第百七十二話「地下水路の迷宮と、姫殿下の『静かなる傾聴』」
その日の王城は、原因不明の「水の流れの不調」に悩まされていた。噴水の水圧が弱まり、浴場の湯の温度が不安定になり、生活用水の供給が、微妙な狂いをきたしていた。
マリアンネ王女の解析では、治水システムを動かす魔導ポンプや水脈に異常はない。しかし、彼女は、システム全体から、「疲労」と「無力感」の、静かな魔力波動を感じ取っていた。
「おかしいわ。システム全体が、まるで生き物のように、『もう動きたくない』と訴えているようだわ」
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シャルロッテは、モフモフを抱き、王城の地下深くに広がる、巨大な石造りの治水システムの迷宮へと降り立った。冷たい水が流れ、湿った空気が満ちる、無機質な空間だ。
シャルロッテの目には、その治水システム全体が、「王国という重い体を支え続けることに疲弊した、巨大な一匹の生き物」として映っていた。
「ねえ、モフモフ。この水路さん、『ありがとう』って言ってもらえないから、悲しいんだよ」
シャルロッテは、システムが、誰にも感謝されず、「ただ動くこと」という義務を課され続けた結果、精神的に疲弊していることを理解した。
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シャルロッテは、システムの中で、最も長く、そして最も重要な役割を担う、巨大な水門のレバーの前に立った。そのレバーは、冷たい金属の感触で、「無言の奉仕」という重みを背負っている。
シャルロッテは、レバーに、光属性と土属性の魔法を融合させた。
彼女の魔法は、レバーの金属の分子構造に、「感謝の波動」を送り込んだ。それは、「あなたは、この王国で、最も尊い仕事をしている」という、純粋な肯定のメッセージだった。
そして、シャルロッテは、レバーに触れ、水属性魔法を応用し、水門全体に、温かく、七色に輝く「愛の光」を流し込んだ。
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その瞬間、治水システム全体が、まるで長年の眠りから覚めたかのように、力強い駆動音を立てた。噴水の水圧は回復し、浴場の湯は再び温かさを取り戻した。
マリアンネ王女は、解析装置の表示を見て、驚愕した。
「信じられない! システム全体が、『生への喜び』という、新しい魔力パターンで動き始めたわ!」
それは、シャルロッテの純粋な愛が、無機質なシステムに、「存在意義」という、最も尊い感情を回復させた証拠だった。
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その日の夜、アルベルト王子は、妹の「無機質なものへの愛」という哲学に感銘を受けた。
「シャル。君は、この国の見えない基盤に、魂を与えた。真の統治とは、人だけでなく、システム全体に、愛と感謝という名の『生命』を与えることなのだな」
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、みんなみたいに水路さんも、みんなから『ありがとう』って言われたいんだもん!」
シャルロッテの純粋な愛の力は、王国の見えない基盤に、永遠の温もりをもたらしたのだった。




