第19話 翠の花火
王都の一角で、地面が割れていた。
石畳は砕け、建物の壁は吹き飛び、周囲には折れた街灯と瓦礫が散っている。
その中心で、ヴァルバトス・ヴォルグが膝をついていた。
両腕の魔装義肢は破壊されている。
砲口も、装甲も、要塞壁の展開機構も、見る影もない。
それでも、ヴァルバトスの眼は死んでいなかった。
目の前に立つ男を、憎悪と恐怖の混じった目で睨んでいる。
ゼギル・ヴァルグ。
黒牙団長。
深淵のゼギル。
ゼギルは、煤けた外套を揺らしながら、つまらなそうにヴァルバトスを見下ろしていた。
「……そんなもんか?」
「くそ……」
ヴァルバトスが、血の混じった息を吐く。
「なんて強さだ……」
「一度も深淵を使わずして、このヴァルバトス・ヴォルグを……!」
その声には、敗北を認めた者の苦さが滲んでいた。
「街を守りながら、圧倒するとは……!」
ゼギルは鼻で笑った。
「深淵?」
「知らねぇな」
「使えるのは分かっているんだ!」
ヴァルバトスが叫ぶ。
「せめて深淵で私を屠れ!!」
ゼギルの目が、わずかに細くなった。
「……見られてんだろ。どっからか」
瓦礫の向こう。
割れた窓。
屋根の上。
あるいは、もっと遠く。
ゼギルは見えない視線を感じていた。
「悪魔の力は、聖教会からしたら禁忌の力だ」
「まぁ、あの歴史があればしゃーねぇが」
「歴史だと?」
「お前ら程度じゃ知らねぇだろうな」
ゼギルの声が低くなる。
「二百年前の空白の歴史だ」
「嘘で塗り固められた、神の虚構」
ヴァルバトスの顔が歪んだ。
「神を愚弄するか……背信者め」
砕けた義肢の残骸が、ぎちりと鳴る。
「必ず、しっぽを出させる」
「出さなきゃ、お前らは終わりだろ」
ゼギルは一歩踏み出した。
その時だった。
「団長」
細い声が、ゼギルの耳元に届いた。
ゼギルの肩に、淡い念糸が触れている。
「ミレーユか?」
「はい」
ミレーユの声には、余裕がなかった。
「コアがまずいです」
「ナザルとハルトで冷やしていますが、もう持ちません」
ゼギルの目が変わる。
「被害は?」
「恐らく、王都の半分は蒸発します」
空気が止まった。
ヴァルバトスすら、言葉を失った。
ゼギルは、遠くの大鐘楼を見た。
その周囲には、巨大な水球が浮かんでいる。
ナザルの大海水牢。
あれほどの質量の海を、陸の上まで持ってきている。
それでも足りない。
「なら、半分以上吹き飛ぶってことだな」
ゼギルが、静かに呟いた。
「ラグナロクの再来……」
「それだけは、止める」
「団長……」
ミレーユの声が揺れる。
ゼギルは、片手を上げた。
「仕方ねぇ」
「見せてやるか、深淵」
「しかし」
ミレーユが、珍しく言葉を挟んだ。
「深淵を使った場合、今後ルヴェリアにより大きな被害が出ると思われます」
「リスティアの感は、当たりますよ」
「あぁ」
ゼギルは、短く答える。
「事前に言われたよ」
「深淵を使うなってな」
「であれば……」
「仲間と国を、天秤に乗せるのか?」
ミレーユの声が止まる。
「……しかし」
「俺は賭けねぇ」
ゼギルの声には、迷いがなかった。
「この問題は、一択だ」
その時、空が割れた。
いや、割れたように見えた。
瓦礫の上空を、大柄な男が飛んでくる。
黒い肌。
巨躯。
凶暴なほどの圧を纏った男。
黒牙第三席。
破壊のマグナ。
その左腕の小脇には、小さな補佐官の少女を抱えていた。
「ゼギル!!」
「マグナ」
ゼギルが顔を上げる。
「帰ったか」
「帰ったかじゃねぇ!!」
マグナが怒鳴る。
「戻ったらなんの騒ぎだ、これは!!」
