第百六十五話「王妃の首飾りの謎と、王女の『錯覚の論理』」
その日の夜、王城の舞踏会は、過剰な光と装飾で賑わっていた。しかしそこである事件が起きた。優雅な喧騒の中、エレオノーラ王妃の身につけていたはずの、王家代々の秘宝である巨大な真珠の首飾りが、忽然と姿を消したのだ。警備は厳重で、外部犯の侵入は不可能。誰もが、不可解な密室の謎に頭を悩ませていた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、現場となった舞踏会場の中央に立った。彼女は、この事件が、「闇の魔法」ではなく、「人間の感覚の、単純なトリック」によって起こされた、一種の「巨大な手品」であるとすでに気づいていた。
「ね、パパ。誰も真珠なんか盗んでないよ。失われたのは、物ではなく、人々の感覚なんだよ」
シャルロッテは、光属性と闇属性の魔法を融合させた。
「見て!」
シャルロッテが魔法を発動させると、会場のシャンデリアの光が、ごく微細に、しかし決定的に、揺らでいることを露呈した。その揺らぎは、周囲の貴族たちの目に、「王妃の首飾りの周りの光だけが、一瞬、完全に消滅した」という錯覚を与えた。その一瞬の闇によって、人々は、首飾りが「存在しないもの」と認識してしまったのだ。
「人はね、見たいものだけを見て、見たくないものは消しちゃうの。だから、消えたように見えただけだよ!」
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シャルロッテは、そのトリックの背後にある、仕掛けの愛らしさに気づいていた。その犯人は、王妃の側近貴族、老伯爵ディートリヒだった。
老伯爵は、王妃の真の、内面からくる美しさを深く敬愛していた。しかし、彼は、今日の舞踏会の過剰な光と、首飾りの豪華さが、王妃の「純粋なエレガンス」という本質を覆い隠していることに、深く悲嘆していたのだ。
彼は、「この華美な喧騒の中では、王妃の真の美しさは見えない。一度、象徴を消し、静寂の中で王妃の美しさを際立たせたい」という、純粋で、献身的な「美学的な衝動」から、このトリックを仕掛けたのだ。彼は、本物の首飾りを、王妃の化粧室の一輪の白い薔薇の根元に、そっと隠していた。
彼の行動は、利己的ではなく、王妃への献身的な愛に基づいていたため、シャルロッテは、彼に深い同情を寄せた。そしてあえて犯人の正体は秘匿したのだ。
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「ね、パパ。犯人はね、きっとママが、世界で一番美しいって、思いすぎちゃった人だよ! それってすごく可愛いと思う!」
シャルロッテは、王妃の首元にそっと触れ、光属性魔法を応用した。彼女の魔法は、首飾りの豪華さに頼らず、王妃の肌の表面に、ごく微細な、愛の光の粒子を纏わせた。
「ママの美しさはね、首飾りがなくても、この光だけで、十分可愛いよ!」
王妃は、娘の愛と、老伯爵の献身的な愛に、涙ぐんだ。彼女は、老伯爵を罰するどころか、そっと微笑んだ。
「どなたかは存じませぬが……あなたの美学は、確かに私に届きましたよ。ありがとう」
王城の密室の謎は、「愛という、最も美しいトリック」と、「人間の感覚の曖昧さ」によって解明された。そして、その愛は、王妃の内面の美しさを、永遠に守り続けることになったのだった。




