第百三十話「冬の薔薇の城と、『檻の中の乙女』の問い」
その年の冬、王城の温室には、特別な一室が設けられた。そこには、氷の魔力で冷やされた、ガラス張りの展示ケースがあり、中に、「雪の女王の宝物」と呼ばれる、咲きかけで、しかし完璧な形を保った、真っ赤な薔薇が鎮座していた。
その薔薇は、「永遠の愛の美しさ」を象徴するとされ、多くの貴族がその冷たい美しさに魅了されたが、誰もがその薔薇に触れることは許されなかった。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、その氷の薔薇の前に立った。彼女の目には、薔薇の完璧な美しさよりも、薔薇全体から発せられる、微細な「苦痛の魔力」が見えていた。薔薇は、咲き誇るという生命の本質を永遠に停止させられ、ガラスの檻の中で、冷たい美しさという役割を強制されていたのだ。
「ねえ、モフモフ。この薔薇さん、綺麗だけど、全然幸せじゃないよ」
そこに、王立学院の若き彫刻家である貴族の青年がやってきた。彼は、この薔薇の「永遠に完成しない、冷たい美」こそが、芸術の究極だと信じていた。
「姫殿下。この薔薇は、完成形です。永遠にその形を保つことこそ、真の芸術の勝利なおです」
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シャルロッテは、その青年の「冷たい美学」に、静かに反論した。
「ううん、違うよ。この薔薇さんはね、『もっと、熱い愛の中で、一瞬でいいから、咲き切りたい』って、言ってるよ」
シャルロッテは、そのガラスの檻に、そっと手を触れた。
そして、土属性魔法を応用した。彼女の魔法は、薔薇を破壊するのではなく、薔薇が植えられた土の根に、「生命が持つ、熱い情熱」という、究極の魔力を送り込んだ。
同時に、光属性と水属性の魔法で、檻の中の冷たい空気に、「夏の雷雨のような、激しい生命の熱」を注ぎ込んだ。
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ガラスの檻の中の冷たい空間は、一瞬で、熱帯の夜明けのような、熱い、湿った空気へと変貌した。薔薇は、この熱い、激しい「愛の洗礼」を受け、その完璧な美を崩壊させることを恐れなかった。
薔薇は、冷たい美の仮面を脱ぎ捨て、花びらを激しく開かせ、猛烈な香りを放ちながら、一瞬で満開になった。その満開の美しさは、冷たい美しさとは比較にならない、熱く、官能的で、そして儚い、生命の絶頂だった。
しかし、その激しい情熱の後に、薔薇は、その命を使い切り、静かに花びらを散らした。
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若き彫刻家は、その一瞬の、激しく美しい「完成と散華」の光景に、涙を流した。
「ああ……私は、永遠という名の死を愛していたのか……。しかし、姫殿下は、一瞬の命の情熱が、真の美だと教えてくださった……」
シャルロッテは、散りゆく薔薇の花びらを、そっと手ですくった。
「ね、これでいいの。この薔薇さんはね、自分のしたいように、咲き切ったから、もう寂しくないよ。愛されるってね、自由になることでもあるの」
シャルロッテの聡明な慈愛は、おとぎ話の倒錯的な美学を打ち破り、「真の美とは、自由な生命の情熱にある」という、究極の愛の真実をもたらしたのだった。




