第百二十三話「庭園の古い木桶と、王妃が語る『暮らしの秘薬』」
その日の午後、シャルロッテは、エマと共に、王城の使われなくなった古い道具を保管する倉庫を整理していた。倉庫の奥には、長年放置され、埃をかぶった苔むした古い木桶が置かれていた。
「ねえ、エマ。この木桶、なんだか悲しい匂いがするね」
エマは、「これは、昔の洗濯に使われていたものですが、もう誰も使いません。殿下、埃を吸わないようにお離れください」と、言った。
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その日の夕食後、エレオノーラ王妃は、シャルロッテがその木桶に心を奪われているのを知り、温かいハーブティーを飲みながら、木桶の「知恵」について語り始めた。
「シャル。あの木桶はね、お祖母様……先々代の王妃……が、特に大切にしていたものなのよ」
「お祖母様が?」
「ええ。当時は、強力な洗濯魔法がまだ一般的ではなかった。洗濯の失敗や、肌荒れに悩む使用人たちが多かったの。でも、お祖母様は、『魔法に頼るな』と、その木桶で、洗濯の知恵を実践していたわ」
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エレオノーラ王妃が語った「知恵」は、現代の王城の常識から見ると、あまりに素朴で、非効率的だった。
【おばあ様の知恵の教え】
水の温かさ:魔法で熱湯にするのではなく、太陽の光で温まった「優しすぎる温度の水」で洗うこと。
植物の力:特別な洗浄魔法薬ではなく、「庭園のハーブを煮詰めた、微かな石鹸成分」を使うこと。
仕上げの光:濯いだ布を、「日の当たる、最も風通しの良い場所に干す」ことで、太陽の光と風に、布の繊維の奥の魔力を回復させること。
「お祖母様はね、『魔法は、私たちの生活を便利にするが、暮らしの温かさは、私たちが、自分の手で、時間をかけて紡ぎ出すものだ』と教えてくださったわ」
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シャルロッテは、その話に心から感動した。彼女の魔法は、すべてが「即時の解決」だったが、お祖母様の知恵は、「時間をかけることの愛らしさ」を教えてくれた。
「わあ……お祖母様は、『時間をかけて、布を可愛くする魔法』を知っていたんだね!」
シャルロッテは、翌日、その古い木桶を庭園の日当たりの良い場所に運び出した。そして、光属性魔法を応用し、木桶の側面に、お祖母様と、洗濯をする使用人たちの、温かい笑顔の幻影を、ごく微細に浮かび上がらせた。
「この木桶は、王城の、一番温かい宝物だよ!」
その日以来、王城では、魔法に頼りすぎず、「お祖母様の知恵」を取り入れた、手作業での洗濯と手入れが、美徳として見直された。王城の使用人たちは、その古くて温かい知恵の中に、仕事の喜びと、王家からの深い愛情を感じたのだった。




