第百二十一話「夏の縁側と、『氷の欠片』が溶かす怠惰の呪い」
その日の午後、王城の一角にある、使用人たちが休憩に使う縁側(※これは以前来訪した極東からのキャラバンが持ち込んだ文化である)は、夏の強い日差しを遮る日除けの下で、極めて平和な怠惰に包まれていた。
シャルロッテは、モフモフを抱き、その縁側で座り込んでいた。彼女の目の前には、午後のティータイム用に用意された大きなガラスのボウルに入った、冷たい氷の塊が置かれている。
「んー、動きたくないね、モフモフ」
シャルロッテは、暑さと平和な怠惰の魔力に負け、「このまま溶けて、地面になってしまいたい」という、極めて退廃的な願望を抱いていた。
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そこに、アルベルト王子が、汗を拭いながらやってきた。彼は、執務中にどうしても解決できない「公務の小さな先延ばし」という、人間的な弱さに苦しんでいた。
「シャル。君はいいな。私には、この氷のように、涼しく、澄んだ時間が全くない」
そう言いながらアルベルトは、完璧な王子としての仮面の下で、「やらなければならないことを、つい後回しにしてしまう」という、庶民的な弱さを抱えていた。
シャルロッテは、兄の「怠惰への誘惑」を察し、にっこり微笑んだ。
「ねえ、兄様。じゃあ、この氷で、『怠惰の呪い』をやっつけようよ!」
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シャルロッテは、水属性魔法を応用し、氷の塊から、ごく小さな、微細な氷の欠片を、アルベルトの顔めがけて一瞬だけ飛ばした。
「ほら! 怠惰の呪いの欠片だよ!」
氷の欠片は、アルベルトの額に当たり、すぐに溶けて消えた。アルベルトは、その冷たさに、一瞬で頭がクリアになるのを感じた。
シャルロッテは、前世の「やらなきゃいけないことの最初の一歩」という、行動経済学的な知恵を、魔法で応用したのだ。
「怠惰の呪いはね、大きくて重たいから、みんな動きたくないの。だから、小さな欠片に割って、ポイッて捨てるのよ!」
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アルベルトは、妹のユーモラスな論理に、ついくすっと笑ってしまった。彼は、公務の山を「大きな塊」として捉えていたため、手をつけられずにいたのだ。
彼は、執務室に戻ると、書類を一つ一つ、「氷の欠片」の大きさに分け始めた。そして、一つ処理するたびに、「怠惰の欠片を一つ捨てたぞ」と、心の中で呟いた。
午後のおしまいには、彼の机の上の書類の山は、嘘のように消えていた。
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夕方、アルベルトは、妹に感謝を伝えた。
「シャル。君は、私に、『怠惰という名の大きな壁』を、『可愛い小さな欠片』に割って捨てる勇気をくれた。君は、最高の賢者だ」
シャルロッテは、縁側で寝転んだまま、にっこり微笑んだ。
「えへへ。兄様も、怠惰の呪いが解けて、良かったね!」
その日の王城の縁側は、ユーモアと、家族の温かい視線に満ちていた。シャルロッテの純粋な知恵は、大人の「小さな弱さ」を、コミカルに、そして温かく救ったのだった。




