第十九話「レンジャーキャンプ」
「しっかし、何処まで行っても森ばっかだな」
「でもカルフンガリアの近くと違って大木が多いね。
こんなの初めて見るよ」
「エルフが好みそうな地域ね」
街道の左右に広がる森の木は、スヴェン一人では抱えきれないほど太い幹を持ち、城のような高さまでまっすぐに伸びている。
そして少々肌寒い。
ここは冬になると多くの雪が積もり、高台から見ると真っ白い森になる。
ホワイトウッドランドと呼ばれる所以である。
「止まれ! 見たところ商人では無さそうだが何者だ? この地に何の用だ?」
上から声が響き、スヴェン達は立ち止まる。
身軽に動けそうな布の衣服と簡単な皮の鎧をまとった男が街道に迫り出した大木の枝に腰掛けていた。
地上20メートルはあろうかという高度である。
男は弓を構えてこちらへ向けている。
スヴェンは上を向き声を張り上げた。
「僕たちは旅の者です。
この先にレンジャーの集落があると聞いて来ました。
馬をわけて頂きたいんです」
「わざわざこんな奥地にまで直接馬を買いに来るとは珍しいな。
まぁいい。
蛮族では無さそうだし通行を許可する」
木の上の男は変わった矢尻のついた矢を取り出すと、遥か上空に向けて放った。
矢はピューと笛のような音を立てた。
スヴェン達はその後も街道を歩き続けたが、今までほぼ一直線の一本道だった街道は蛇のように蛇行するように変わった。
「なんだか物凄く遠回りさせられているみたいだわ」
「おい、スヴェン、あそこを見てみろよ、あっちもだ!」
シェイドが左右の大木の上を指差す。
大木の枝には何人もの弓をもった人々が座ってこちらを見守っていた。
「そうか……。この街道と森そのものが彼らの要塞なんだね。
あの高さだと魔法も届かないよ」
「物々しい警備ね。今まででも十人以上居たわよ」
「あ、あそこにテントがいっぱい見えるよ。
ようやくレンジャーキャンプに着いたんだ」
キャンプの門には2匹の巨大なレッドドラゴンが狛犬のように鎮座していた。
全身傷だらけのレッドドラゴン。
見覚えがあるような気がする。
キャンプからフード付きケープを羽織った男が歩み出た。
「旅人というのは君達かね。
長旅ご苦労様。
ほら、ホワイト・トリオムの街はもうすぐだよ」
男はまだ先に続く街道を指差す。
「あの、僕達の目的地はここなんです」
「え? ここ? 変わってるな君達。
ここはホワイト・トリオムの街を侵略から守るためのレンジャー達の前線基地だぞ?
一体何の用だね?」
「レンジャーは動物を手懐けるのが得意だと聞きました。
馬を手に入れるなら彼らに会えと教えてもらったんです。
僕たちは馬が欲しいんです」
「まぁたまに商人に馬を売ったりはしてるよ。ところで君達お金はあるのかね?」
「無いです」
「おいおい……遠路はるばる来てもらって悪いけど、只で馬をくれと言われてあげられるわけないだろう?」
「ほら、言ったとおりじゃないか。どーすんだよスヴェン」
「……だよねーー。どうしよっか?」
その時奥のテントから別の男が顔を覗かせる。
「騒がしいな。何かあったのか?」
「あ、ロックさん。なんかこの子達、馬が欲しいと遠くから旅してきたそうなんですが、お金持ってないんですよ」
「んーー?」
ロックと呼ばれた男はスヴェンたちの前に歩み寄る。
黙ってスヴェンとシェイドを眺めていた。
スヴェンはロックに魂の奥底まで見つめられ見透かされるような気がした。
シェイドも自分の力の全てを見通されるような緊張感を感じていた。
「あっ! 貴方はスタグランドで会った、あの……」
「ボウズ、馬というのは乗るのも簡単にはいかないが、世話して面倒を見るのはもっと大変なんだぞ?
朝から晩まで死ぬまでずっと責任をもって面倒を見なければならない。
餌だっていっぱい食うんだ。まぁドラゴンほどじゃないがな。
他にあては無いんだろう?
だったらしばらく泊まりこんでここの馬の世話をしろ。
それから本当に馬が必要か考えるんだな。
ビクトル! この子たちのテントを用意してやりな。
あと馬の世話係としてこき使ってやれ」
「はい! ロックさん」
「まだ名前を聞いてなかったな。俺はロック。このレンジャーギルドの兵長だ」
「スヴェンです」
「シェイドです」
「リンよ」
「スヴェン、そしてシェイド。スタグランドで会って以来だな。
お前たちのやろうとしている事はなんとなく察しが付いている。
だがそれは修羅の道だ。
本当に自分の歩むべき道か、自分に問うてみるといい。
その離れの大きなテントに占い師のヨハナばあさんがいる。
話を通しておくから今夜会ってみな」
「はい! ありがとうございます!」
遠くからスヴェン達を呼ぶ声がした。
「おい! スヴェン君達! 自分のテントは自分でつくるんだぞ。おしえてやるからこっち来い!」
「はーーい!」
ホワイトウッドランドのレンジャーキャンプ初日。
スヴェン達はキャンプ設営、薪拾いや薪集め、
矢の製作、火起こし、食料の魚を手に入れるための川での釣り、次から次へと雑用を言い渡されて働いた。
シェイドは時折、
「馬の世話だけじゃねーのかよ……」
とぼやきつつも必死でこなす。
リンは体の大きさ的に人間の労働をこなすのは無理なため、森の警備にあたるレンジャーに携帯食料やおやつを届けて回る。
時折隠れてバックレようとしたようだが、熟練のレンジャーに即座に探知、追跡されて働かされていた。
日が沈む頃には3人共クタクタになってテントで寝転んでいた。
【スヴェンは体力と素早さが上昇した】
【シェイドは体力と素早さが上昇した】
【リンは隠蔽能力と忍び歩き能力が上昇した】
テントの入り口の布を開きビクトルが言った。
「スヴェン、シェイド。
起きるんだ。
ヨハナおばあさんが呼んでるぞ」




