第百三十六話「錆びた機械の楽団と、王女の『忘れた旋律』」
その日の午後、王城の誰も使わない、古い中庭は、大量の、錆びついた金属と、古びた歯車が積み上げられた、まるで巨大なガラクタの山のような場所になっていた。その山は、過去の王族が蒐集した、失敗作の魔導機械や、修理不能なオートマタの残骸だった。
その荒廃した光景の中で、シャルロッテは、一体の、片腕のない、錆びついた小さな楽士の人形を見つけた。
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人形は、胸部に仕込まれたゼンマイが、錆で固まって動かない。しかし、シャルロッテには、その人形が、「もう一度、美しい音楽を奏でたい」という、切実な願いの魔力を放っているのが感じられた。
そこに、フリードリヒ王子が、訓練着のままやってきた。
「シャル。ここは危険だ。離れよう。それにこんなガラクタに、何の意味がある?」
「いっぱいあるよ、兄様。この子たち、『もう一度、誰かを喜ばせたい』って、思ってるの」
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シャルロッテは、その片腕のない楽士の人形を抱き上げた。そして、その荒廃した中庭全体を、「即興の楽団」にすることにした。
彼女は、風属性魔法を応用し、積み上げられた金属のガラクタ全体に、微細な、しかし精密な振動を与えた。ガラクタの山は、風に吹かれるのではなく、シャルロッテの魔力によって、規則正しいリズムを刻み始めた。
錆びついた銅鑼が、ユーモラスな低音を叩き、折れたフルートの管が、高音のノイズを奏で、無数の歯車が、軽快なパーカッションとなった。
それは、荒廃したガラクタが、温かい生命の調べを奏でる、非現実的な光景だった。
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そして、シャルロッテは、片腕のない楽士の人形を、ガラクタの山の真ん中にそっと置いた。
彼女は、光属性と変化魔法を応用し、人形の失われた片腕を、一瞬だけ、虹色の光でできた、美しい腕へと再生させた。
その虹色の光の腕が、空中に向かって、「忘れた旋律」を奏で始めた。それは、王城の誰も聴いたことがない、懐かしくて、そして涙が出るほど美しいメロディだった。メロディは、荒廃の中に残された、人間の尊厳と、愛の記憶を、優しく肯定していた。
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フリードリヒは、その光景に、心を打たれた。彼は、荒廃した世界を「敵」として見ていたが、妹は、それを「愛すべき楽団」へと変貌させたのだ。
「シャル……君は、この荒廃した世界に、最も美しい夢を与えたんだな……」
演奏が終わると、楽士の人形は、再び片腕を失い、静かに錆びた。しかし、その人形の胸部からは、温かい光が、微かに、しかし確かに漏れ続けていた。
シャルロッテは、その人形を抱きしめた。
「ね、これでいいの。一瞬でいいから、最高の音楽を奏でられたから、この子は、もう寂しくないんだよ」
シャルロッテの純粋な慈愛は、荒廃と絶望という、大人の世界観に、「夢と希望は、一瞬の情熱の中にこそ存在する」という、最も温かい真実をもたらしたのだった。




