第百三十八話「紅茶のトゲと、幼い王女が語る『愛と恋の違い』」
その日の午後、王城のテラスでは、イザベラ王女が主催する、優雅なティーパーティーが開かれていた。招待客は、王族の兄姉たちに加え、婚約者のエリーナ王女も同席していた。
話題は、自然とイザベラの最近の恋愛事情に移った。
「恋とは、なんて難しく、そして美しいのでしょう。誰かのために、心臓が熱くなる、あの感覚……」と、イザベラは、頬を染めて語った。
「しかし、愛は、もっと静かで、深く、責任を伴うものだ」と、アルベルト王子は、論理的な視点から付け加えた。
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その議論を、シャルロッテは、モフモフを抱き、真剣な顔で聞いていた。
「ねえ、お兄様たち、お姉様たち。恋と愛は、全然違うよ」
シャルロッテのその言葉に、一同は、一斉に優しい笑みを浮かべた。それは五歳の王女が語る「愛と恋」の定義を、微笑ましく聞こうという、大人の余裕だった。
「ふふ、シャル。では、あなたにとって、恋と愛は、どう違うのかしら?」と、エレオノーラ王妃が、優しく尋ねた。
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シャルロッテは、テーブルの上の、一輪の赤い薔薇を指さした。
「恋はね、この薔薇のトゲだよ!」
シャルロッテは、そう言うと、一同を驚かせる、奇抜な定義を始めた。
「恋はね、チクチクして、痛いの! 『私だけを見て!』って、相手の心を、ぎゅーって掴むから、チクチクするの。不安定で、熱くて、でも、誰かに取られたら嫌なのよ」
そこでシャルロッテはこほん、と咳ばらいをした。
「だから、この薔薇のトゲみたいに、誰かを傷つけることもあるの」
イザベラとフリードリヒは、その激しい感情の定義に、思わず顔を見合わせた。それは、彼らが経験した、若く、情熱的な感情の真実を突いていた。
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次に、シャルロッテは、自分の手のひらに乗せた、ごく小さな、透明な雨上がりの水滴を指さした。
「愛はね、この水滴だよ!」
「愛は、トゲがないの。優しくて、どこまでも広がっていくの。そしてね、誰かの幸せを、自分の幸せにするの。『私だけを見て』じゃなくて、『あなたは、あなたで、可愛いよ』って、優しく見守ってくれるの」
シャルロッテはまた、こほん、と可愛く咳ばらいした。
「だから、愛は、壊れないのよ」
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その言葉を聞いた瞬間、一同は、笑みを失い、顔色を変えた。
アルベルト王子は、妹の言葉が、「恋は独占欲、愛は利他主義」という、哲学的な真理を、最も純粋な形で表現していることに気づいた。
マリアンネ王女は、その言葉を、研究ノートに、「純粋な感情の法則」として、書き留め始めた。
そして、エリーナ王女は、アルベルトとの「愛」が、常に「王族の重責」というトゲを伴っていたことに苦悩していたが、シャルロッテの「愛の定義」に、涙ぐんだ。
「シャルロッテ殿下……。あなたの愛は、私の王冠の重さを、優しくしてくれました」
シャルロッテは、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、チクチクしない愛の方が、みんな、一番幸せになれるでしょう?」
シャルロッテの「幼い愛と恋観」は、大人たちの持つ複雑な感情論を凌駕する、最も深く、そして温かい真理をもたらしたのだった。




