第十八話「カルフ三叉での再会と誓い」
スヴェンとリンはカルフンガリアを出て三日ほど一本道の街道を旅していた。
初日は王都近くということもあり、民家や田畑、納屋や倉庫が見られた。
しかし二日目以降はただひたすら森の中である。
延々と続く街道を歩き、いくつ丘を超えただろうか?
「魔法の夜! あそこに店があるわよ」
「本当だ。少し前にすれ違った商人の言ったとおりだね。
こんな森の中に店があるんだね」
店は3つの方角と行き先の地名を記載する標識の後ろに建っていた。
標識で示される行き先は「王都カルフンガリア」「ホワイトウッドランド方面」「エメラルドマウンテン方面」でる。
店の左右は二つに枝分かれした街道が伸びている。
「魔法の夜! この店の一階は茶屋になっているみたいよ?
休憩していきましょう」
「そうするか……道中で集めたマジックエッセンス素材を旅の商人に売って少しだけならお金もあるしね」
「可哀想に……貧乏って悲しいわね」
スヴェンはリンを無視してオープンテラスへ近づく。
テーブルはいくつもあるが客は一人だけのようである。
その客を見たスヴェンは突然その客に駆け寄った。
振り向いた客の顔を見たスヴェンは確信を得て同じテーブルの別席に座る。
「シェイドじゃないか! 何をしてるんだこんな所で」
「スヴェンか? そうか無事にスタグランドから逃げ切れたんだな」
シェイドは背中に古びたカイトシールドを背負い、体の要所要所にライトプレートアーマーを付けて椅子に座り、茶を飲んでいた。
「魔法の夜、知り合いなの?」
「僕が居たギルドのメンバーのシェイドだよ」
「あー、スタグランドの街で見かけたことが有るような気がするわ。
ところで、スヴェンは何を注文するの?」
「えーと、お茶とパンプキンチップスで」
「じゃぁウェイターに言って来るわね? この店はまったく教育がなってないわ……」
リンが厨房のほうへ飛んで離れるとシェイドがスヴェンに顔を近づけて囁く。
「おい、スヴェン……あいつがどんな奴か知ってるのか? なんであんな奴と付き合ってるんだよ?」
「まぁ……。知ってるよ。でも彼女に何度も命を助けられたんだよ。
その……まぁ、善人とは言わないけど悪い奴ではないと思う」
「そうか、お前の命の恩人ってなら仕方がないな。そうじゃなきゃ俺は剣を振って追い払ってたよ」
「ははは……。リンはあれはあれで、只者じゃないから簡単にはいかないと思うよ」
リンがウェイターを引き連れてテーブルへ戻ってきた。
身を乗り出していたシェイドは慌てて元の姿勢に戻る。
ウェイターが皿に積んだパンプキンチップスとお茶、アップルジュースをテーブルに置いて去っていった。
スヴェンは皿を机の中央に移動させるとシェイドに話しかける。
「シェイド、何故一人でこんな所にいたの?」
「お前がギルドを追放された後、俺もギルドを抜けて島を出てきたんだよ。
口には出さなかったが俺もお前と同じ意見だったんだ。
多分お前もウシャドナを目指してたんだろ?」
「鋭いね。はは……」
「やっぱりな」
「ところでシェイド、挨拶も出来ずに島を出てきたけど、ギルドメンバーは無事なの?」
「ああ、墓場で殺されたメンバー以外は今も無事さ。ナーバが赤猫旅団に平伏してお前を惨めに追放したおかげだろうな」
「そうか……良かった。そう言えばシェイド、謝っておきたい事が……」
「言わなくていいよ。あの時はお前がどうにか出来る状況じゃなかった。
仕方のない事さ。俺はお前を責めたり軽蔑したりはしてないよ」
アップルジュースをストローで飲み、パンプキンチップスをパリパリかじっていたリンがキョロキョロし始める。
「ねぇ、ここは本当に治安が悪いみたいね……。はーー。
こりゃあのウェイターもグルね」
オープンテラスから周囲を見渡すと3方向の森の中から曲刀を構えた男が包囲して歩み寄ってきていた。
スヴェンは一気に茶を飲みきってパンプキンチップスを掴んで頬張る。
シェイドも残りののパンプキンチップスを掴んで頬張ると、机をテラスの端っこへ蹴飛ばして空間を作った。
リンは天井の梁へと飛び上がって座る。
スヴェンとシェイドはお互いの死角をカバーするように背中合わせで武器を構える。
スヴェンの正面から近づいてきた男は言った。
