第三十六話「最後の試練」
「ウエゾ老師! ただいまー」
スヴェン達はアモイに魔法のゲートでウシャドナに送ってもらい、ウエゾ老師の家に戻ってきた。
「あれ? ウエゾ老師?」
気配がないのでウエゾ老師の寝室のドアを開ける。
一瞬ガタガタガタという音が聞こえたがウエゾ老師はベッドに横になって寝転んでいた。
「ノックぐらいせんかい! バカモン」
「す、すいません」
「ウエゾ老師も一人の時は本を読むのね」
ベッドの下からリンの声が聞こえ、リンが這い出してくる。
老師は慌ててリンを追い出してベッドの下の何かをさらに奥に慌てて押し込んだ。
「こりゃ、次そんなことしたら怒るぞ」
「了解です老師様! 英雄色を好……」
「わーー」
老師はリンの口を抑えて話す。
「そ、そうだっ! スヴェン、シェイド、二人共基礎的な技術はほぼ完成してきている。
あとは各々の肝となる技を極める事で剣闘士としてスタートラインに立てるだろう。
二人に最後の試練を与える。
準備して表で待っていろ」
「了解です! 老師!」
「了解です! 老師!」
しばらく後、老師はスヴェンとシェイドを小さな物置小屋の前に連れ出した。
小屋とその周辺には獣臭が漂っている。
しばらく二人を置いて小屋の裏手に回った老師は、水の入ったバケツを持って戻ってくる。
中には緑色の果実のようなもの、草の茎のようなもの、シダ系植物の葉が浮いていた。
「シェイドよ、バックラーは持って来ておるな?」
「はい、老師」
「君の一番の強みは盾による防御能力だ。
そして君は盾を扱う技術を極限にまで高める必要がある」
老師はバケツの水をシェイドに頭からかけて水浸しにした。
シェイドはバックラーだけもった全身水浸しの裸状態である。
「老師?」
「よいか? いまからこの小屋の中に篭もり、盾のみを使って1時間耐え忍び、無傷で外に出られるように修行せよ。
さぁ、中へ入るのだ」
老師は小屋の扉を開けるとシェイドを押し込んで扉を閉じた。
シェイドは小屋の中で周囲を見回すと……。
無数の猫が机や戸棚、床や椅子にわんさと居る。
ここは猫の集会場のようである。
猫は全員シェイドに注目した。
そしてヨダレを垂らし始めた。
「な……、なんだなんだ……」
「シェイドよ! 動物虐待をしてはいかんぞ? あくまでも専守防衛じゃ」
ニャーー!
猫たちが一斉にシェイドに跳びかかった。
シェイドはバックラーを使って最初の5、6匹の猫の攻撃を防いだが背中に爪を立てられる。
「いててててっ!」
シェイドは全身猫に張り付かれまくってふらつきながら別の猫の跳びかかり攻撃をバックラーで防いでいた。
だがついに耐え切れず小屋の扉から飛び出して地面に倒れこんだ。
猫達は一瞬飛び退いたが、再度駆け寄ってシェイドの肌を引っ掻く。
体が引っかき傷だらけで血があちこちから流れている。
「あだだだだ!」
「ふむ。まぁ今日は失敗だったみたいじゃの。
無傷で達成出来るまで精進するが良い。
敗因を思い出し、正しい動きを見つけ、明日の再戦に備えよ。
次はスヴェン、着いて来い」
「はい。」
老師は魔法のゲートを出現させると手招きした。
スヴェンがゲートを潜るとそこはカーグレイルの城門前であった。
「スヴェンよ、最高ランクの魔法、アースクエイクは使えるな?」
「やってみます」
スヴェンは魔法をアースクエイクの魔法を詠唱、発動に失敗した。
路傍の石に腰掛けて様子を見守るウエゾ老師の前で、スヴェンは何度も魔法を詠唱し続ける。
25回めほどの詠唱でようやく魔法が成功し、周囲が揺れ動いた。