小脇に抱えられた少女も、目を白黒させながら叫ぶ。
「団長、何言ってるんすか! 説明してくださいッス!」
「話してる時間はない」
ゼギルは、大鐘楼を指差した。
「あの時計台まで、俺を飛ばせ」
「はぁ?」
「今すぐだ」
少女が慌てる。
「いやいやいや、団長を飛ばすってどういうことッスか!?」
「いい」
マグナは、ゼギルを見た。
「ゼギルが言うなら、やる」
「うっす」
少女も、反射的に頷いた。
マグナの念動力が、ゼギルを包む。
薄い。
だが濃い青の魔力が、ゼギルの体表を覆った。
空間が、ぎしりと軋む。
「乗り心地に文句言うなよ!」
「あぁ。分かってる」
ゼギルは、遠くの大鐘楼を見た。
「手のかかる弟ができちまったな……」
小さく呟いた言葉は、風に消えた。
次の瞬間、ゼギルの体が空へ撃ち出された。
同じ頃。
オルガン邸では、窓の外に翡翠色の光が見えていた。
大鐘楼を包む、大海水牢。
その内側で、淡い翡翠の光が膨れ上がっている。
美しい。
だが、あれは死の光だ。
オルガンは歯を食いしばっていた。
「あんな近場でコアを……!」
片眼鏡の奥の目が、焦りに揺れる。
「もう終わりじゃ……!」
「じっちゃん」
背後から声がした。
「まだ早いわ。諦めんの」
サージだった。
隣には、青壁のリーネが立っている。
「そうですよ。オルガン様は、頑固で諦めないところがいいところでしょう?」
「アニマのコアの爆発は、街の半分を消し飛ばす」
「障壁など無意味じゃ」
「私たちは?」
リーネが問う。
「無意味でしたか?」
「なに?」
「俺たちは、じっちゃんに拾われて牙狼院で育ったやろ」
「まともな環境だったやつなんていない。ゴミばっかや」
リーネが続ける。
「それでも、こうしてオルガン様の元で力を発揮できています」
サージが、少しだけ笑った。
「もう一度聞くで?」
「俺たちは、無駄だったんか?」
オルガンの手が、わずかに震えた。
それは恐怖ではない。
歳を取った手だった。
何人も拾い、育て、送り出してきた手だった。
「……そうじゃな」
オルガンは、ゆっくりと息を吐いた。
「無駄かどうかは、やってみるまで分からん」
「じゃが、ワシはお前らを誇りに思っておる」
オルガンは、外套を翻す。
「無駄とは、思わん」
「じゃあ、かっこいいところ、見せてください」
「見せ場は残しといたるわ」
オルガンの口元に、笑みが浮かんだ。
「大魔晶石も使え!」
「金など、死ねば意味もない!」
部下たちが走る。
倉庫に眠っていた大魔晶石が運び出される。
魔力導線が繋がれ、オルガン邸そのものが巨大な術式の核へ変わっていく。
「力を貸せ」
オルガンが両手を広げた。
「張るぞ」
鉄壁の名を持つ男の魔力が、王都へ広がる。
「大魔障壁!!」
「鉄壁のオルガンの真骨頂じゃ!!」
サージが口笛を吹く。
「ひゅー、やるな」
「流石です、オルガン様」
リーネが魔力を重ねる。
サージが魔力配分を読む。
「じっちゃん、均等に伸ばすな」
「中心は大鐘楼、外側は薄くでええ」
「被害地の中心だけ、リーネが補強する」
「任せてください」
青い障壁が、王都の空へ広がっていく。
薄く。
広く。
それでも、確かに街を覆っていく。
オルガンは、歯を食いしばって魔力を流した。
「我が子らよ」
「ワシに力を貸せ」
サージとリーネが、同時に頷いた。
大鐘楼の中。
水の中で、大鐘が揺れていた。
ごおん。
鈍い音が、水を震わせる。
正午。
十二時。
だが、パラサイトコアの分離は始まらなかった。
制御を失っているからだ。
