# 第十六章 彼が書かなかった庭
# 第十六章 彼が書かなかった庭
日の出前に出発した。
告知も、護衛もなし。セバスチャンは衛兵の一人に行き先を告げて、それだけにした。
厩舎に着くと、アリアナはもうそこにいた。宮廷向きの何かではなく、普段着の乗馬用コートを着て、ピンクの髪を緩く後ろで束ねていた。鞍袋が二つ、すでに準備されていた。
「二人分、用意してくれたのか」セバスチャンが言った。
「あなた、食べ物を忘れるから」
「忘れない」
「ヴェルドレイクへ向かう途中、コートを三回忘れた」
「あれは遠征だった」
「二日の乗馬よ」彼女は黒馬の手綱を渡した。「コート、入れておいた」
彼は手綱を受け取った。
「ありがとう、アリ」
「どういたしまして」
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東への道は、この時間は静かだった。
蹄が固まった土を叩く音だけ。空が黒から深い青へ、端のほうが紫がかった何かへと変わっていく。首都が後ろでゆっくり遠ざかり、城壁が小さくなり、それから木々に消えた。
アリアナは彼の横を走った。前でも後ろでもなく。
最初の一時間、二人はほとんど話さなかった。
満たす必要のない、心地よい種類の静けさだった。
「また空を見てる」彼女がついに言った。
「空が好きなんだ」
「口に出さないことを考えてる時に、あなたはああやって空を見る」
「ただ空が好きなだけかもしれない」
彼女がちらりと横を見た。
「セバスチャン」
「アリアナ」
「戻って二日経ってるのに、まだ何かおかしい」
彼は前の道を見た。
(何かはいつも、おかしい。それがこの状況の全てだ。この話の前提丸ごと全部だ)
「取り組んでる」と彼は言った。
「それは、大丈夫だってこととは違う」
「そうだな」ゆっくり息を吐いた。「違う」
彼女はそれ以上追及しなかった。
ただ横を走り続けた。
(彼女はそういうところがある。全部の答えを必要としない。ただ、まだそこにいると知りたいだけ)
彼は彼女の横顔を見た──解けた髪、普段着のコート、今は自分が与えられる以上のものを求める代わりに、ただそこにいることを選んでいる人間の表情。
(一段落書いた。原稿全体で一段落だけ書いて、先に進んだ)
(彼女は俺が八歳の時から俺を知っている。俺は彼女を、コンビニのおにぎりを食いながら深夜三時に発明した。「いい脇役が書けた」と思いながら)
(俺は本当にひどい奴だった)
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その夜は、東の丘の手前にある小さな宿屋に泊まった。
暖炉が一つ。簡素な食事。宿の主人は二人のどちらの顔も知らなかった。ここ数週間でセバスチャンに起きた最良の出来事だった。
角の席で向かい合って、温かい何かが入った椀を間に置き、暖炉が部屋を明るくする仕事の大半をこなしていた。
「ひとつ聞いていい?」アリアナが言った。
「どうせ聞くだろ」
「当然」テーブルの上でカップをゆっくり回す。「壁の上で、あの夜。あなたが私にキスした時」
セバスチャンは彼女を見た。
「本気だった?」
暖炉が爆ぜた。
「本気だった」彼は言った。シンプルに。条件も付けずに。
彼女は少しの間、視線を合わせていた。
「そう」視線をカップに戻した。「ただ確かめたかっただけ」
「本気じゃないと思ってたのか」
「なんか──その、わからないけど。そういう気分になってただけかと思って。あの夜の月が、すごく劇的だったし」
「あの月は本当に異常に大きかった」
「そうだった」口元が動いた。「でも、ずっと考えてたから。これ以上考える前に聞いておきたくて」
セバスチャンは少し前に身を乗り出した。テーブルに肘をついて。
「アリ。本気だった」
彼女が顔を上げた。
「全部が起きてる中でも。全部を抱えながらでも」視線を合わせた。「本気だった」
彼女の表情の中で、何かが落ち着いた。
安堵とは少し違う。ずっと静かに持ち続けていた問いが、ようやくどこかに下ろされたような。
