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第四十六話「邪教徒の牢獄」

 遺跡の地下一階の十字路。

 スヴェン達が進んだ道とは逆方向の通路の奥には牢獄の立ち並ぶエリアがあった。

 重い金属扉を潜ると大広間のような場所があり、中央の通路を挟む様に左右3つずつ、牢屋が並ぶ。

 そして通路の最も奥では複数の石の寝台と壁に掛けられたのこぎりや火箸、禍々しい彫刻のある血で錆びたダガーなどが並べられている。

 寝台の一つにはオークが手枷と足枷を付けられて拘束され、フードに身を包んだ邪教徒が尋問をしている。


「いたっ、放してください」


 ラナはその牢屋の一つに放り込まれた。

 既に中にはイヴァリスとマーチンも入れられている。

 3人を放り込み終わった邪教徒はガチャリと思い金属音を立てて施錠する。


 フッ! フッ! ウゴアアアアア!


 他の牢を見回すと、はす向かいの牢には筋肉質の双頭の巨人が一匹押し込まれており、鉄格子を両手で掴んで荒い鼻息を立てて叫びながらガシガシと揺すっていた。


「ひっ」


 ラナはその怪物の入れられた檻の中に、食いかけの人の手足を見つけ青ざめた。

 向かいの牢には全身を黒皮の鎧で覆った短髪の女性が両手に手枷を嵌められ、万歳をするような姿で壁からぶら下がり、項垂れて動かない。

 隣の牢には禿げ頭に青筋を立てたモンクが腕組みしてあぐらをかいていた。

 他の牢には汚物や人骨が散乱し、異臭を放っている。


「グアアァァァッ! ッキィ! キィハァァァ――!」


 尋問官と思われる邪教徒がオークの腹にダガーを突き立てて引き、小さなのこぎりを差し込んでゴリゴリしたあと、切開した箇所に手を突っ込む。


 ゴキッ


「キヒィィィィ――!」


 尋問官はオークの肋骨を一本折り取ってからオークの目の前にかざし、ゆらゆらと振る。

 ラナは尻もちをついたまま、隣で座っていたイヴァリスにしがみ付いて目を閉じる。

 イヴァリスもラナを抱き返す。

 二人の手はガクガクと震えていた。

 ラナは泣きながら言った。


「ごめんなさい。私のせいで……ヒック……。

 こんな事になるなんて……。

 まさか私が……私がこんな場所でこんな状況になるなんて……。

 夢にも思わなかったの……」

「……」


「お話で聞いたことはあったけど、こんなに怖いなんて思わなかった……ヒック。

 大精霊マーヤ様……私は思い上がっていました。

 お許しください……、ヒック、私は戦いなんて出来ません……」


 突如、隣の牢に居たモンクが立ち上がった。

 牢の鉄格子に一発ゴンと蹴りを入れると尋問官の方を向いて叫ぶ。


「おらぁっ! とっととここを出さんかいっ! ウジウジと抗えぬ相手をいたぶる事しか出来ぬ腰抜けめ!? お前はナニも相当小さいと見える!

 どうした腰抜け! 何だ? その目は? 文句があるならかかって来んかいっ!」


 尋問官は手を止めるとモンクに向き直る。


「なかなかイキのいい奴だな。だがお前等は明日、このオークよりも壮絶な目にあう事になる。

 我等がより強い魔力を得るための供物となるのだ。

 その祭祀の場でお前のような奴の虚勢が剥がれ落ち、恐怖と絶望と苦痛に顔を歪め、命乞いするのを何度も見てきた。

 くっくっく……私にはそのギャップが堪らない……」

「虚勢!? それはお前のことか!?」


「楽しみだよ!」


 尋問官は作業に戻る。

 ラナをしっかり抱きしめたまま、イヴァリスはふと向かいの牢を見た。

 向かいの牢の壁に吊り下げられた女性は項垂れたまま、肩を少し震わせていた。。

 不思議なことにイヴァリスにはそれが、怯えではなく少し笑っているように感じた。



 遺跡の最下層、秘密の王座の間。

 アモイは王座の背後の壁にあった複雑な模様の彫刻を紙に書き写し終わっていた。

 そしてそれをバックパックの中にしまうと、スヴェンの元へ歩み寄る。


「スヴェン君、ここでやるべき事は終わった。遺跡から早く脱出しよう。イヴァリスちゃんたちも心配だしね」

「そうだね」


 スヴェンはハルバードを取って立ち上がる。


「大丈夫かい?」

「僕は魔法剣闘士。目の前のことに集中しなきゃね。それに万が一の場合……の覚悟は決めたよ」

「早く行くわよ! 退散は一番重要なんだから、急いで」


 スヴェン達は王座の間を後にすると、元来た階段を登った。

 そして元来た通路を戻り、壁から顔を出して邪教徒が集会をしていた広間を覗く。

 そこには元通り、大勢の邪教徒達が集合していた。

 集団に語り掛ける司祭の背中が目の前に見える。


「もう一度僕が追い払うよ。その隙に進むんだ」

「分かったわ」

「スヴェン君、本当に気を付けてくれよ」


 スヴェンは走り出て司祭のアガレスの背中を踏みつけ、前のめりによろけさせながら駆け上ると空中で一回転してハルバードを脳天に打ち下ろす。

 だがアガレスは片手を振り上げて、見た目からは信じられないような強靭な力と耐久力でハルバードを軽く弾く。

 スヴェンは高台の上、アガレスの目の前に体を捻りながら着地した。


「さすがデーモンロード、この程度じゃ効かないね」


 スヴェンは即座にテレポートの魔力の籠るリングを指に嵌めて広間の端へと瞬間移動する。


「待て小僧! お前の仲間を捕えている!」


 スヴェンは背を向けたまま立ち止まった。


「マーチン、イヴァリス、そして我々が探し求めていたお前達の切り札の一つ、ラナ。くっくっくっく。まさか自分からここへやってくるとはな……」


 教信者達がざわめき、所々から笑い声が漏れる。

 スヴェンはゆっくりとアガレスの方へ向き直った。


「武器を捨てて抵抗を止めよ。そうしなければお前の仲間達が死ぬのが早くなるぞ」


 スヴェンはハルバードを床に捨て、両手を上げた。

 


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