第百四十話「夜のメリーゴーランドと、歪んだ鏡の『寂しい友達』」
その夜、シャルロッテは、深い、しかし鮮烈な夢の中にいた。
夢の世界は、現実の王城とは似ても似つかない、すべてがモノクロームで、建物が不自然な角度で歪んだ、ゴシック的な街並みだった。空気は冷たく、どこか寂しげなオルゴールが、遠くから不規則に響いている。
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シャルロッテは、白いパジャマ姿で、その街の広場に立っていた。広場の中央には、錆びついた鉄骨でできた、動かないメリーゴーランドがある。その木馬たちは、目が大きく、哀しげで、塗られたペンキは剥がれ落ちていた。
彼女の夢の世界で、モフモフは、体はふわふわのまま、目がボタンでできたような、奇妙で愛らしい姿に変わっていた。
「ねえ、モフモフ。このメリーゴーランド、誰も乗ってくれないから、寂しいんだね」
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シャルロッテは、メリーゴーランドの前に立ち、光属性と変化魔法を融合させた。
彼女の魔法は、木馬の錆を落とすのではなく、錆の冷たい表面に、ごく薄い、パステルピンクとミントグリーンの、虹色のヴェールを纏わせた。それは、荒廃を消すのではなく、荒廃の上に、無邪気な可愛らしさを重ねる、独特の美学だった。
そして、彼女がメリーゴーランドに触れると、メリーゴーランドは、軋むような、不気味だがユーモラスな音を立てて、動き始めた。
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その時、広場の暗がりの隅から、一人の少年が姿を現した。
少年は、シャルロッテと同じくらいの年齢だが、肌は石膏のように白く、衣服は全て黒で、まるで影絵のようだった。彼の目は大きく、孤独な悲しみを湛えている。彼は、この夢の世界の「孤独」そのものを体現していた。
少年は、シャルロッテの魔法で動き出したメリーゴーランドを、遠くから、ただ見つめていた。
「ねえ、あきみ! 一緒に遊ぼうよ!」
シャルロッテが誘うと、少年は、首を横に振った。
「だめだよ。僕は、美しいものに触れると、その美しさを、汚してしまうから」
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シャルロッテは、少年の瞳の奥に潜む、深い自己否定の悲しみを察した。
シャルロッテは、メリーゴーランドを止め、少年に近づいた。
「大丈夫だよ。『可愛い』はね、汚れないの。むしろ汚れたら、もっと可愛いんだから!」
彼女は、少年の冷たい手に、自分の銀色の髪を、そっと触れさせた。
「ね、私の髪は、泥だらけになっても、雨が降れば、また元通りになるよ。だから、触っても大丈夫」
その瞬間、少年は、初めて安堵の涙を流した。その涙は、モノクロームの街の地面に落ちると、一瞬だけ、鮮やかな菫色の花を咲かせた。
少年は、シャルロッテの手を握り、メリーゴーランドに乗った。二人が乗ると、錆びた木馬は、優雅で、しかし不規則なリズムで回転を始めた。
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夢から覚めたシャルロッテの頬には、微かに、菫色の花びらが貼りついていた。
彼女は、それが夢ではなかったことを知った。夢の世界で、孤独な誰かの心を救い、その感謝の印を、現実に持ち帰ってきたのだ。
シャルロッテの純粋な慈愛は、荒廃と異形の美しさの中に、「弱さの肯定と、愛による救済」という、温かい光をもたらしたのだった。
「ありがとう……」
シャルロッテはそっと菫色の花びらにくちづけた。




