第三十七話「ARCCでの集団戦訓練」
はしゃぐスヴェン達の元に軍馬に乗ったマサイアスが従者を連れて歩み寄る。
ウエゾ老師は彼を見て驚くように言った。
「ん? マサイアスではないか。久しぶりじゃのう。何年ぶりかのう……」
「久しぶりだな、マスター・ウエゾ。
共に戦ったのはもう15年は前になるか……」
「こんなところではなんだ、わしの家に来い。
ちょうど目出度く弟子が二人同時に試練を成し遂げたところだ。
一緒になにかご馳走を振舞おう」
「そうか……ではお言葉に甘えよう」
しばらく後、スヴェン達はウエゾ老師の自宅の客間でマサイアス、その従者とともにテーブルを囲んでいた。
子豚の丸焼きが机の真ん中に置かれ、野草のサラダやパンと共にエール入りのグラスが各々の前に置かれている。
ウエゾ老師はマサイアスと十五年前の戦いの話で盛り上がる。
どうもラード王家のお家騒動から発展した大戦争が有ったらしく、反乱を企てた残虐な王子の大勢力を当時の将軍であったマサイアスがモンク達の加勢を得て討伐したそうである。
スヴェン達はその話を聞いて初めてウエゾ老師が元々モンクの師範代という地位に有った事を知るのであった。
「それにしてもモンクでありながら、こんな可愛い子豚の殺生をして食っても良いのか?」
「いやいや、わしはモンクは辞めたんじゃ。よっていくら肉を食っても、酒を飲んでも問題ない」
ウエゾ老師は取り出した酒瓶をラッパ飲みする。
「ははは、そんなものなのか」
「ところで何故ここへ来たのだ? お主もそう暇でもあるまい」
「実はそこのスヴェン君とシェイド君をARCCにスカウトに来たのだ」
「ARCCにか」
老師は酒をがぶ飲みして顔を真っ赤にしているにもかかわらず一気に覚めた表情をして言った。
「彼らはそれを喜んで受けるだろう。
赤猫旅団の討伐をするためにわしに弟子入りしたのだからな。
だがマサイアス、お主がここに来たのが分からんのう」
「彼らは2周間前、赤猫旅団の幹部の一人、サンドラ・キャットを討伐した。
これはARCCの中でも大きな話題になっている。
彼らを引き入れてARCCを強化しつつ赤猫旅団に圧力を与えるべきだとの声が大きくてな。
私が自ら二人を見定めに来たのだ」
「スヴェン、シェイド、お前らそんな事しておったのか」
「すいません、ウエゾ老師にご迷惑を掛けたくなくて秘密にしていたんです」
「マサイアス、お主の目にはこの二人はどう見える?」
「どんな厳しい任務も必ずやり遂げてくれる。申し分なしだ。まだ未熟さがあるがな」
「スヴェン、シェイド。受けるのか?」
「はい、ウエゾ老師ワガママを言ってすいません。
でも僕たちはARCCに入りたいです」
「同じです」
「条件がある。
この二人はまだまだ未熟じゃ。
わしが認めるまではARCCの活動をする時以外はここで修行を続けること。
ARCCとしての活動の内容を二人からわしに報告させる。
よいかな?」
「その条件は必ず守らせよう」
その後二人はマサイアスに求められてサンドラ・キャットを葬った時の事、ウエゾ老師の元での修行の話を続け、夜遅くまで盛り上がっていた。
翌朝、二人が起きてくるのを待ち構えていたようにマサイアスが言った。
「早速だが、ARCCの集会への参加と、集団戦の訓練に参加してもらう。
準備が出来たら付いて来たまえ」
スヴェンとシェイドがトレジャーハントで手に入れた武器を持ち、装備を整えて、各々の馬にのって戻る。
するとマサイアスの従者が魔法のゲートを開き、軍馬に乗ったマサイアスが中へと消えた。
スヴェンとシェイドは慌てて後に続いた。
遅れてリンもゲートに入る。
ゲートを潜った先は巨大な石造りのタワーの前であった。
タワーの周囲は点々と木が固まって生える広大な平野が広がる。
スヴェン達の周囲を大勢の武装した戦士、魔術師が取り囲んでおり、スヴェン達を拍手で出迎えた。
