第百十九話「空中の鍵盤と、庭園を彩る『非接触の音楽会』」
その日の午後、王城の魔法研究室では、マリアンネ王女が、ある魔道具の開発に行き詰まっていた。それは、演奏者が楽器に触れることなく、空間の魔力的な揺らぎだけで音を奏でる、「空中の無形楽器」だ。
「おかしいわ。空間の魔力変化を正確に音階に変換できない。演奏者の感情の微妙な変化を、どうやってノイズにせずに取り除くか……」
マリアンネは、その技術の難解さと、成果が出ない孤独に、苛まれていた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、研究室にやってきた。彼女は、マリアンネの描いた、空間の魔力波形図を見て、すぐに閃いた。
「ねえ、お姉様。そういう楽器を作るんだったらね、ノイズを消しちゃだめなんだよ!」
「ノイズを消さない? でも、それでは、正確な音階が……」
シャルロッテは、前世の音楽の知識と、魔法を融合させた。
「音階は、正確じゃなくてもいいの! この楽器の一番可愛いところは、『誰にも触れられないこと』でしょう? だからね、ノイズは、演奏者の『秘密の気持ち』なの!」
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シャルロッテは、マリアンネに、その無形楽器を庭園に運び出すよう提案した。
庭園の大きな広場で、マリアンネは、その無形楽器の前に立った。シャルロッテは、光属性魔法を応用し、無形楽器の周りの空間に、目に見える虹色の網を張り巡らせた。それは、演奏者の手の位置を、正確に表すための視覚的な補助線だ。
そして、シャルロッテは、演奏を始めた。彼女は、楽器に触れることなく、その虹色の網の中を、優雅に、しかし無邪気に、手を動かした。
音階は、正確ではなかった。しかし、シャルロッテの無邪気な喜びの感情が、空間の魔力的な揺らぎとなり、音階のズレを、独特の、ユーモラスで温かいメロディへと変貌させた。
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そのメロディは、庭園で作業していた庭師たちや、城のバルコニーにいた王族たちを惹きつけた。彼らは、その音の不正確さの中に、シャルロッテの純粋な「遊び心」と「愛」という、ノイズではない、最も人間的な感情が込められていることを感じた。
その音楽は、人々を笑わせ、心を温かくした。
マリアンネは、解析装置を見て、驚愕した。装置は、「不正確な音階」の中に、「純粋な幸福感」という、極めて強大な魔力波動が込められていることを示していた。
「そうか……。私が消そうとしていたのは、人間の最も美しい感情だったのね……」
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シャルロッテは、演奏を終え、マリアンネににっこり微笑んだ。
「ね、お姉様。ノイズは、『お姉様の秘密の気持ち』でもあるんだよ。だからノイズを消しちゃだめ。ノイズを可愛くしてあげるのが、一番楽しいの!」
マリアンネは、妹の純粋な知恵に、心を打たれた。彼女は、科学と感情の融合という、新たな研究の境地を見出した。
ルードヴィヒ国王は、バルコニーから、この光景を見て、笑いながら言った。
「シャルロッテは、科学と芸術の壁を、遊び心で乗り越えてしまったぞ!」
シャルロッテの「可愛い」の哲学は、非接触の技術の中に、最も温かい「感情の交流」という、人間的な真理をもたらしたのだった。




