第百二十七話「王城の秘密の森と、根を張る『時の声』」
その日の午後、シャルロッテは、王城の敷地外れにある、庭師の手入れが及ばない古い雑木林に入り込んでいた。そこは、苔むした岩と、朽ちた倒木が横たわる、時間の流れが止まったような、静かで不思議な空間だった。
モフモフは、シャルロッテの足元で、緊張したように身を潜めている。
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シャルロッテの目的は、その森の最も古い場所に立つ、巨大な、しかし名も知らぬブナの木だった。その木は、雷に打たれて半分が枯れているが、残りの幹からは、まだ力強く葉を茂らせている。
彼女は、そのブナの木が、「この王城で起こった、すべての時間の記憶」を、根の奥深くに蓄えていることを、本能的に知っていた。
シャルロッテは、その木の根元に座り込み、目を閉じた。彼女の心は、現実の喧騒から切り離され、木の持つ、静かで古い知恵との交感を図り始めた。
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シャルロッテは、自分の手のひらを、木の苔むした根にそっと触れさせた。そして、土属性魔法を応用し、自身の意識を、木が大地に張る、根のネットワークへと深く送り込んだ。
彼女が感知した世界は、驚くほど静謐で、広大だった。
彼女の耳に聞こえてきたのは、木が過去に聞いてきた、「時間の声」だった。
何百年も前の、恋人たちの囁き。戦火の轟音。亡くなった王妃の、微かな溜息。そして、まだ王城が建つ前の、風の音。
それらの記憶は、悲劇的なものも、喜びに満ちたものも、すべてが「生命という美しい事実」として、無言で、優しく、肯定されていた。
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シャルロッテは、その木の知恵に、心から感動した。彼女は、人間の喜びや悲しみは、自然という永遠の時間の流れの中では、すべてが許され、受け入れられるという、根源的な真理を悟った。
シャルロッテは、その木の根に、光属性と治癒魔法を融合させた、「永遠の安息」の祝福を込めた。それは、木が持つ古い記憶の重さを、少しでも軽くするための、優しい試みだった。
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彼女が森から戻ると、王城の誰もが、シャルロッテの瞳の深みが増していることに気づいた。
アルベルト王子が、妹に尋ねた。
「シャル。いったいどこへ行っていたのだ。君の目には、まるで何千年もの時が映っているようだ」
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。わたしね、おじいさんの木に、秘密のお話を聞いてきたの。人間が、一生懸命生きたことは、全部、土が覚えているんだって!」
シャルロッテの純粋な「可愛い」の哲学は、人間の持つ儚い感情を、自然という永遠の時間の流れの中で、静かに肯定し、愛という形で救済したのだった。




