# 第二十二章 鷹が来る(後篇)
# 第二十二章 鷹が来る(後篇)
クリスはステーキを切り分けた。顔を上げずに。
シェフからの説明がほとんど耳に入らなかった。
「未来の皇帝陛下がこの料理を──」
「主婦だ」クリスは横のセル・ヘインに言った。「ブラックウェル帝国の未来の皇帝は、主婦だ」
ヘインは礼儀正しく微笑んだ。
給仕がクリスの前に碗を置いた。
彼はそれを見た。
スープ。麺。卵が二つ。丁寧に盛り付けられて。
横に箸。
目線を上げて、上座のテーブルを見た。
セバスチャンが自分の箸を持ち上げていた。セイリュウに持ち方を教えている。簡単に。自然に。千回やってきたみたいに。
クリスは碗に視線を戻した。
(ラーメン)
完全に動きを止めた。
ヘインが気づいた。「殿下?料理に何か問題が?」
クリスは答えなかった。
(ラーメン)
(西洋のファンタジー帝国に)
(箸と共に)
周りでは他の王たちが、困惑から軽い不満まで様々な表情で碗を覗き込んでいた。一人は箸をスプーンのように使おうとしていた。別の一人は静かに碗を脇に押しやってパンを探していた。
クリスは自分の碗を見つめた。
首の後ろに汗が滲んだ。
もう一度セバスチャンを見た。
セバスチャンはセイリュウが言った何かに笑っていた。くつろいで。落ち着いて。外国の皇太子に箸の持ち方を教えている、世界で一番自然なことであるかのように。
まるで子供の頃から使い慣れているかのように。
一度も箸を見たことのない世界で。
(いや)
(いや、それは──)
(どうして──)
クリスはラーメンを見た。
箸を見た。
セバスチャンを見た。
またラーメンを見た。
(あの皇子は──)
(転生者か?)
ワイングラスを持ち上げた。
飲まないまま置いた。
碗を見つめた。
横のステーキは、手をつけないまま。
「殿下」ヘインが静かに言った。「顔色が優れませんが」
「大丈夫だ」
「ご気分が──」
「大丈夫だと言った」
碗を見つめ続けた。
周りでは宴が続いていた──音楽、会話、正式な晩餐会がそういうものであるための音。
クリスにはその何も聞こえなかった。
(もし転生者なら)
(あいつは知っているはずだ。本来知れないようなことを。歴史を。パターンを。これからの動きを)
(俺はずっと、ヴェルドレイクでたまたま運が良かっただけの箱入り皇子だと思っていた)
箸を持ち上げた。
正しく持った。
誰かに教わらずに。
考えることなく。
気づいた。
置いた。
ヘインを見た。
ヘインは彼の手を見ていた。
「一言も言うな」クリスは言った。
「もちろんです、殿下」
クリスはもう一度、部屋の向こうのセバスチャンを見た。
セバスチャンはこっちを見ていなかった。
セイリュウに集中していた。落ち着いて。ここからでは読めない何かに向かって動いている。
(二人いる)クリスは思った。(ひょっとしたらもっと)
(これは、もっとややこしくなった)
代わりにフォークを持ち上げた。
ステーキを切った。
黙って食べた。
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東京。
窓に雨が当たっていた。
セイリュウはページをめくった。
読んだ。
『ブリテン王国のクリス王は、椅子に深く寄りかかった』
手が止まった。
その一行をもう一度読んだ。
ページから顔を上げた。
何もないところを見た。
「こいつは誰だ」
段落をもう一度読んだ。クリス。ブリテン。経済の二十三パーセント。リンゴ。評議室。
小説を膝の上に置いた。
コートに手を入れた。
ペンを取り出した。
ページに──クリスの名前のところに──先端を押し当てた。前にやったことをもう一度やろうとした。小さな消去。修正。ドラゴンを加えてシャストリンを変えて、盤上の駒を動かしたあのやり方で。
インクが動かなかった。
もっと強く押した。
何も起きない。
背もたれに体を預けた。
名前を見た。
クリス・ウィンザー。ブリテン王。
「俺の小説への、侵入者か」静かに言った。
怒っているのではなかった。怒りより、もっと研ぎ澄まされた何か。
読み続けた。
『ロザリン・ブラックウェル』
『彼女が死んだら、どうなる?』
二回読んだ。
もう一度、小説を置いた。
東京の屋敷の天井を見上げた。
外では、都市が低く唸っていた。ガラスに雨。何も起きていないことを知らない夜特有の、あの音。
「物語が変わっている」彼は言った。「誰かが、ついに自分の駒を動かした」
笑った。
森でのあの冷たい笑みではなかった。セバスチャンの内心を読んで出た、面白がっている笑みでもなかった。
違う何か。ほとんど期待のように見える何か。
「つまり」天井に向かって言った。雨に向かって。誰にでもなく。「俺だけが作者じゃなくなった」
小説を持ち上げた。
ページをめくった。
「面白くなってきた」
つづく──




