第百二十八話「地下の蝋人形と、血色の薔薇の『甘い束縛』」
その日の午後、シャルロッテは、アルベルト王子に連れられ、今や王城の誰も使わない、薄暗い地下の展示室を訪れていた。そこには、過去の王族や貴族の姿を模した、等身大の蝋人形が、優雅な衣装を纏い、静かに並んでいた。
蝋人形たちは、完璧に美しく作られていたが、その無表情な顔は、どこか生気がない、冷たい退廃の空気を醸し出していた。
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アルベルト王子は、その人形たちを指さした。
「シャル。これは、過去の王族の『完璧な肖像』だ。彼らは、王族としての役割と、永遠の美を、この蝋人形に託した。彼らは、生きている時よりも、人形として永遠になったことを、望んだのだ」
アルベルトの言葉には、完璧さを求めるがゆえの、「生きることの不完全さ」への、諦めのような、微かな羨望が混ざっていた。
シャルロッテは、その蝋人形たちが、まるで「永遠の束縛」という呪いにかかっているように感じた。
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シャルロッテの視線は、特に、一人の美しい王女の蝋人形に引きつけられた。その人形は、華やかな衣装に身を包んでいるが、胸元には、血の色のような、濃い真紅の薔薇のコサージュが飾られていた。
「ねえ、兄様。この薔薇、人形の心臓だよ」
シャルロッテは、その薔薇に触れた。その瞬間に、彼女の共感魔法が、王女の「完璧な美を永遠に保ちたい」という、強烈な、しかし歪んだ願いを感知した。それは、彼女の生きた感情を、蝋という冷たい物質に封じ込めた、優雅で、しかし残酷な自己犠牲だった。
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シャルロッテは、この「冷たい束縛」を、彼女の「温かい可愛らしさ」で解き放つことを決意した。
彼女は、自分の銀色の髪に、光属性と風属性の魔法を融合させた。
彼女の銀髪は、月の光を浴びたように輝き、その髪から、無数の、微細な虹色の蝶が生まれ、蝋人形たちの周りを舞い始めた。蝶は、蝋の冷たさを温め、光を当てた。
そして、シャルロッテは、真紅の薔薇のコサージュに、治癒魔法を込めた。
「ね、もう大丈夫。永遠の命は、蝋の中じゃなくて、温かい心の中にあるのよ」
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薔薇のコサージュは、シャルロッテの魔法によって、本物の、温かい真紅の薔薇へと変貌した。その薔薇は、蝋人形の胸元から、静かに咲き誇り、地下の冷たい空気を、生の情熱で満たした。
アルベルトは、その幻想的な光景を見て、自分の「完璧さ」への執着が、いかに冷たいものだったかを悟った。
「シャル。君は、死んだ美しさではなく、生きている愛を選んだのだな」
シャルロッテは、蝋人形に優しくキスをした。
「えへへ。だって、生きてる薔薇の方が、何百倍も可愛いもん!」
地下の展示室は、シャルロッテの愛の力によって、死の退廃から解放され、生の情熱と、可愛い美しさに満ちた空間へと変わったのだった。




