表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/26

# 第七章 彼が招かれなかった葬儀(前篇)

# 第七章 彼が招かれなかった葬儀(前篇)


セイリュウは、自分の屋敷にいた。


小説が、膝の上で開かれている。


その一行を読んだ。


『レインは、光に似せて書いた』


もう一度読んだ。


口元が緩んだ。


「そりゃそうだろうな」


小説を閉じた。


立ち上がる。


コートに手を伸ばした。


---


墓地は、雨だった。


蓮はもう、土の中だった。


母親が、父親の胸に崩れ落ちて泣いていた。誰に見られているかなんて構わない泣き方だった。墓の周りには、黒い傘の群れ──同僚、遠い親戚、セイリュウ・コーポレーションから来た、おそらく一度も直接話したことのなかった何人か。


セイリュウは、その輪の外側に立っていた。


傘はない。


雨は、他の誰にでも当たるようには、彼には当たらないようだった。


墓石の一番近くに、誰よりも近くに立っている男が目に入った──全身ずぶ濡れで、傘もなく、片手に花を持ち、墓石の横の濡れた草の上に、エビスの瓶を一本置いていた。


(エビス)


(こいつ、好きだったよな)


セイリュウは歩いていった。


その横に立った。


男の目は、いっぱいだった。あふれ出ていた、というべきか。


「めちゃくちゃ、ある」彼は、ほとんど自分に向けて言った。何時間も前に誰かに聞かれた質問に、ようやく答えるみたいに。


「あんた、誰だ」セイリュウが聞いた。


「あいつの友達」一拍。「学校からの」もう一拍、もっと長く。「さよならも言えなかった」


「お悔やみを」セイリュウは墓石を見た。「安らかに眠れますように」


「眠れないさ」光の声が割れた。「こんなことした奴が死ぬまで」


セイリュウは彼を見た。


「その通りだ」


雨が止んだ。


---


セイリュウは、蓮の父親の方へ歩いた。


その年配の男は、一週間前より二十歳分は重くなったような顔をしていた。


「こんな形で連れていかれるのは」セイリュウが言った。「辛いですね。きっと、やった奴は見つかるはずです」


頷いた。空っぽに。


「それまでの間──」


セイリュウはコートに手を入れた。


原稿を取り出した。


「蓮さんは、小説を書くのが好きでした」差し出す。「これは、俺が読んだ中で、一番の出来です」


蓮の父親は、両手でそれを受け取った。


表紙を見た。


『セバスチャン──王にならなかった皇子』


---


少し離れていた光が、それを聞き取って振り向いた。


「おじさん──」


近づいてきた。


「それ、もらえますか」


蓮の父親は、手の中の原稿を、長い間見つめていた。


何も言わなかった。


ただ、それを渡した。


もう止まっていた雨の中へ、歩いていった。


---


光は、それが溶けてしまうみたいに、原稿を抱えた。


「蓮、いつこれ作ったんだ」顔を上げる。「で、お前に渡したのか」


セイリュウはもう、立ち去ろうとしていた。


「あいつを置いて楽しんでる代わりに、ちゃんとあいつの人生を見てたら」彼は言った。「わかってたはずだ」


返事を待たずに、歩いていった。


光はそこに立っていた。


もう降っていないはずの雨が、まだ顔に残っているみたいだった。


手の中の原稿を見下ろした。


「お前の最後の作品か」声がほとんど出なかった。「俺の親友」


それを、もっと強く抱えた。


「これ、出版してやる」墓石に向かって言った。草に向かって。誰にも聞こえないところで。「みんなに断られても。自分の金でやる」


息をついた。


「これだけが、まだお前にしてやれることだ」


つづく──

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