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異世界転生した底辺盗賊の俺、悪名を喰らって悪の帝王へ成り上がる  作者: タクト
第五章 銀翼と不殺の牙

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第18話 奈落の魔眼



「見せろよ、白煙」


 ギリオの声が、採石場の底に落ちた。


「俺の弾が届かなかった金剛を砕いた男が、どれほどの化け物なのかを」


 ハルトは答えなかった。


 ただ、血に濡れた短剣を握り直す。


 次の瞬間、白い冷気が足元から溢れた。


 それは煙のように地を這い、採石場の底を飲み込んでいく。


 氷煙陣(ホワイトアウト)


 白煙はゆっくりと広がり、穴の半分ほどを覆った。


 視界が白に沈む。


 音が遠のく。


 冷気が肌に刺さる。


 そして、それだけではなかった。


 そこにいた全員の胸の奥を、理由のない恐怖が撫でた。


 さっきまでの白煙とは違う。


 一段、深い。


 心臓の内側に、冷たい指を入れられたような感覚。


 黒牙の構成員も、銀翼の残党も、縁の上で息を呑んだ。


「来たか……」


 ギリオは帽子のつばを指で弾いた。


 中央に立つギリオの周囲だけ、白煙が薄い。


 ハルトの姿は見えない。


 音もない。


 気配もない。


 白い冷気の奥から、数発の圧が飛んだ。


 冷空圧弾(アイスショット)


 氷を含んだ空気の弾が、白煙の中からギリオを撃つ。


 ギリオは身体をわずかにずらした。


 肩をかすめ、外套の端が凍る。


 頬に白い霜が走った。


「子供騙しだな」


 ギリオの足元で風が爆ぜた。


 空纏衝(エアバースト)


 ギリオを中心に風が膨れ上がり、周囲数メートルの冷気を吹き飛ばす。


 白煙が割れた。


 だが、完全には消えない。


 中央だけが晴れ、その外側は白煙に満ちている。


 まるで、白い壁に囲まれた舞台だった。


 ギリオは目を細める。


 真冬の採石場。


 冷え切った石。


 地を這う白煙。


 今この冷気が、勝手に消えることはない。


 かといって、自分の風で穴全体を吹き飛ばすことも不可能だ。


 ならば。


「穴全部、撃っちまえばいい」


 ギリオが片手を上げた。


 空が銀で埋まった。


 無数の弾丸が、上空に展開される。


 銀が光る。


 風が鳴る。


 弾丸一つ一つが、螺旋を刻む。


銀弾雨(シルバーズレイン)


 銀の雨が降った。


 白煙を貫き、地面を抉り、石を砕く。


 それだけではない。


 ギリオはその場で身体を回した。


「だけじゃねぇぞ!」


 周囲に生まれた銀弾が、全方向へ掃射される。


 白煙の中へ。


 上へ。


 横へ。


 背後へ。


 見えない敵を探すのではない。


 見えないなら、全部撃つ。


 採石場の底が、爆音で埋まった。


 弾丸が白煙を裂き、地面に穴を穿ち、石壁に銀の軌跡を刻む。


 その中を、ハルトが走っていた。


 白煙に隠れ、風を纏い、弾道のわずかな隙間を抜ける。


 だが、避け切れない。


 肩を掠める。


 脇腹を削る。


 太腿を裂く。


 黒い外套が破れ、血が白煙に散った。


 それでも、ハルトは止まらない。


 ギリオの背後、白煙の中から飛び出す。


 黒鋼(クロガネ)の短剣が、ギリオの背へ迫った。


「ありきたりだ」


 ギリオは振り返っていなかった。


 ただ、銃の形にした指先だけが、ハルトへ向いていた。


 腕の周りに浮かぶ六発の銀弾。


 そのうち二発が回転する。


六発銀弾(シルバーズリボルバー)


