第百三十七話「静寂の庭園と、光の音符の『水の名前』」
その日の午後、王城の庭園は、夏の蝉の鳴き声さえも遠く聞こえるような、不思議な静寂に包まれていた。
シャルロッテは、庭園の隅で、一人の老いた庭師の隣に座っていた。その庭師は、長年の激しい作業により、視力と聴力をほとんどをなくし、外界との繋がりを失っていた。彼は、自分の世界が、暗く、静かな箱の中に閉じ込められていると感じていた。
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シャルロッテは、その庭師が持つ、「世界から切り離された孤独」という、深い悲しみの魔力を感知していた。言葉で語りかけることは、彼の静寂を破るだけで、意味がない。
彼女は、庭師の手を取り、その手のひらに、土属性の魔法を応用した。彼女の魔法は、庭師の掌に、「植物の根が土を掴む、微細な振動」という、生命のサインを伝えた。庭師は、自分の手の中に、庭園の「生」が、微かに脈打っているのを感じ、驚愕した。かつての活力に満ち溢れたあの日々の残滓が彼の脳裏を打った。
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そして、シャルロッテは、次に、水を使った。
彼女は、庭園の小さな石造りの噴水の水を、自分の小さな手のひらに受けた。そして、その水を、庭師のもう一方の、冷たい手のひらに、一滴、一滴と、優しく注ぎ始めた。
シャルロッテは、水が注がれるたびに、指先で、庭師の手のひらに、微細な「光の音符」を刻み込んだ。それは、言葉でも、手話でもなく、「水」という媒体を通して、「生命の瑞々しさ」「光の輝き」「純粋な喜び」といった、非言語的な感情を伝えるための、愛の試みだった。
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庭師は、その「水の音符」を受け取るたびに、暗く静かな箱の中に、一筋の光が差し込むのを感じた。
シャルロッテは、最後に、庭師の手のひらに、「光」を意味する、この世界で最もシンプルな魔法の記号を刻んだ。そして、水を一滴注ぎ、「愛」を意味する魔力を流し込んだ。
庭師は、水を浴びた手のひらが、「光」と「愛」という、二つの言葉の意味で満たされるのを感じた。彼の顔に、安堵と、世界との再接続を果たした喜びの光が灯った。
「ああ……神よ……私は、生きています……。世界は、シャルロッテ様を通して、私の手のひらに、言葉を超えた美しさを伝えてくださった……」
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その光景を見ていた、庭師の娘は、涙ぐんだ。彼女は、王女が、言葉も音も使わずに、父の心に、世界を戻してくれたことに、心から感謝した。
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「大丈夫。言葉がなくても、心はちゃんと繋がっているよ。だって、可愛い愛は、誰でもわかるんだもん!」
シャルロッテの純粋な愛と献身は、感覚の壁を超え、孤独な魂に、非言語的な真理の光をもたらしたのだった。