ただ、吸収だけが止まらない。
ハルトの指は変色していた。
熱に焼かれ、肉が黒く焦げている。
それでも、ハルトは手を離さない。
「ハルト……」
エルナの声が、水の中で揺れる。
「もう、止めない」
「でも……」
「エルナ……?」
エルナは、ハルトの手に重ねた自分の手へ、少しだけ力を込めた。
「ありがとう」
「私を、盗み出してくれて」
ハルトの目が揺れる。
「ずっと、言えなかった」
「けど……私……ハルトのことが……」
「ハルト!」
その声が、水牢の外から突き刺さった。
ゼギルの声。
「コアを!!」
「団長!!」
ハルトの目が変わった。
団長なら。
ゼギルなら。
どうにかできる。
「ナザル!!」
「おう!」
ナザルが水牢の外で叫ぶ。
大海水牢に、一瞬だけ穴が開いた。
外の空気。
外の空間。
そして、ゼギルの深淵へ続く道。
ハルトは右目を開く。
「深淵の魔眼!!」
黒い門が、パラサイトコアの周囲に開いた。
パラサイトコアは生体兵器だ。
生きている。
だから、タルタロスでそのまま奈落へ堕とすことはできない。
だが。
「繋がってる部分を……ちぎるくらいなら……!!」
ハルトは、歯を食いしばる。
パラサイトコアの管が、エルナの胸元から引き剥がされていく。
肉を裂くような音。
魔力を引き千切るような感覚。
「う、あぁ……!」
エルナが苦痛に顔を歪める。
「我慢しろ!!」
ハルトが叫ぶ。
黒い門が、寄生していた生体兵器の根を引き剥がす。
剥がれた。
赤黒いパラサイトコアが、エルナの胸元から分離する。
「空纏衝!!」
ハルトの風が、水の中を裂いた。
パラサイトコアが、水牢の穴へ向かって弾き飛ばされる。
その先に、ゼギルがいた。
大鐘楼の外側。
マグナの念動力で飛ばされてきたゼギルが、片手を前へ出している。
ゼギルの影が、深くなる。
「深淵魔法」
空間が縦に割れた。
ただの闇ではない。
穴でもない。
深淵。
深淵の縁には、牙が乱雑に生えていた。
まるで、終わりのない口。
内側から、何かが飢えている。
「第六禍」
「暴食の悪魔」
深淵の口が、パラサイトコアを呑み込んだ。
牙が閉じる。
空間が、無理やり縫い合わされる。
だが。
ゼギルの顔が険しくなる。
「深淵を内に広げる時間が足りない……!」
パラサイトコアは呑んだ。
だが、吸い上げられたエネルギーの全てを、深淵の奥へ落とし切るには時間が足りない。
ゼギルの目が、水牢を見た。
「行けるか?」
ナザルが、鼻血まみれの顔で笑った。
「駄目でもともとぉ!!」
大海水牢が、動いた。
ハルトたちを包んでいた巨大な水球が、時計塔から離れていく。
エルナの胸元から分離されたパラサイトコアを追うように。
ゼギルが開いた、深淵の口へ向かうように。
海流が唸る。
水牢の内部で、巨大な渦が巻く。
大海水牢が、深淵の口ごと呑み込むように膨れ上がった。
水が、牙の生えた深淵の縁を包む。
「ハルト! スイレン! 氷だ!!」
「分かってる!!」
ハルトは、残りの冷気を全て吐き出すように白煙を向けた。
体は限界を超えている。
右手は焼けている。
魔力も尽きかけている。
それでも、ハルトは冷気を搾り出す。
「氷冷爆発!!」
大海水牢の下半分が、一瞬で白く凍っていく。
スイレンも、震える指先を上へ向けた。
残った魔力は多くない。
だが、目の前にはナザルの水がある。
「ナザル様の水があれば」
スイレンの瞳が、氷のように澄んだ。
「私はまだやれる!!」
海水が巻き上がる。
水球の上半分から、巨大な五本指が形作られていく。
