表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生した底辺盗賊の俺、悪名を喰らって悪の帝王へ成り上がる  作者: タクト
第六章 白煙と魂晶の少女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/108

第15話 白煙三牙・初陣



 赤い魔力が、石畳を削った。


 ソードの大剣が振り下ろされる。

 ランスの槍が喉元を狙う。

 レッグの蹴りが、視界の外から飛んでくる。


 どれも速い。


 どれも重い。


 ひとつ受け損なえば、それで終わる。


 ルーカスの黒鋼手甲が軋んだ。

 ベルノの小盾が火花を散らした。

 シャノンの二又の尻尾が、赤い蹴りを弾き損ねて宙を裂く。


「くっ……!」


 ベルノが膝を滑らせる。


 その頭上へ、ソードの大剣が落ちた。


 重い。

 ただ速いだけではない。

 大剣の重さに、魔道義肢(アームズ)の出力が乗っている。


 ベルノ一人では、受ければ潰れる。


「ベルノっち!」


 横からシャノンが滑り込んだ。


 二又の尻尾が、大剣の腹を叩く。


 受け止めるのではない。


 ずらす。


 軌道をほんの少しだけ逸らした大剣へ、ベルノが小盾を差し込んだ。


 大剣はベルノの肩口ではなく、石畳へ叩き込まれる。


 地面が割れた。


「助かった!」


「貸し一つにゃ!」


 その瞬間、ランスの槍がルーカスへ伸びる。


 長い。

 速い。

 黒鋼手甲で正面から受ければ、腕ごと押し込まれる。


 そこへ、ベルノの鎖が走った。


 槍の根元を絡め、小盾で穂先を流し、剣の柄で軌道を叩く。


 ランスの槍は、ルーカスの肩を掠めて外れた。


「今度は俺の番だ!」


 ベルノが叫ぶ。


 次に、レッグが消えた。


 赤い残光だけが走る。


 狙いはシャノン。


 速い。

 そして重い。


 シャノンは視線だけを動かした。

 避けるには間に合わない。


「ルカ!」


「うん!」


 ルーカスが一歩、前に出る。


 黒鋼手甲が、レッグの蹴りを受け止めた。


 火花が散る。

 石畳に亀裂が走る。

 ルーカスの腕が、ぎり、と嫌な音を立てた。


 それでも、止めた。


 シャノンは、黄色い瞳を細める。


「相性とチームワークの問題だにゃ」


「違いない」


 ベルノが息を整えながら、ソードたちを見る。


「お前らは強い。けど、互いを信用してない」


 ルーカスも頷いた。


「普段からやってるから。チームワークなら、俺たちだね」


 ランスの顔が歪んだ。


「何がチームワークだ」


 肩口の魔導回路が、赤く燃える。


「戦争では協力はする。だが、馴れ合いなどいらない」


 槍が伸びる。


「圧倒的な強さのみが戦場を支配する! チームワークなど、弱者の戯言に過ぎねぇ!!」


「待て、ランス!」


 ソードが叫ぶ。


 だが、遅い。


 ランスが一直線に飛び込んだ。


 その突きは速かった。

 先ほどまでなら、三人の誰かを確実に貫いていた。


 だが、今は違う。


 ベルノの鎖が、槍の根元を絡める。


「今だ!」


「任せるにゃ!」


 シャノンの二又の尻尾が、ランスの胴を捉えた。


「なっ……!」


 ランスの体が引き寄せられる。


 シャノンが跳ぶ。


 小さな体が宙で回り、ランスの頭を横から蹴り抜いた。


「ぐっ……!」


 ランスの体勢が崩れる。


 そこへ、ルーカスが踏み込んだ。


 右拳に、風が集まる。


 拳には真空。

 敵には向かい風。

 自分には追い風。


 ランスは後ろへ跳ぼうとした。


 だが、体が前へ吸われる。


 槍の間合いが、半歩狂った。


 ルーカスは逆に、追い風を背に踏み込む。


 逃げるランス。

 追うルーカス。


 その距離が、一瞬で潰れた。


一陣之風(いちじんのかぜ)!!」


 真空をまとった黒鋼手甲が、ランスの胴へ触れる。


 その瞬間、風がランスの体を拳へ押し付けた。


 逃げられない。


 受け流せない。


 拳の表面で、真空が潰れる。


 次の瞬間、衝撃が爆ぜた。


「かはっ……!」


 ランスの体が、槍ごと吹き飛ぶ。


 壁へ叩きつけられ、肩口の魔導回路が火花を散らした。


 白目を剥き、そのまま崩れ落ちる。


 動かない。


 気絶していた。


 ベルノが、剣を構えたまま言う。


「これで二対三だ。引けよ」


 ソードは倒れたランスを見た。


 それから、白煙三牙を見る。


「……仕方ない」


 ソードは大剣を下げた。


「ここは引くしか――」


「何言ってんの?」


 レッグの声が、冷たく割り込んだ。


「ここで帰って作戦に支障が出たら、私たちは処分されるに決まってるでしょ」


 両脚の魔道義肢(アームズ)に、赤い魔力が走る。


「それに、私は両足に二つアームズをつけてるのよ」


