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# 第九章 赤で囲まれた箱

# 第九章 赤で囲まれた箱


一時間後、光は署の休憩室にいた。第二部の原稿が、テーブルの上で開かれている。


一ページ以上、読めていなかった。


目はずっと、廊下の方へ戻ってしまう。あの誰もいない取調室へ。


(今日、蓮に会うことになる)


(あれ、どういう意味だ)


二枚のページの間から、写真が滑り落ちて床に落ちた。


美月が拾った。


裏返す。


蓮の部屋の写真だった。隅に、赤いマーカーで丸が付けられた段ボール箱が一つ。


「これ、何」


光がそれを見た。「あいつの部屋だ」眉をひそめる。「何で箱の写真なんて撮ったんだ」


美月は写真をもう一度裏返し、何か書いてないか確認した。


何もなかった。


「確かめる方法は一つしかない」


---


蓮の部屋は、ほとんど空っぽだった。


壁際に積まれた箱。ほとんどはすでにテープで閉じられている。床に何冊か、本が残っている。段ボールの匂いと、住んでいる人が死ぬ前から、もう生活が止まっていた部屋特有の、かすかな匂い。


「片付けてるのね」美月が、部屋を見回しながら静かに言った。「ご両親かしら。それか、契約が切れる時に大家さんが」


その先は、口に出さなかった──人が一人いなくなったら、人生はこうなるだけだということを。箱に入れられて。整理されて。他の誰かに決められる。


光は戸口でしばらく立ち止まり、それ以上は入らなかった。


「こうして見ると変だな」声が静かだった。「まるで、あいつが本当にここに住んでなかったみたいに」


「そうなるものよ」美月はもう、一番近い箱の方へ歩いていた。「誰でも、最後には箱詰めにされる」


光は、それには何も言わなかった。


写真と同じ箱を見つけた──同じ角度、窓際の同じ位置。側面の赤い丸は、わざと描かれたもので、まるで蓮が特定の誰かに見つけてほしくて描いたみたいだった。


光がテープを切った。


古い教科書。携帯の充電器。給与明細のファイル。


何の説明にもならないものばかりだった。


念のため、近くの箱も二つ確認した。


それでも何もなかった。


美月は腰に手を当てて体を伸ばし、もう一度部屋を見回した。


「これは手詰まりね」息を吐く。「戻りましょう。残りは誰かにちゃんと処理させる」


光は、もう少しその箱を見つめていた。


「あいつ、俺にここで何か見つけさせたかったんだ」声が静かだった。「何なのか、わからないけど」


「箱の中身じゃなかったのかもしれない」美月はもう扉へ向かっていた。「ただ、あなたがここに来て、あいつの人生をもう一度見ることが、目的だったのかも」


光は、それにも何も言わなかった。


彼女について、外へ出た。


---


車が、縁石を離れて走り出した。


光は窓の外を見つめていた。原稿はまだ膝の上にある。何も言わなかった。


街は静かだった。早朝特有の静けさ──まだ昨夜なのか、もう今日なのか、街自身も決めかねている類の。


美月は、しばらく無言で運転した。


「大丈夫?」ついに聞いた。本当に答えを期待しているわけでもなく。


「いいえ」光は窓の外を見続けた。「今日、蓮に会うことになるって言われた。今日はもう半分終わってるのに、何も起きてない」


「ただ、あなたを揺さぶろうとしただけかもしれない。手続きの前に、神経をすり減らせておこうって」


「かもな」


そう信じている声には聞こえなかった。


美月が、半秒だけ彼を見た。


「これだけは言っておくけど」彼女は言った。「あいつが何者であろうと。これがどう転ぶことになろうと。今夜、あなたは友達のために正しいことをした」


光は、少し笑いそうになった。


少しだけ。


その時、ダッシュボードの画面がちらついた。


雑音。


映像が、像を結んだ。


セイリュウ──どこかのラウンジチェアに座って、足を組んでいる。病院のベッドどころではない場所から、テレビでも見ているみたいに。


「待てよ」光が体を起こした。「何でこいつ──」


「左を見ろ」セイリュウの声が、スピーカーから流れてきた。いつもと同じ落ち着きで。


美月の目が、サイドミラーへ動いた。


トラック。


全速力。逆走車線。眩しいヘッドライト。


「ありえない」光の声が、ほとんど出なかった。「ありえないだろ、おい──」


美月がハンドルを切った。


遅すぎた。


ガシャアン。


---


金属が内側に折れ込んだ。


ガラスが、あたり一面に。


車は交差点を一回転して、止まった。


その後の静寂は、あまりに大きな音の後に来る、あの種の静寂だった。


二人とも、もう動かなかった。


つづく──

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