「おおーー、これがサンドラ・キャットを倒したという二人組か」
「思ったより若いな」
「活躍を期待しているぞ」
マサイアスが二人の紹介を終えた後、続ける。
「それでは早速訓練にこの二人を参加させる。
二人共まだまだ集団戦は未経験だ。
皆しっかり面倒を見てやってほしい。
ではスヴェン、君は魔法系チームに入ってもらう。
指揮官はARCCの誇る百戦錬磨の魔法使いレディー・エンゼル」
「え、エンゼルさん! ARCCのメンバーだったんですね?!」
「お久しぶりね。ここで会うことになるとは思わなかったわ」
「そしてシェイド、君は戦士系チームに入ってもらう。
指揮官は歩く金剛石、ドワーフのグリム」
「あ、あなたはあの時の!」
「ふぅむ。中々たくましくなったな」
「まずはそれぞれのチーム内でのブリーフィングだ。
それでは一旦解散」
スヴェン達魔法使いチームは5つ程の石柱の並ぶ広場に集められていた。
スヴェンを含むまだ新入りの魔法使いが5人ほどエンゼルの周囲に立つ。
「いい? 魔法使いの集団戦の基礎、それは魔法攻撃の集中よ。
我々の使う魔法は相手が素人でないかぎり、高い魔法抵抗を持つ敵を一撃で葬る威力は無いわ。
だが複数人が同時に一人を狙うと回復の暇もなく一撃で戦力を刈り取る事ができる。
全員、今から爆炎の魔法を詠唱しなさい、初め!」
スヴェン達5人の新入りは一斉に爆炎の魔法を詠唱し、手に炎のオーラを纏い、何時でも発動出来る準備についた。
レディー・エンゼルが言葉を続ける。
「私があの5つの石柱の内一つに爆炎の魔法を命中させるわ。
それを見たらすかさず全員同じ石柱に発動しなさい。
いくわよ!」
レディー・エンゼルが一つの石柱に爆煙の魔法を命中させた。
即座に4つの爆炎が連続命中、一つは遅れて命中した。
「あなた! 遅いわよ? 常に神経を集中しなさい。
もう一度全員詠唱!
いくわよ!」
一つの石柱に6つの爆炎がほぼ同時に命中した。
「よろしい。
それでは馬を歩かせながら行うわ。
魔法使いならば戦闘時は常に魔法を詠唱し、何時でも発動出来る状態を維持すること。いいわね?」
スヴェンは訓練された魔法使いの集団の恐ろしさを改めて認識した。
一撃でも瀕死になる爆炎の魔法をこれだけ同時に喰らえば確殺、即死である。
赤猫旅団が恐れるわけである。
一方、シェイドは戦士たちと共にグリムの指導を受けていた。
「よいか! 戦士の役割、それは前衛として魔法使いを守る。
……のではない。
前線を維持しながら、集団から外れた敵を捕えて葬ることである!
退却に成功した敵は後衛の魔法使いにより即座に回復されてしまう。
これは実際に体験したほうが理解しやすいだろう。
シェイド、今君が立っている場所が敵中で孤立した最前線だとしよう。
向こうの木の場所まで急いで退却してみろ」
シェイドが木に向かって走ろうとするとものすごい速度でグリムが眼の前に入り込み斧を構える。
右に左に避けて進もうとしても常に体で退路を防がれた。
シェイドは冷や汗を流していた。
これが実戦であれば自分は背中に魔法の掃射を受けて死んでいる。
すでに眼の前のグリムに退路を遮られ、何度も死んでいるのだ。
死ぬ寸前ではなく訓練で体感出来たことにシェイドは感謝していた。
魔法系、戦士系のレクチャーが終わった後はマサイアスが指揮を取り、合同の訓練を行った。
心がけることはひと固まりになり、孤立しないこと、常に周囲に目を配り抜け目なく集団の意思を悟って動くこと。
そして逆に敵を分断することである。
その活動一つ一つが現実に行えば敵が即座に詰む、練りこまれた戦術であった。
そしてそれを率いるマサイアスのカリスマもありARCCの士気は大いに上がり、一人一人が戦士として強敵に立ち向かう勇気と自信を身につけるのである。




