第百六十七話「古時計の止まった広間と、姫殿下の『明日の約束』」
その日の午後、王城の誰も使わない、古い広間は、薄暗い、憂鬱な空気に満ちていた。広間の隅に置かれた、巨大な振り子時計は、長い間、動くことをやめていた。その止まった時計が、この空間に、「何も起こらない、単調な時間」という、重い虚無感を漂わせていた。
広間の窓辺には、数名の古参の貴族が集まり、「人生の過ぎ去った日々」や「叶わなかった夢」について、静かに語り合っていた。彼らの会話には、希望がなく、ただ「過去への静かな諦念」が漂っていた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、その広間を訪れた。彼女は、広間を満たす「夢の終わり」という、冷たい感情の波動を感知した。
「ねえ、モフモフ。この部屋、時計さんが、悲しくて動けないんだよ」
そこに、マリアンネ王女が、妹を迎えにやってきた。マリアンネもまた、自身の研究テーマの困難さに直面し、知性の限界という、一種の虚無感を抱えていた。
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シャルロッテは、古い振り子時計の前に立った。時計の針は、午後三時を指したまま、動かない。
シャルロッテは、時計の文字盤に、そっと手を触れた。
「時計さん。動かなくていいよ。だって、明日は、また来るんだもん」
シャルロッテは、時間魔法を応用した。しかし、彼女の魔法は、時計の機構を修理したり、時間を動かしたりはしなかった。彼女の魔法は、時計の文字盤に、「明日の午後三時」という、具体的な未来の景色を、光の幻影として映し出した。
幻影の中で、明日の午後三時、広間には、色とりどりの花が飾られ、子供たちの笑い声が響き、誰もが活き活きと語り合っている。それは、今日という日の単調さとは対極にある、鮮やかな希望に満ちた未来だった。
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古い貴族たちは、その幻影を見て、息を飲んだ。彼らが語っていた「過去の美しい思い出」よりも、「まだ訪れていない、愛に満ちた未来」の方が、遥かに現実味を帯びて、彼らの心を打った。
「ああ……、まだ、私たちにも、明日があったのだな」
彼らの心の中に、再び、「生への渇望」という、熱い感情が湧き上がった。
マリアンネ王女は、妹の魔法が、「過去への執着」と「未来への諦念」という、人間の精神的な病を、一瞬で癒やしたことに、驚愕した。
「シャル。あなたは、私たちに、『希望は、具体的な未来のイメージの中にこそ宿る』という、最も大切な教えをくれたわ」
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シャルロッテは、時計ににっこり微笑んだ。
「ね、時計さん。動かなくても、大丈夫だよ。明日のほうが、私たちを迎えに来てくれるから!」
古い振り子時計は、相変わらず止まったままだったが、その文字盤には、「希望という名の、動く未来」が映し出されていた。
その日の広間は、静かな憂鬱から解放され、温かい、希望の光に満ちた場所となったのだった。




