第百三十三話「ただ座る部屋と、空っぽの籠の『存在の重み』」
その日の午後、シャルロッテは、モフモフを抱き、王城の誰も使わない、ただ座るためだけに作られた小さな部屋にいた。部屋には、装飾も、家具もなく、あるのは、壁の隅に置かれた、古びた、空っぽの籐の籠だけだ。
シャルロッテは、その「何もない」空間が、「何ものにも縛られない自由」の象徴であり、その静寂に、深い安らぎを感じていた。
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そこに、長女イザベラが、最新の宝石を自慢しようとやってきた。イザベラは、何もない部屋を見て、驚いた。
「シャル。こんな部屋で、何をしているの? 何もなくて、退屈ではないかしら。この部屋、一体何のために作られたのかしら?」
シャルロッテは、空っぽの籠を指さした。
「ねえ、お姉様。この籠、何にも入ってないのに、とっても可愛いよ」
シャルロッテは、籠に風属性魔法で「春の風の揺らぎ」を作り出し、その無所有の美しさを説明した。
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その日の夕食後、ルードヴィヒ国王は、娘たちがその部屋について話していたことを聞き、静かに語り始めた。
「あの部屋は、私の父上、つまり君たちの祖父が、自ら設計させた部屋なのだ」
国王の父は、「王国の全てを所有する」という権力の頂点にいたがゆえに、晩年、「自分が本当に所有しているものは何なのか」という、孤独な問いに苛まれていたという。
「父上は言っていた。『王座の豪華な椅子に座るほど、自分の存在が、椅子と装飾という虚飾に喰われていくように感じた』と。だから、あの部屋には、『虚飾を剥ぎ取った、純粋な自分自身』と向き合うために、何も置かなかったのだ」
「あの部屋は、『孤独な王の、哲学的な避難所』だったのよ」と、エレオノーラ王妃が、静かに付け加えた。
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イザベラは、その話に、深い切なさを感じた。彼女が追求していた「美」とは、常に装飾や所有という「形あるもの」に縛られていたが、その究極の頂点にいた祖父は、逆にその所有に苦しんでいたのだ。
シャルロッテは、その祖父の孤独と哲学的な葛藤を、純粋な愛で包み込むことにした。
シャルロッテは、イザベラの手に、その空っぽの籠をそっと握らせた。
「ね、お姉様。この籠にね、『お姉様が、今日一番楽しかった気持ち』を、入れてみて!」
「え?」
イザベラは、戸惑いながらも、妹の言葉に従い、静かに目を閉じ、籠の中に、今日の舞踏の歓びの記憶を、そっと入れた。
その瞬間、籠は、温かい光を放ち始めた。それは、「所有」ではない、「感情」という、真の富を証明していた。
「シャル……あなたの言う通りだわ。祖父様が必要としていたのは、空っぽの籠ではなく、その中に、愛しい家族との思い出を入れられることだったのね」
シャルロッテの「可愛い」の哲学は、王の孤独な哲学を、「無所有の自由と、感情の純粋な表現」という、最も温かい結論で満たしたのだった。