「じ、地震だーー」
「大丈夫だ、この城壁はこのくらいの地震じゃ崩れないように作られている!」
人々の大騒ぎが聞こえる中、老師は言った。
「よろしい、ではその場からウシャドナ方面へ8歩歩くのだ」
「はい、8歩ですね」
スヴェンは8歩歩いた。
「もう一度アースクエイクの魔法を唱えよ」
「待ってください……、今のでマナを使いきってしまいました。
少し精神を集中して回復しなければ……」
「それでよい。そのまま8歩歩くごとにアースクエイクの魔法を成功させながらウシャドナまで帰って来い」
「ええぇぇ!?」
「一度足りとも誤魔化してはならんぞ。8歩歩く前に必ず魔法を成功させよ。例え理由があってその場から離れても必ずその位置からやり直しだ」
老師はそう言うと再び魔法のゲートを出現させて消えていった。
その日相次ぐ地震でカーグレイルの住人はパニックになっていた。
道行く人々が物珍しそうに、道中で合掌して精神を集中するスヴェンを見て指差す。
一人の老人が答えていた。
「あぁ、私のお婆さんから聞いたことがあるよ。
あれはウシャドナのモンクが行う苦行の一つだよ。
ああやって8歩毎に大魔法を唱えて聖地まで巡礼するらしいよ?
今でもやってる人がいるんだねぇ……」
スヴェンは最初こそまともに進めなかったが、日を追う毎に魔法の成功率が上昇、その歩みは加速していった。
2週間が経過した。
シェイドがウエゾ老師の部屋をノックする。
「なんじゃい?」
「今日こそ試練を達成してみせます。立ち会って頂きたいんです」
「本当かね? じゃぁ行ってみるかな……」
シェイドは猫小屋の前に立つとバックラーだけを持って頭からいつもの水を被った。
そして小屋に入り、扉を閉める。
ウエゾ老人とリンは窓から中の様子を見守った。
ニャァァアアァァ!
ニャアア!
無数の猫が四方八方からシェイドに飛びかかる。
シェイドは盾をクルクルと動かして猫の攻撃を防ぎ、時には持ちてを変えたりしゃがんで足をを守っている。
猫を一切寄せ付けず全てバックラーで弾き返し続けた。
懐中時計を見ていたウエゾ老師が声を張り上げる。
「そこまで! よくやったシェイド、よくぞ試練を成し遂げた」
シェイドは新たな引っかき傷がない状態で小屋から出て扉を閉めた。
「ウエゾ老師! リン! シェイド! やっぱりここに居たんだね?」
遠くから呼びかける声がするので振り向くと髪が伸び放題の浮浪者のような格好の男が手を振って駆け寄ってくる。
「ひょっとして……スヴェンか?」
「うわっ、魔法の夜くさっ」
「スヴェン君もどうやら成し遂げたようじゃな。
よろしい、君達は今より剣闘士として正式に入門したと認めよう。
これからは本当の戦いの技術を教えていくぞ」
「よろしくお願いします! 老師」
「よろしくお願いします! 老師」
【スヴェンは魔法を極めた】
【シェイドは盾での防御技術を極めた】
はしゃぐスヴェン達とウエゾ老師をを遠くから二人のモンクが見守り、語り合っていた。
「ウエゾ師範があんなに楽しそうに弟子を指導してるのを見るのは久しぶりですね。
何でモンクを辞めちゃったんでしょうかね?
大僧正の候補でもあったのに」
「彼は世俗の欲を断ちきれなくてな……。
自分に正直な男だったからの」
「ところであそこで見ている老騎士と従者は何者ですかね?
只者ではない強さだというのは私にも分かります」
「ふむ。あれはARCCの団長マサイアスじゃの。
マサイアスが興味を持って自ら見に来るとは……
ホッホッホッ、あの弟子達のこれからが見ものじゃの」