「おいおい、今日はついてるぞ。こいつ大姉御が指名手配にしてた奴だぜ。数日前にカルフンガリアでネコ・キャット様に攻撃したって聞いてたから多分間違いねぇよ」
「んーー? おおっ、確かにそうだ。俺達大金持ちだな。ヒャッホーゥ」
「しかも先日賞金がさらに2倍になったんだよな?」
それを聞いたシェイドが剣と盾を構えたまま、背中越しにスヴェンに言う。
「スヴェン、お前ネコ・キャットに攻撃したのか。
お前やっぱ最高だよ」
「魔法の夜、さらに賞金2倍! モテモテじゃーん」
「気を付けろ! 来るぞ!」
3人の蛮族が3方向から走って距離を詰め始めた。
スヴェンはポイズンの魔法を詠唱し、一人に命中させる。
最初の斬撃をスヴェンはロングソードで受け流す。
同時にシェイドもショートソードで反対側からの攻撃を受け流していた。
一人遅れて二人の横から斬りかかる。
しかし横目でそれを見たシェイドがカイトシールドで防いだ。
「やあっ!」
「ぐっ!」
スヴェンの突きが蛮族の胸部に突き刺さる。
だが致命傷では無い。
胸部に血を滲ませながら再び曲刀を振り上げる。
スヴェンは追い打ちにその蛮族の胸部を蹴り飛ばし、襲いかかる別の蛮族の手元をロングソードで払った。
「リン!」
「大丈夫! 私のアップルジュースは無事よ?」
「ちょっとは援護してくれよ。お前のロッキングチェアを運ぶ人間が居なくなるぞ?」
「仕方ないわね」
スヴェンに蹴飛ばされて尻餅を付いていた蛮族が再び曲刀を振り上げて襲いかかる。
しかしリンの魔法パラライズが命中、剣を振り上げたまま全身を硬直させて動きが止まった。
「今だ、2対2。眼の前の敵を全力で倒せ!」
スヴェンは硬直した蛮族を無視し、もう一人の蛮族に怒涛の連撃を繰り出した。
腕に斬撃を受けた蛮族は曲刀を落とした。
スヴェンは振りかぶって最後のスウィングで切り捨てる。
シェイドもカイトシールドでチャージアタックを繰り出し、よろけた相手の胴にショートソードを突き立てた。
残りは一人。
硬直していた蛮族は時間経過でパラライズが解けた。
背を向けて走って逃げ始める。
リンは再度魔法を詠唱。
パラライズを逃げる蛮族にかけると再びストローでアップルジュースを飲む。
最後の蛮族は駆け寄ったスヴェンとシェイドに同時に剣で貫かれた。
ドサリと倒れた蛮族の死体にシェイドが蹴りを入れる。
「このドグサレがっ!」
しばらく後。
オープンテラスの中央へ戻した机を囲んでスヴェンとシェイドが座っていた。
二人は皿に載せられたステーキを頬杖を付きながら頬張っている。
机の前にはウェイターと店主兼コックが直立状態である。
リンが机に座って抗議する。
「あなた達、赤猫旅団が私達を襲うのを知ってたでしょう?
飲み物を出した後、奥の部屋に入って鍵をかけてたものね?」
「すいません! すいません!」
店主とウェイターは土下座した。
「私達もやりたくてやっていたんじゃ無いんです。
こんな森の中じゃ誰も私達を守ってくれません。
生き残るためには彼らに従うしか無かったんです」
「どれくらい襲ったんだ?」
「うううううぅぅぅ・・・・・」
店主とウェイターは泣き崩れた。
「もういいよ。スヴェン一緒に行こう。店主! そこの似顔絵貰って行くぞ」
店主は泣き崩れてひれ伏したまま反応しない。
スヴェンとシェイドとリンは店を出た。
シェイドに率いられて近くにある大木の前に来ると、シェイドが紙を大木に貼り付けた。
赤猫旅団女首領メリッサ・キャットの指名手配の似顔絵である。
「赤猫旅団は滅ぼされなければならない! 奴らは必ず俺達が滅ぼすんだ!
これが誓いの儀式だっ!」
シェイドが思い切りショートソードを振りかぶって似顔絵に斜めに切り下ろす。
大木には深い切り傷が付いた。
「ああっ! 必ず潰す!」
スヴェンがロングソードを振りかぶって似顔絵に斜めに切り下ろす。
似顔絵にクロスの深い傷が掘られた。
リンが魔法を詠唱してミニサイズのスピットファイアのニ連射をする。
似顔絵の鼻に二つの巨大な焦げた鼻の穴が開いた。
「旅団ゆるすまじ!」
シェイドが話す。
「この大木の傷はここが枯野と化そうとも残り続ける。
俺達の再会の記念と誓いの印だ」
「ああ! シェイド共に行こう」
3人は行動を共にすることにした。
ホワイトウッドランドのレンジャーの集落への道はまだ遠い。




