識させた。
アルベルトは、その一瞬の風の動きと、視界の鮮明さに、ハッとした。
(しまった! 私が注視していたのは、中央の戦いだけだったが、盤上の隅で、相手は既に『遠隔の包囲網』を敷いているではないか!)
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アルベルトは、直感的に、妹の魔法が、「当事者の盲点」を克服させてくれたことを悟った。彼は、次の瞬間、「八手先の優しさ」とも言うべき、勝利を確定させる、誰も予想しなかった一手を打った。
対局は、アルベルト王子の鮮やかな勝利で幕を閉じた。
賢者は、敗北を認め、アルベルトに尋ねた。
「王子殿下。あの時、あなたを動かしたあの『風』は、何だったのですか?」
アルベルトは、芝生に座る妹を振り返り見た。
「それは、私の心臓の音を聞いている、王国の最も純粋で可愛い賢者の知恵だ」
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マリアンネ王女は、妹の行動を「客観的視点の導入」と分析し、感動した。
「シャルロッテは、愛という名の、最も純粋な『風』だわ。当事者の熱狂の外から、真理を教えてくれる……」
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、八手先まで、みんなが笑えるように、優しく見守ってあげるのが、一番可愛いもん!」
シャルロッテの純粋な愛は、「当事者の焦り」という盲点を克服し、「俯瞰と優しさ」という、最高の戦略をもたらしたのだった。




