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第二十話「降霊術師ヨハナ」

 スヴェンとシェイドは眠るリンを置いてヨハナお婆さんのテントへと向かう。

 ヨハナお婆さんはテントの入口の外に立って二人を待っていた。

 二人に気がつくと手招きする。


「スヴェンとシェイドじゃな?」

「はい」


 ヨハナお婆さんはしばらく黙って二人を観察する。


「ふむ。よく顔を見せておくれ」


 ヨハナお婆さんはスヴェンの頭を両手で左右から挟んで掴み、無言で目を見つめる。

 しばらくスヴェンを見続けた後、シェイドの頭を掴み同じように観察した。


「ロックが頼み込んでくるだけのものはあるようじゃの。

 よいじゃろ。

 一人ずつテントの中に入れ。

 これから中でお前たちは自分の魂と対話することになる。

 それが想像を絶する恐ろしい物か、明るい希望かは人によって違う。

 だが何を見たかはどんなに親しい人間にも口外してはならん。

 ぬしらに不幸を呼ぶことになるからな。

 まずはスヴェン、中に入れ」


 スヴェンはヨハナお婆さんに付いてテントの中に入った。

 テントの中央には小さな香炉がおいてあり、その下には小さな火がたかれていた。

 ヨハナお婆さんはスヴェンを香炉を挟んだ自分の向かい側に座らせた。

 そして両手に頭が輪になった十字架のようなものを持ちマントラを唱え始めた。


 「Ah…‥Ri…Sur……Kar……」


 スヴェンは陶酔状態になり、体が浮いたような気分になった。

 だが意識ははっきりしており周囲の光景はしっかりと見える。

 ふと気が付くとヨハナお婆さんのそばに人が立っていた。

 姿に見覚えがある。

 スヴェンは驚きと不安を抱きながら視線を上に登らせていく。


「エリィ……エリィ!」


 スタグランドの墓場で殺されたエリィである。

 マントラを唱え続けるヨハナお婆さんの周囲に次々と人が現れた。


「みんな……」


 スヴェンの頬を涙が伝う。

 エリィが口を動かす。

 スヴェンにはその声がはっきりと聞き取れた。


「スヴェン……。私よ……。久しぶりね」

「エリィ! ごめん皆。あの時僕は何も出来なかった。

 怖かったんだ。

 剣を持ちながら……エリィに教えてもらった色んな魔法を知りながら動けなかったんだ。

 あの時僕が強ければ……戦いを知っていれば……赤猫旅団より強ければ……」


 今度はエリィとは逆サイドにアリスが現れた。


「スヴェン……」

「ごめんなさい! アリスさん。僕は必ずアリスさんに教えてもらった最強の魔法剣闘士、タンクメイジソードマンになるよ。

 そして必ず仇を討つよ」

「スヴェン……私達は仇を取って欲しいとは思っていないわ」

「スヴェン君に死んでもらいたくないわ」

「でも……」


 スヴェンは嗚咽しながら絞りだすように話す。


「エリィが炎の魔法で苦しんでる光景が焼き付いて……。

 アリスさんの亡骸を思い出すと……あいつら……あいつら許さねぇ」

「スヴェン君、私たちはスヴェン君に仇を討ってもらいたいんじゃないの。

 ギルドマスターのナーバを救ってあげて欲しいのよ」

「ナーバを……?」

「ギルドを守るための偽りの言葉、偽りの態度を取る度に彼は魂が張り裂けんばかりの苦しみとともに泣いているのよ」

「彼だけじゃないわ。この世界の至る所で同じような人々がいるのよ」

「今の私達には見えるわ。貴方に委ねられ、貴方が救うべき多くの魂が」


 スヴェンの眼の前が暗闇に沈む。

 気が付くとスヴェンは暗闇の中の丘に居た。

 見渡すかぎりの大平原である。

 無数の人々が叫ぶ姿が見える。

 所々に赤い人々が剣をもち叫びながら揺れている。

 スヴェンの目の前に大きなハルバードを持ち、ウィザードハットを被り、マントを羽織った男が現れた。

 男は一瞬スヴェンを振り返る。

 その顔は暗闇に包まれて見えない。

 男は颯爽とかけ出すと赤い人々を次々をハルバードで裂き、魔法を放って刈り取っていく。


「スヴェン。憎しみに惑わされてはいけないわ。

 貴方の魂の欲するままに、迷うこと無く生きるのよ」

「スヴェン。がんばってね」


 スヴェンは意識を失って倒れた。


「スヴェン、大丈夫かね?」


 スヴェンはヨハナお婆さんに頬を叩かれて目を覚ます。


「ヨハナお婆さん……僕は……」

「多くの霊がおぬしを見守っているようじゃの」

「じゃあ、あれは本当に……」


 スヴェンは再び泣いた。


「落ち着いたらシェイドを呼んできてくれ。次の番じゃとな」



 スヴェンはシェイドと交代するとテントの外に座り空を眺めていた。

 (僕が本当にやりたいこと、やるべきことは何なのだろう……。

 ナーバを救えとアリスさんは言ってたな……。

 だが僕がやるべきことは変わらない……)

 しばらく後、シェイドがテントから出てきた。

 スヴェンの隣に座りシェイドは語る。


「なぁ、お前あのインチキ婆さんを信じてるのか?」

「……分からないけど、僕は信じたい……」

「そっか……。俺はあんな幻術信じないぜ。でもインチキ魔術に付き合ってなんとなく思い出したんだ。

 俺の昔の夢をな」

「夢?」

「だが! 赤猫旅団を潰す! まずやるべきことはこれだ。変わらない!」

「ああ、それは僕も変わらない!」

「さぁ、もう寝ようぜ」


 スヴェンとシェイドはテントに向かった。

 スヴェンの後を歩いていたシェイドは一瞬立ち止まると、満点の空に剣を振りかざして無言で天を指した。


 その頃、ヨハナお婆さんのテントの中にロックが入り、茶を飲んでいた。


「どうだった? 婆さん」

「大したもんだよ。二人共多分異邦人だね?」

「そうらしいな」

「スヴェンという子はこの世界の偉大な力に加護されておる。

 来るべくして、この地に呼ばれたのじゃ」

「ほぅ……」

「シェイドという子もまた未知の大きな力に加護されておる。

 そして同様にこの地に呼ばれた。

 あの子たちは本当に赤猫旅団を葬ることが出来るかものう……」

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