腕ではない。
手首すらほとんどない。
掌と五本の指。
巨大な氷の手が、大海水牢の上部を掴むように形成された。
「氷神手!!」
氷の手が、大海水牢を上から押さえ込む。
下半分は、ハルトのダイヤモンドダスト。
上半分は、スイレンのシヴァハンド。
その全体を、ナザルの大海水牢が包む。
一瞬。
時が止まったように見えた。
次の瞬間。
衝撃が走った。
音より先に、王都の空気が押し潰された。
大海水牢が内側から膨れ上がる。
凍った下半分に亀裂が走る。
シヴァハンドの指が、ぎしりと軋む。
爆発の第一波。
それは火ではなく、圧だった。
水牢の表面が歪み、凍結した氷が粉々に砕ける。
だが、まだ破れない。
ゼギルのベルゼブブが、大部分を喰らっている。
ナザルの大海水牢が、衝撃を押し込めている。
ハルトとスイレンの氷が、形を保たせている。
そして、第二波が来た。
翠の火が、深淵の口から漏れた。
水の中で火が咲く。
氷を砕き、海水を沸かし、空へ抜けようと暴れる。
だが、その大部分は花火のように散った。
深淵に喰われ、海に冷やされ、氷に押さえられた火が、王都を焼くことなく上空へ逃げる。
オルガンの大魔障壁が、街を覆った。
最後に漏れた衝撃と熱を、薄い障壁が受ける。
「耐えろぉぉぉぉ!!」
オルガンの怒号が、王都のどこかから響いた。
翠の火が、空へ広がった。
抑え込まれた爆発は、王都を消し飛ばすことなく、空の上で開いた。
巨大な花火のようだった。
翠の火が、ゆっくりと落ちていく。
王都の空に、光の雨が降る。
水の粒。
氷の欠片。
翠の火。
それらが混じり合い、春の空を幻想のように染めていた。
大鐘楼の踊り場。
水が引いていた。
ハルトとエルナは、びしょ濡れのまま、踊り場の縁に並んで座っていた。
ハルトの右手は、ひどい火傷を負っている。
肉は黒く焼け、指先はまだ震えていた。
それでも、ハルトは空を見ていた。
エルナも、同じ空を見ていた。
翠の火が、ゆっくりと落ちていく。
「助かった……」
ハルトが、かすれた声で呟いた。
「団長のおかげだ……」
エルナは首を横に振る。
「ううん」
濡れた髪が頬に張りついている。
それでも、エルナは小さく笑った。
「みんなのおかげ……」
ハルトは、少しだけ黙った。
たしかにそうだった。
ナザルが海を持ってきた。
スイレンが氷で押さえた。
ゼギルが深淵で喰った。
オルガンが街を守った。
ミレーユが繋いだ。
マグナが飛ばした。
エルナが諦めなかった。
誰か一人でも欠けていれば、王都は消えていた。
翠の火が、またひとつ落ちる。
「不謹慎かもしれねぇけど……」
ハルトは、空を見上げたまま言った。
「綺麗だ」
「うん」
エルナも空を見る。
「まるで、花火だね」
「あぁ」
エルナが、そっと身を寄せた。
濡れた髪が、ハルトの肩に触れる。
小さな頭が、ハルトの肩に預けられる。
ハルトは何も言わなかった。
ただ、落ちていく翠の火を見ていた。
最後の時間みたいに。
忘れたくない景色みたいに。
その下で。
「おわっ!? あぶねぇ!!」
爆発の余波で落ちていくナザルを、セリカの銀糸が優しく受け止めていた。
「ありがとう、セリカちゃん!」
「気をつけてくださいね」
セリカは冷静に言った。
スイレンも、びしょ濡れのまま近くに降りてくる。
「ナザル様」
「なんだよ、スイレン」
「俺、結構ヒーローだったろ?」
「これは寝られませんね」
「え!? なんでだ!?」
ぼとっ。
何かが、石畳に落ちた。
ぼとっ。
ぼとぼとっ。
魚だった。
しかも、無事な魚ではない。
海と一緒に巻き上げられ、爆発と氷と衝撃に揉まれた、魚のばらばら死体が、街へ降り注いでいた。
「海を持ってきた弊害です」
スイレンは淡々と言った。
「うそ……だろ……」
ナザルが青ざめる。
「俺、結構ヒーローだった」
「結構いろいろやった」
「ダメなの?」
その背後から、ゼギルが歩いてきた。
「だ、団長!」
ナザルが背筋を伸ばす。
ゼギルは、街へ降る魚を見た。
瓦礫。
水浸しの通り。
悲鳴。
怒号。
魚。
そして、ナザルを見た。
「後片付けは……まぁ、ナザルが適任だろう」
「いつも俺にはそればっかじゃないすか!!」
「お陰で寝れてないんすよ!」
「それだけ期待している」
「はぁ……」
ナザルは顔を覆った。
「それ言えば頑張ると思ってさぁ……」
「思っている」
「思ってた!!」
ゼギルは短く笑った。
大鐘楼の踊り場で、エルナはハルトの右手を見た。
「手、大丈夫?」
「あー……」
ハルトは、自分の手を見る。
明らかに大火傷だった。
手のひらの肉が黒く焼け、指の一部は変色している。
「まぁ、今は痛みないけど」
「クロードには怒られるだろうな」
「ハルト」
「ん?」
「ありがとう」
ハルトは、少しだけ目を逸らした。
「礼はいらない」
「エルナを盗んだのは俺だ」
エルナは、ふふっと小さく笑った。
「そうだよね」
「自分勝手に」
「あぁ」
ハルトも、少しだけ笑う。
「盗賊だからな」
翠の火が、またひとつ落ちた。
エルナは、空を見上げたまま呟く。
「離れたくないな……ルヴェリア」
ハルトは、何も言えなかった。
それができないことを、知っているから。
エルナは西へ送られる。
安全のために。
戦争を避けるために。
黒牙が、ルヴェリアが、エルナを抱え込まないために。
それでも。
「……そうだな」
ハルトは、そう答えた。
盗んだ少女を、返さなければならない。
その事実だけが、花火の光よりも静かに、胸の奥へ落ちていった。
ハルトとエルナは、しばらく並んで空を見ていた。
散りゆく翠の花火を。
終わりが近い、一週間の光を。
その頃。
大鐘楼から少し離れた裏路地で、バジリオ・ヴェルクラフトの体が瓦礫に埋もれていた。
砕けた壁。
折れた雨樋。
血に濡れた石畳。
両腕を失った体のそばで、割れた通信装置が火花を散らしている。
『応答しろ、バジリオ』
『映像は途切れた。状況を報告しろ』
瓦礫の中で、バジリオの赤い義眼だけが、まだ光っていた。
「見た……」
血と煤に汚れた口元が、歪む。
「見たぞ……深淵を見た……!」
「ひひ……ひひひひ……最高だった……!」
『了解。ゼギルか?』
「あ?」
バジリオの義眼が、ぎょろりと動いた。
「ゼギル?」
「それも見た。だが、あんなものじゃない」
『なに?』
「あれは所詮、悪魔使いだ」
通信の向こうで、空気が変わる。
「ハルト……」
バジリオは、笑った。
「白煙のハルトだ」
「あいつは深淵に適応している」
「自らが深淵を扱う人間だ!!」
「あーはっはっはっは!!」
『……ちっ。錯乱しているのか?』
『義眼の映像を回収する。動くなよ』
「ひひ……」
バジリオは、崩れた屋根の隙間から見える空を見上げた。
翠の花火が、まだ遠くで散っている。
「ハルト」
その声は、ひどく優しかった。
「お前は、世界をひっくり返す」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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