↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/185

第三十五話「正義の鉄槌」

 壁が開くと目の前には距離を置いて立ち尽くす無数のアンデッドがいた。

 床には落ちて割れた石棺の蓋の残骸が散らばっている。

 ここは最初の霊廟発見時に探索した十字型の石棺安置エリアの一つのようである。

 スヴェン達が中へと移動すると背後で元来た壁が閉じた。


「どうするスヴェン? 入り口は一つ。しかも広い大穴のど真ん中にある螺旋階段だ。

 どう考えても待ち構えてるぜ」

「普通に考えればしばらく篭って根比べか……。

 でもカゲヒサさんは常々言ってたよね。

 戦いは1秒でも早く判断して行動しないといけない。

 全員が休まず必死で行動することが勝敗を分けるって」

「いくら私でもあの螺旋階段からサンドラ達が注目している中、隠れて出て行くのは不可能だわ」


 黙って話を聞いていたアモイが思い出したように口を開く。


「換気口だよ。ほらあそこの天井の端に穴があるだろう?

 必ず外に繋がっているはずさ。今もね」

「よし、石棺を積み重ねて登れば届くはずだ、急ごう」


 スヴェン達は全員一緒に石棺を運んで積み重ね、ようやく天井の換気口へと届いた。

 マジックトーチの明かりを照らしながらアモイが覗きこむ。


「間違いない。空気はこの先に流れている。

 こういう重要な施設は最低でも人がメンテナンス出来るような幅で作られているんだよ。

 オイラが先頭を行こう。付いて来てくれ」


 アモイが言うと同時に霊廟の中にパチパチという音が響き渡った。

 焦げ臭い匂いとともに煙が奥の通路から流れ込む。


「あいつら多分霊廟の入り口で生木を燃やしてるぞ!

 いぶり殺すつもりだ」

「急ごう」


 アモイを先頭にスヴェン達は石造りの換気口を四つん這いで這いながら進んだ。


「ごほっ! ごほっ!」

「煙が目に染みるわ」


 既に霊廟内は煙が充満し換気口にも流れ始めている。

 数百メートルは移動しただろうか、アモイは地面の無い開けた空間にたどり着いた。

 マジックトーチの灯る指と首を空間に出して眺めると井戸の中のような場所である。


「深い井戸の壁みたいだ。何処まで深いか分からない」

「もうそこから上に上がるしか無いよ。

 このままでは煙でみんなやられてしまう。

 アモイさん、魔法を掛けるよ?」


 アモイの直ぐ後ろに居たスヴェンは四つん這いのままで呪文を詠唱した。

 アモイの体が宙に浮く。


「浮遊の魔法を掛けた。数分しか持たない、早く上へ登ってくれ」

「分かった」


 アモイを先頭にスヴェン達は次々と井戸の中を浮遊して上へと登る。

 しんがりのシェイドにはリンが浮遊の魔法を掛けた。

 井戸の天辺にたどり着いたアモイはしばらく周囲を観察し、崩れそうな石を少しずつ押してどかせていく。

 ついに人が入れる隙間ができてアモイはそこから外へとでた。

 スヴェン達も後に続く。


「ここは……最初に見つけた祠か!」

「換気口だったみたいだね。雨水の侵入を防ぐために井戸のような構造になってたんだろう」

「さて……あいつらどうしてくれようか」

「まずは偵察からだよ。行こう。アモイさんはここで隠れていてくれ」

「嫌だよ、一人にしないでくれ。足手まといにならないようにがんばるからさ」


 スヴェン達は発掘現場へと静かに移動した。

 茂みに隠れて覗くとサンドラ・キャットと手下達は全員人夫たちの掘った深さ5メートルの大穴に降りて煙の立ち上る螺旋階段を囲んで騒いでいた。

 少し離れた場所では生き残りの人夫が二人、地面に打ち付けられた一本の杭に並んで縛り付けられ、足元には薪が積み上げられている。


「信じられないぜ……あいつらにとってあれが娯楽なのか……」

「皆、考えがある……」


 スヴェンはリンとシェイドとアモイにヒソヒソ話をすると全員がその場を離れて別々の場所に移動した。

 しばらく後、片手で魔法を発動させながらスヴェンが森の中から現れた。

 発掘現場に手を振り下ろすと空中に浮かんで現れた蜂の巣が手下達の中に放り込まれる。


「ぎゃあぁぁ! 誰だ蜂の巣を投げ入れた奴は! いてっ、いてて」

「畜生なんとかしろ」


 手下達は必死で武器を振り回しながら混乱する。

 注意がそれている間にリンが杭に繋がれた人夫達の元へと飛んで移動し、縄を切った。


「おーい! こっちだ早く走れ!」


 アモイが発掘現場の穴の上から梯子を持って人夫達へと叫ぶ。

 人夫は二人共全力で梯子へ走り始めた。

 それを見たサンドラが人夫を葬ろうと詠唱の構えを取ったが、即座にスヴェンのスピットファイアが穴の上から飛び命中した。


「あいつ! 何処から出やがった! 舐めるなよ?」


 サンドラはテレポートの魔法を詠唱して穴の上の縁、スヴェンの眼の前に瞬間移動してショートスピアを構える。

 そこにはスヴェンだけでなく、シェイドも戦いに備えて並んで立っていた。


「雑魚がっ! 2対1なら勝てると思ったか!」

「いくぞっ! スヴェン!」

「ああっ!」


 スヴェンの初手ポイズンの魔法を発動、サンドラは魔法に抵抗し毒を跳ね除けた。

 シェイドが続けてサンドラに宝玉の剣で斬りかかる。


 その頃、人夫二人は梯子を登り切り、アモイは人夫と協力して梯子を引き上げていた。

 サンドラの手下達は5メートルほどの穴の中に、ハチに刺されながら取り残される。

 アモイは人夫たちに狩猟用の弓と矢を配り、3人揃って手下達に狙いを定めた。

 だが3人共引き絞った矢を指から離せないでいた。


「さぁ! パーティーの始まりよ!」


 リンが業火の魔法を詠唱、穴の底が火の海となり、蛮族達は熱さと混乱で大騒ぎである。


「あああぁぁぁーー!」

「くらぇ! くらぇ! くらぇええ!」


 アモイと人夫達は声を上げつつ目を半分閉じながら矢を乱射し始めた。


 反対側で、スヴェンとシェイドの戦いは続いていた。

 シェイドはサンドラがどんなに逃げようともかっちりと張り付いて剣を振るう。

 サンドラの攻撃は巧みに盾で回避していた。

 スヴェンはシェイドの回復を行いつつも、常時サンドラに低級魔法を乱射して詠唱つぶしを行いつつヒットアンドアウェイでハルバードを打ちつける。

 サンドラは流石に赤猫旅団幹部というだけあり、レッサーヒールを挟みつつ対応していた。

 そしてシェイドよりもスヴェンを積極的に狙い続ける。

 彼らの行う対人戦闘で勝敗を分けるのは瞬間火力。

 サンドラを葬るポテンシャルを持つのがスヴェンだと分かっているためである。

 例えシェイドに切られようともスヴェンにファイヤーボールを放ったりなど、息付く暇を与えない。

 それを看破したシェイドはシールドを構えて捨て身でサンドラを大木の幹に押し付けた。


「スヴェン! いけぇええええ!」


 スヴェンは爆発の魔法を詠唱、指先に光が灯りサンドラを指差して開放する。

 一呼吸置いて稲妻ボールの魔法を詠唱、手に魔力が凝縮された状態でハルバードを振りかぶって突撃し、サンドラに打ち下ろした。

 シェイドはギリギリで横に飛び退いてハルバードを回避する。

 ハルバードはサンドラの胸部に打ち付けられ、同時に天から稲妻が走ってサンドラに直撃する。

 間髪入れずに最初に詠唱した爆発の魔法が発動してサンドラの腹部が炸裂、爆風で後ろに飛ばされながらスヴェンの手から稲妻ボールが放たれてサンドラに命中。

 サンドラは目を見開いたままその場に倒れた。

 肩で息をしながらスヴェンとシェイドはしばらく倒れたサンドラを眺めていた。


「やったぞ……俺達はやったぞ!」

「ああ、まずは一人だ」

「スヴェン、最後の稲妻もお前の魔法か?」

「極稀に発動するみたいだね。このハルバードに込められた魔力だよ」

「そうか……あのタイミングでその極稀が発動するとは……まさに天誅って奴だな」

「それよりリンとアモイさんのところへ戻ろう」


 スヴェン達がリンとアモイの元へたどり着くと、既に戦いは終わった後であった。

 穴の底には死体のみが転がっている。

 その場にへたり込んでいたアモイが口を開く。


「スヴェン君、シェイド君……勝ったんだね!

 君達はサンドラ・キャットを倒したんだね?」

「ああ、戦いは終わったよ。アモイさんこそ大丈夫?」

「私は大丈夫だが……。

 大勢の手伝ってくれた人達が巻き込まれて死んでしまった。

 セルバゼイの人達には申し訳ないことをしてしまった……。

 彼らに償いをしなければならない。

 そこに有る宝物は彼らの家族への保障に当てることにするよ。

 もちろんそれで済むもんじゃないとは分かっているけどね……」


 アモイが指差す方向にはサンドラの手下たちが持ちだした宝物が積まれていた。


 スヴェン達と生き残った人夫二人は宝物を運びながらセルバゼイの街へと戻った。

 アモイとともに起こったことを報告し、謝罪をしながら宝物を分けて回る。

 眼の前で顔を覆って泣き崩れる婦人や子供を前にしてスヴェンとシェイドは身の置き所がない重い空気を感じながら沈んていた。

 犠牲者全員の家族を回った後アモイは言った。


「スヴェン君、シェイド君、君達が悪いんじゃない。

 本当に悪いのは赤猫旅団と……オイラさ……。

 オイラはまだやらないといけないことがあるから残るけど、君達はもう帰って良いよ。

 君達のおかげで本当に助かった。オイラは心から感謝しているよ。

 その武器はもう君達のものだ。

 あと報酬も払わないとね」


 アモイはスヴェンとシェイドとリンにそれぞれ10万ゴールドの銀行手形を渡した。


「ちょ、これ多すぎないか?」

「君達にはそれを受け取る権利がある。サンドラ・キャットを倒したんだからね。

 役人にサンドラ・キャットの死体を引き渡したのさ。その報奨金が含まれている」

「え? サンドラ・キャットの死体は村人に見せるために持って来たのかと思ってたんだが……」

「スヴェン君とシェイド君の名義で報告したよ」

「良かったね、魔法の夜!」

「あ、ありがとう……」


 数日後、赤猫旅団の本拠地はピリピリした空気で手下たちは全員萎縮して押し黙っていた。

 掲示板にはられたスヴェンの似顔絵の下に、マリー・キャットが0を2つ付け加え、隣にシェイドの似顔絵を追加した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。