# 第七章 彼が招かれなかった葬儀(後篇)
# 第七章 彼が招かれなかった葬儀(後篇)
光は、自分の部屋にいた。
原稿が、机の上に開かれている。
読んだ。
セバスチャンは、十万の兵を背に立っていた。
レインは、その前に一人で立っていた。鎧は歪み、剣はまだ構えたまま。
「女一人のために」レインの声は震えていなかった。「お前は全部燃やした。俺が愛した全員を殺した。これとは何の関係もない民間人まで殺した」
「お前は」セバスチャンが静かに言った。「他の誰の物語でも悪役になった。それでも、あの子の物語の中では、まだヒーローでいられると思って」
「だが、ここで。今」
「お前は死ぬ。俺の、愛する一番の友」
光は、椅子に深く座り直した。
「マジか」息を吐く。「蓮、ちゃんといい悲劇書いたんだな」
ページをめくった。
白紙。
さらにめくる。
まだ白紙。
「待てよ」戻ってめくる。前にもめくる。「続きは、どこだ」
裏表紙の内側に、小さく折られたメモが挟まっていた。
開いた。
『これを読んでいる誰かへ──俺は作者だ。
俺は死んだ。
でも、この小説はいい出来だった。俺はわかってる。これが、俺の本当の最後の作品だった。
三部構成にした。今お前が持ってるのは第一部。残りの二つは、俺と一番の親友がいつも座ってた木の枝の下に埋めてある。
あいつを見つけてくれ。源光だ。ゲーム開発者で──ちょっと有名な。あいつなら、場所がわかるはずだ』
光の目が、いっぱいになった。
もう一度読んだ。
(自分が死ぬって、どうしてわかってたんだ)
(あの木に、答えがあるかもしれない。蓮が、俺だけに何か残してくれてるのかもしれない)
(それと、葬儀にいたあの男──あれ、結局誰だったんだ。何でそもそも、あれを持ってたんだ)
立ち上がった。
時間を確認する。
午前3時34分。
考える間もなく、フックから鍵をつかんだ。
---
ドゥカティ・パニガーレV4が、誰もいない道を切って奥多摩へ向かった。
こんな時間、車はいない。ただ黒い道と、一つだけのヘッドライト。
橋の近くに停めた。
森へ入っていく。
すぐに見つかった──蓮とよく何時間も座って、酒を飲んで、仕事の愚痴を言って、どうでもいいことと本当に大切なことの両方を話していた、古い木の下の小さな空き地。
土が掘られたような跡を見つけた。
バッグからシャベルを取り出す。
掘った。
「ああ」息を吐く。「ここだ」
ビニール袋。
中に原稿が二つ。
手を伸ばして取り出そうとした。
よい──
後ろで音がした。
光が振り向いた。
セイリュウが立っていた。
手を振っている。
「何でここにいるんだ」光の声は、信じられないという感情で平らになっていた。
「午前5時だぞ」セイリュウは、本当に確認するみたいに空を見上げた。「景色を見に来たんだ」
「教えろ」光がゆっくり立ち上がる。拳はもう握られていた。「俺がここに午前5時にいるって、どうして知ってたんだ。そもそも、何で第一部を持ってたんだ」
沈黙。
「答えろよ!」
「叫ぶなって」セイリュウの口調は、まったく変わらなかった。「失礼だろ」
「蓮が、お前にあの原稿を渡したんだろ」光の声が、震え始めていた。「それで、お前があいつを殺したんだろ」
セイリュウが笑った。
「なんで俺が殺したと思うんだ?」
光は半秒、固まった。
それを押し切った。
「何で俺をここに呼んだのか、言え」
「蓮には、お前が必要だ」
一拍。
「じゃあ、俺も殺すために来たのか」
「頭がいいな、光」
セイリュウが銃を上げた。
胸に向ける。
「じゃあ、死ね」
バァン。
---
セイリュウの胸に、赤い花が咲いた。
よろめいた。自分の体を、ほとんど興味深そうに見下ろした。
後ろで、木々の間をフラッシュライトが切り裂いた。命令を叫ぶ声。
警察。
土の上に倒れた。
---
光は彼に駆け寄った。顎をつかむ。顔を無理やり上げさせた。
「俺の友達を殺して」光の声は、もう震えていた──悲しみと怒りが絡まって、どこにも綺麗な輪郭のない何かになっていた。「それで、そのまま歩いて行けると思ってたのか」
セイリュウの目を見た。
「これで終わりだ」握る力を強めた。「セイリュウ・ネクサス」
つづく──