「よかった」と彼女は言った。
「よかった?」
「よかった」スプーンを持ち上げた。「食べて。全然手をつけてないじゃない」
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庭は、本物だった。
セバスチャンはそれについて三文書いた──東の丘、シャストリン国境への道から見える、誰もちゃんと説明したことのない土の鉱物成分のせいで季節外れに咲く花々。質感のために加えた、世界が人の住む場所に見えるためのディテール。
実際に見たものには、覚悟ができていなかった。
丘の斜面は白と淡い金に覆われていた。何千もの花が、肌には感じられないほどの風にわずかに揺れている。朝の光が東から低く差し込んで、丘全体をどこか内側から光らせているみたいに見せていた。
セバスチャンは入口で馬を止めた。
見つめた。
「あなた、ここに来たことがないんだね」アリアナが言った。
問いではなかった。
「ない」
「私は一度来た。十二の時に」馬を降りた。「その後、父を三回連れ戻させた」野を見渡す。「いつかここに誰かを連れてこようと、ずっと思ってた。見せる価値のある誰かに」
セバスチャンも馬を降りた。
花の端に、彼女の横に並んで立った。
「アリ」
「うん」
「連れてきてくれて、ありがとう」
彼女は横目で彼を見た。
「提案したら四秒で『わかった』って言ったじゃない。別に無理やりじゃなかったけど」
「それでも」
彼女は笑った。
待たずに、花の中へ歩き込んだ。
彼は少しの間、彼女を見ていた──ピンクの髪、普段着のコート、金と白の中を、まるで百回来たことがあるみたいに動いていく。実際にそうだったのだが、と彼は思った。どこにも行ったことがなかったのは、自分の方だった。
彼も、後を追った。
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光が変わるまで、二人はそこにいた。
やがて花畑の真ん中に座った。周りの花が高くて、世界の残りが消えた。上に空だけ、周りに色だけ、花びらを揺らす風の音だけ。
アリアナは両腕を頭の後ろに組んで、草の上に倒れた。
セバスチャンは彼女の横に、肘を膝に乗せて座った。
「何か本当のことを話して」彼女が空に向かって言った。
彼は彼女を見た。
「何?」
「本当のこと。誰にも話していないこと」空を見たまま。「説明しなくていい。ただ──言うだけでいい」
しばらく、黙っていた。
「怖い」ついに彼は言った。「ずっと。全部のことが。これから来るものが。でも理由は説明できない。他の誰にも意味をなさない理由だから」
アリアナは黙っていた。
「そう」と彼女は言った。
「それだけ?」
「本当のことを言ってくれた」彼の方へ顔を向けた。「問い詰めない」
彼は彼女を見た。
(政治的な悲劇と戦争と裏切りの物語を丸ごと書いて、こんなシーンは一つも書かなかった)
(書こうと思ったこともなかった)
(見逃していたものだ)
草の上に、彼女の横に倒れた。
上の空が、とても青かった。
「次はお前の番だ」と彼は言った。
「わかった」少し考えた。「あなたがいなくなった時、私、怒り狂ってた。心配じゃなくて。怒ってた」
「知ってる」
「心配もしてたけど」
「知ってる」
「でも主に怒り狂ってた」
「知ってるよ、アリ」
彼女が彼の方へ顔を向けた。
「それでも、また同じことをすると思う。心配して。怒り狂って。全部」視線を合わせた。「あなたを怖がらせているもの。私、どこにも行かないから」
セバスチャンは空を見た。
目が、少し熱くなった。
それ以上にはしなかった。
「俺もだ」と彼は言った。
彼女は空に視線を戻した。
光が金に、それから琥珀に変わり、最初の星が出るまで、二人は花の中に横たわっていた。
それ以上、長い間、何も言わなかった。
言う必要がなかった。
つづく──
時には、アクションやスリル満載の章よりも、穏やかで少し退屈に感じるような回のほうが、心に深く響くことがあります。楽しんでもらえたら嬉しいです。




