# 第十章 俺が知っていた二つの名前
# 第十章 俺が知っていた二つの名前
レインが、はっと息を呑んだ。
「おい」セバスチャンはもう馬を降りて、彼の肩に手を置いていた。「大丈夫か」
レインはすぐには答えなかった。
辺りを見回した──どこまでも続く青い畑、後ろに伸びる道、自分の下の馬。
自分の体を見下ろした。
鎧。見覚えはない、でも何故かもう体に馴染んでいた。
「ここはどこだ」声が揺れていた。
「おい」セバスチャンが、彼の前にしゃがんだ。
「名前は」レインが彼を見つめた。
「セバスチャンだ」一拍。「どうかしたのか」
レインの目が、大きく開いた。
「マジかよ」鞍の上のエリナが振り向くくらい、大きな声で言った。
セバスチャンを見つめた。本当に見つめた──何年も会っていなかった相手を見る目で。
「蓮」
静かに言った。
落ち着きすぎているくらい静かに。
セバスチャンの顔から心配の色が抜けて、代わりに冷たいものが入ってきた。
剣を抜いた。
「お前は誰だ」
「ちょっと──」エリナが馬を寄せてきた。「何してるの──」
「後で説明する、エリ」
レインが笑った。
彼も剣を抜いた。余裕のある動きで。急がずに。
「ハルト・ネクサスだ」刃を持ちながら似合わない、小さなお辞儀をした。「セイリュウの弟」
「くっ──」
セバスチャンが、素早く踏み込んだ。
レインはそれを難なく弾いた。
もう一度、振り込む。
また弾かれた。
「皇太子殿下だろうと」レインの声には、セバスチャンのような疲弊が一切なかった。「俺には敵わない」
セバスチャンが下がって、今度はもっと強く打ち込んだ。
また弾かれた。
レインが剣の腕を片手でつかんだ。
もう一方の手を、セバスチャンの頭の横に叩き込んだ。
セバスチャンがよろめいた。耳が鳴る。
「バカ」レインは自分の剣を土の上に落とした。その場の道に座り込んだ。空を見上げた。
セバスチャンは剣を構えたまま、荒い息で彼の上に立っていた。
「セイリュウの何が不満なんだ」レインの声が、全部変わった。もう凄みはない。ただ、疲れだけ。「あいつに何を言った。一人で死なせてもらえなかったのか」
セバスチャンを見上げる。
「あいつは、俺も連れてきた」
「どういう意味だ」セバスチャンは剣を少し下げた。
「セイリュウは、俺も殺したってこと」短い、乾いた笑い。「蓮には俺が必要だって言って。俺がたった一人の友達だって言って」
セバスチャンが、完全に固まった。
「待て」声が落ちた。「お前って──」
「光だよ」目を上げた。何かが壊れたものが、その目の奥にあった。「この野郎」
セバスチャンの目が、止める間もなく潤んだ。
剣を落として、二歩でその距離を詰め、光を引き寄せた。
「あ──くそ──」光がその重さに揺れた。
セバスチャンは、もう泣いていた。本当に。芝居は何もない。
「会いたかった。マジで」
「そうだな」光の声も、軽く保とうとしながら割れた。「だからあのネクサスの野郎が俺をここに送ってきたんだろ」
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エリナは少し離れて馬の上にいて、二人を交互に見ていた。会話を丸ごと聞き逃したみたいな顔で。
「二人、何の話してるの」声に、少し鋭いものが混じっていた。「蓮って誰。光って誰。それと、セイリュウが殺したってどういう意味」
セバスチャンは抱擁から離れた。手の甲で顔を拭った。
「話が長くなる」彼女を見た。「いつか話す。約束する」
「美月を見つけないと」光がもう立ち上がりながら言った。
「美月?」セバスチャンが眉をひそめた。
「ああ」光は剣を拾い、土を払った。「俺と一緒に死んだ」
セバスチャンの表情が、一瞬揺れた。
(エリじゃない──もしそうなら、何かで気づいていたはずだ)
(ロザリンかもしれない。それともアリアナ)
(アリアナだけはやめてくれ)
「ネクサス帝国へ向かうのは変わらない」セバスチャンは代わりにそう言って、馬に乗り直した。「お前もそこに向かうはずだったろ、忘れたか」
「そうだな」光は自分の馬に飛び乗った。前に広がる畑を見た。顎が引き締まっている。
(蓮が書いたものとは、もう何も違う)
(ロザリンは、今回は死なないかもしれない。蓮が書いた通りには、もう何も起きないかもしれない)
三人で、しばらく誰も話さずに馬を進めた。
エリナはずっと、セバスチャンを見続けていた。
「答えてほしいの、セブ」声は静かだったが、お願いではなかった。「何も聞かなかったふりして流すつもりなら、それは無理だから」
セバスチャンは彼女を見た。
「わかってる」視線を合わせた。「話してもエリには信じてもらえないかもしれない。でも、話す。約束する」
彼女はゆっくり頷いた。
完全に納得した顔ではなかった。
三人は、馬を進め続けた。
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全然別の場所──
女が一人、石の壁に寄りかかって跪いていた。両手首は、明らかにもうずいぶん長い時間そこにある、鉄の手錠で頭の上に固定されている。
服は、もとは白だったと思われる。今は破れて、土埃で灰色になり、肩と片側に暗い染みが滲み込んでいた。
血。
頭は前に垂れていて、髪が顔に張りついている。
美月だった。
つづく──
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