 レッグが笑った。


「あんたたち二人とは、格が違う」


「それを上回る才能が黒牙にいたということだ」


 ソードは静かに言う。


「認めるしかあるまい」


「馬鹿言わないで!」


 レッグの声が裂けた。


「私は負けてない! あんたたちが弱いからよ!!」


 ベルノの眉が動く。


「狙いはエルナじゃねーのか」


「エルナ?」


 レッグは一瞬だけ首を傾げた。


「あぁ、あのアニマにはバジリオがお熱みたいね」


 赤い魔力が、さらに強くなる。


「本命は、とっくに変わってるわよ」


「本命……?」


「ゼギルに力を使わせるには、まだ時間がいるでしょう!」


 その言葉に、三人の空気が変わった。


 ゼギル。


 黒牙団長。


 深淵のゼギル。


 その力を使わせる。


 レッグは、もうそれ以上話す気はないようだった。


義肢加速・超過駆動アームズバースト・イクス


 赤い光が爆ぜる。


 三人は同時に防御へ入った。


 ルーカスは黒鋼手甲を構える。

 ベルノは小盾を展開し、鎖を張る。

 シャノンは二又の尻尾を前へ回し、体を丸めるようにして衝撃を逃がす。


 完全には受けきれない。


 骨が軋む。

 足元が割れる。

 肺の奥が震える。


 それでも、崩れない。


「ちっ」


 レッグが舌打ちする。


 その隙を埋めるように、ソードが滑り込んだ。


 大剣が、横へ走る。


赤道(レッドライン)!!」


 赤い線が、戦場を裂いた。


 横薙ぎの一閃。


 まともに受ければ、三人まとめて胴を断たれる。


「ルカ!」


「うん!」


 ルーカスが前へ出た。


 黒鋼手甲が、赤い大剣を受け止める。


 甲高い音が響いた。


「ぐっ……!」


 だが、重い。


 止めたはずなのに、足が滑る。


 そこへベルノが横から入った。


「支える!」


 小盾を重ね、剣の腹へ押し当てる。


 さらに二本の鎖を地面へ突き刺した。


 鎖が石畳を噛む。


 それでも、二人の体は押し回された。


 一メートル。


 赤い大剣の線が、半円を描く。


「止まれぇぇ!!」


 ベルノの鎖が軋み、石畳に亀裂が走る。


 ようやく、止まった。


 その瞬間。


 シャノンが走る。


 低く、速く、地面を舐めるように。


爪術(そうじゅつ)!」


 両手に、魔力の爪が灯った。


爪砥技(つめとぎ)!!」


 爪撃が走る。


 顔。

 腕。

 胴。

 肩。


 細かく、速く、しつこく。


 連続の引っ掻きが、ソードの装甲と肉を裂いた。


「がっ……!」


 血が舞う。


 ソードの大剣が、わずかに下がった。


 ベルノは、その一瞬を逃さない。


 跳んだ。


 剣に鎖を巻き付ける。


 切れ味を捨てる。

 速度も捨てる。


 ただ、重く。


 ただ、砕く。


猿武(えんぶ)


 ベルノの目が、鋭く細まる。


鉄血塊(てっけつこん)!!」


 鎖を巻いた剣が、鉄塊のように振り下ろされた。


 ソードの肩口へ叩き込まれる。


 刃ではない。


 斬るのではなく、砕く一撃。


 骨が軋み、装甲が歪み、ソードの体が地面へ沈んだ。


「ぐ、あ……!」


 大剣と化していた右腕が、びくりと震える。


 赤い魔導回路が乱れ、刃の形が崩れていく。

 分厚い剣身はほどけるように縮み、やがて人の腕に近い形へ戻った。


 ソードは膝をつき、そのまま前へ倒れた。


 動かない。


 戦闘不能。


 その光景を、レッグはゆっくり眺めていた。


 両脚の魔道義肢(アームズ)から、白い蒸気が噴き上がる。


 排熱。


 赤い魔導回路が、さらに深く光る。


「時間稼ぎにはなったわね」


 レッグは、倒れたソードを見下ろした。


「そんな雑魚、もういらない」


 ルーカスの眉が動く。


「仲間じゃないんですか」


「仲間?」


 レッグが笑った。


「戦場は、圧倒的な個が支配するのよ」


 両脚の赤い魔力が、爆ぜた。


「だから、私一人で十分」


 白い蒸気が止まる。


 排熱が終わった。


「速度が戻るわよ」


 レッグはルーカスを見た。


「あなたが見えずに膝をついた連撃。もう一度、味わわせてあげる」


 ルーカスが黒鋼手甲を構える。


 ベルノは剣を握り直した。


「なんだか、やばそうだな」


 シャノンが尻尾を揺らす。


「肉食っとけばよかったかにゃ」


 次の瞬間。


義肢加速・超過駆動アームズバースト・イクス!!」


 レッグが消えた。


 見えない。


 地面が弾ける。

 倉庫の壁が砕ける。

 赤い残光だけが、三人の周囲を走る。


「背中!」


 三人は、咄嗟に背中を合わせた。


 だが、遅い。


 ほぼ同時だった。


 ルーカス。

 ベルノ。

 シャノン。


 三人の顎へ、赤い踵が叩き込まれる。


終劇(エンド)


 短い宣告。


 三人の顎に、赤い踵がほぼ同時に入った。


 視界が跳ねる。

 膝から力が抜ける。

 足元の石畳が、遠くなる。


 ルーカスの巨体が崩れる。

 ベルノの剣先が地面を削る。

 シャノンの尻尾が力なく垂れる。


 三人は、同時に沈んだ。


 レッグの両脚から、再び白い蒸気が噴き上がる。


 排熱。


 レッグは倒れた三人を見下ろし、つまらなそうに息を吐いた。


「白煙三牙だっけ?」


 彼女は背を向ける。


「まあまあ楽しめたわ」


 一歩。


 レッグが歩き出す。


「待てよ」


 声がした。


 レッグの足が止まる。


 ゆっくりと振り返る。


 ベルノだった。


 血を吐きながら、剣を握っている。


 いや。


 ベルノ一人ではない。


 ルーカスの背に、ベルノの肩が当たっている。

 ベルノの腕に、シャノンの尻尾が絡んでいる。

 シャノンの背中を、ルーカスの腕が支えている。


 三人は、倒れ切っていなかった。


 崩れ落ちる寸前で、互いを支え合っていた。


「終わってねぇぞ」


 ベルノの声は、掠れていた。


 それでも、折れていなかった。


「は?」


 レッグの顔が歪んだ。


「嘘でしょ。今の最大出力を食らって……」


 ベルノの隣で、ルーカスが立つ。


 その反対側で、シャノンも膝を震わせながら立ち上がった。


 ベルノが、口の端の血を拭う。


「一人じゃ、ここには到達できませんよ」


 シャノンが笑う。


「チームワークと肉が必須にゃ」


「シャノン!」


 ルーカスが右腕を下げる。


 シャノンが、その太い右腕の上へしゃがんで乗った。


「ちょ、何をしようと……!」


 レッグが踏み込もうとする。


 だが、足がもつれた。


 排熱が、終わっていない。


 ベルノが、シャノンの前方へ魔法小盾マジックライトシールドを張る。


 小さな盾が、シャノンの前に重なる。


 シャノンの黄色い瞳が、細くなる。


 笑っていなかった。


 ふざけてもいない。


 ただ、真っ直ぐにレッグを見ていた。


「いっけええええええ!!」


 ルーカスの右腕に、風が走った。


 左腕に、紫電が弾ける。


 雷と風が、シャノンの体を弾丸みたいに撃ち出した。


 シャノンは、ベルノのシールドを前面に纏ったまま、一直線に飛ぶ。


 両手には、魔力の爪。


 レッグの目が見開かれる。


「まさか……!」


「「「白煙三牙・結牙一閃はくえんさんが・ゆいがいっせん!!」」」


 シールドが、レッグの体へぶつかる。


 同時に、シャノンの爪が走った。


 衝撃。


 斬撃。


 防御と攻撃が、同じ一点へ叩き込まれる。


「がっ……!」


 レッグの体が吹き飛んだ。


 赤い魔導回路が火花を散らし、両脚の魔道義肢(アームズ)が悲鳴のように軋む。


 レッグは地面を転がり、倉庫の壁へ叩きつけられた。


 動かない。


 衝突の反動で、シャノンもその場に転がった。


「酷いにゃ……急に飛ばすなんて……」


 ルーカスが、膝から崩れながら笑う。


「練習通りいったね」


 ベルノも、剣を支えにしながら息を吐いた。


「まさか、遊びみたいな技が実戦でやれるとはな」


 シャノンが、数メートル先で仰向けのまま笑った。


「勝ったにゃ……」


 ルーカスが、震える拳を上げる。


「俺たちの勝ちだ」


 ベルノも、ゆっくりと拳を上げた。


 三つの拳は、触れ合わない。


 それでも、同じ勝利を掴んでいた。


 近くの建物。


 青い平和壁(ヘイヴンウォール)に守られた窓の奥で、小さな子供が息を呑んでいた。


 閉じた窓硝子の向こう。


 火と煙と血の匂いが届かない場所で、その子は、倒れた魔道兵と、膝をついた三人を見ていた。


「……はくえん、さんが」


 小さな声だった。


 誰にも届かない。


 それでも、子供の目は輝いていた。


「かっこいい……!」


 直後、奥から大人の声が飛ぶ。


「危ないぞ! 窓から離れなさい!」


 子供は慌てて振り返る。


 小さな手が伸びてきて、その体を奥へ引いた。


 窓の向こうから、子供の姿が消える。


 けれど、その言葉だけは、街の片隅に残った。


 白煙の下に集った三つの牙。


 その名が、初めて誰かの憧れになった。

あとがき


ここまで読んでいただきありがとうございます。


白煙三牙の名前が、少しずつ街にも広がっていきます。


ブックマークしていただけると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