第百七十三話「午後の日差しの沈黙と、王女の『いねむり結界』」
その日の午後三時、王城のテラスは、暖かく、平和な午後の日差しに包まれていた。シャルロッテは、家族と共に、お気に入りの苺のショートケーキとホットチョコレートを堪能した後、テラスの大きなソファに座っていた。
モフモフは、シャルロッテの膝の上で、既に眠りについている。
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シャルロッテの大きな翠緑の瞳が、ゆっくりと、しかし確実に、その焦点を失っていった。満足感と、太陽の温かさ、そしてホットチョコレートの優しい魔力が、彼女を深い眠りへと誘っている。彼女の小さな頭が、クッションに、ごく微細な傾きをもって、そっと沈んだ。
その瞬間、テラス全体に、言葉にならない、静かな緊張感が走った。王族全員が、「音を立ててはならない」「この愛らしい瞬間を守らねばならない」という、一つの共通の使命感に駆られたのだ。
ルードヴィヒ国王は、隣のエレオノーラ王妃と、目だけで合図を交わし、手に持っていた優雅なティーカップを、音を立てないよう、細心の注意を払ってソーサーに戻した。
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アルベルト王子は、執務用の書類を読んでいたが、妹の寝息が聞こえた途端、風属性魔法をごく微細に応用した。彼の魔法は、テラスの周囲の空気の流れを操作し、微細な埃や、外部の騒音が、妹の元に届かないよう、空気の防御壁を創り出したのだ。
フリードリヒ王子は、テーブルの隅に置かれた、硬質な銀製のフォークが、光を反射しているのを見た。彼は、そのフォークが、万が一にも滑り落ちて音を立てないよう、土属性魔法を応用し、フォークを皿に、ごく微弱な、しかし確実な力で固定した。
マリアンネ王女は、ペンを握ったまま、妹の寝顔を解析し始めた。彼女の解析は、「最高の幸福感が、脳の全ての活動を休ませている」という、愛に満ちた結論を導き出した。彼女は、妹の寝顔を、そっとスケッチし始めた。
イザベラ王女は、自分の美しいドレスの絹の衣擦れの音さえも気になり、優雅な姿勢を保ったまま、ごく微細な、動きすら封じたのだった。
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シャルロッテは、彼らの過剰なまでの沈黙と愛を知る由もない。
彼女の膝の上では、モフモフが、姫殿下の深い眠りに呼応するように、究極のふわふわ状態となり、静かな安息の魔力を放っていた。
テラスの午後の日差しは、時間さえも止まったかのように、静謐な愛の光に満ちていた。その光景は、王族の権威や、国の重責を超えた、「家族の愛」という、最も純粋な宝の姿だった。