 二発の銀弾が、ほとんど同時に放たれた。


 放った瞬間に、着弾している。


 ハルトは一本目を短剣で弾いた。


 だが、二本目が腹を撃ち抜く。


「ぐっ……!」


 ハルトの身体が弾かれ、白煙の中へ転がった。


 血が石の上を滑る。


 ギリオは静かに息を吐いた。


「なるほどな」


 白煙の奥に倒れたハルトを見る。


「金元素は冷気に弱い。金剛は、格下を舐める癖があった。痛みを感じねぇ体も、凍りつく異常には気づきにくい」


 ギリオは笑った。


「いくつもの偶然。それがお前を勝たせたということか」


 縁の上がざわめく。


 黒牙側の息が止まる。


 銀翼側の残党が、わずかに身を乗り出した。


「はっきり言って」


 ギリオは帽子の奥からハルトを見下ろした。


「期待外れだ」


 その言葉を合図にしたように、白煙が静かに揺れた。


 ギリオが背を向けようとした、その瞬間だった。


 冷たい手で、心臓を触られたような感覚。


 ギリオの全身の毛が、逆立つ。


「もうやめんのか……」


 白煙の奥で、声がした。


 ハルトが立っていた。


 血まみれで、肩で息をしている。


 腹から血が流れている。


 足元には赤い線が引かれていた。


 それでも、立っていた。


「こっからだろ……」


「嘘だろ」


 ギリオの目が細くなる。


「動けるわけが……」


 言い切る前に、白煙が尾を引いた。


 ハルトが消える。


 白い軌跡だけが、ギリオの視界を横切った。


氷結斬(アイスエッジ)


 ギリオは咄嗟に左腕を上げた。


 短剣が腕を斬る。


 血は飛ばなかった。


 代わりに、左腕が肘下から白く凍りついた。


「……なるほど」


 ギリオは凍った腕を見た。


 指先が動かない。


 それでも、口元には笑みがあった。


「ちゃんと、お前も化け物だったか」


 ハルトは白煙に巻かれながら、再び消える。


「俺は腕が凍っても、魔法には関係ないんでな!」


 ギリオの周囲に銀弾が生まれる。


 掃射。


 銀の雨ではなく、細かい弾幕。


 白煙の中を裂き続ける。


 周囲の白煙が、ゆっくりとギリオへ近づく。


 真っ白な蛇のように。


 背後から、白煙の塊が高速で迫る。


「そこだ!」


 ギリオの腕の周りで、六発の銀弾が回転した。


六発銀弾(シルバーズリボルバー)!」


 銀弾が白煙の塊を撃ち抜く。


 だが、そこにハルトはいない。


 ただの煙。


 ダミーだった。


「ちっ」


 別方向から、さらに白煙が伸びる。


 一本。


 二本。


 三本。


 五本。


 どれもハルトに見える。


 どれも違うかもしれない。


 だが、撃つしかない。


 ギリオはリボルバーを撃った。


 一発。


 二発。


 三発。


 四発。


 五発。


 最後の一発が白煙を撃ち抜いた時、上から空気が裂けた。


 ハルトがいた。


 隠形(フェイド)で気配を消し、白煙の上から落ちてくる。


 黒鋼(クロガネ)の短剣が、ギリオの首へ向かう。


「死ね……!」


「そう来ると思ったぜ!」


 ギリオが笑った。


 採石場の底に、銀弾が一斉に生まれる。


 上も。


 下も。


 前も。


 後ろも。


 全ての方向へ、銀が向く。


全方位斉射(オープンバースト)!」


 銀弾が爆ぜた。


 全方向からの斉射。


 ハルトは短剣で弾く。


 一発。


 二発。


 三発。


 だが、足りない。


 肩を撃たれる。


 脇腹を裂かれる。


 左足が弾ける。


 ハルトの身体が空中で崩れ、地面へ叩きつけられた。


「がっ……!」


 血が跳ねる。


 白煙が揺れる。


 ギリオは肩で息をしながら笑った。


「あえて銀弾雨(シルバーズレイン)じゃなく、掃射で隙を作った。必ず来ると思ったぜ」


 凍った左腕がきしむ。


「まあ、上から来たのは驚いたけどよ」


 ギリオは倒れたハルトを見下ろした。


「白煙、やめにしようぜ。俺とお前じゃ差がありすぎる」


 採石場の底に、銀弾の残響が消えていく。


「才能はお前の方がある。そこは認めるさ。けどな、努力が違う。経験が違う。負けてきた数が違う」


 ギリオの周囲で、銀弾が静かに回る。


「言えよ。負けました、ってな」


 ハルトの指が動いた。


 血で濡れた指が、石を掴む。


「……バカ言えよ」


 ハルトは、ゆっくりと顔を上げた。


 口の端から血が流れている。


 右目の奥が、脈打つ。


 窮鼠猫噛(キュウソネコカミ)


 最大出力。


 壊れた体が、無理やり動く。


 骨が軋む。


 筋肉が裂ける。


 それでも、立つ。


「俺は、お前たちみたいな大層な過去はない」


 ハルトは血を吐き捨てた。


「ただ、この世界に来て、ただ必死で、ただ死にたくなくて」


 白煙が足元に集まる。


 冷気が濃くなる。


「信念だの、殺しの責任だの言われても、俺は何も答えられねぇ」


 ハルトの右目が、黒く染まり始めた。


「誰かとの約束で強くなったんじゃねぇ。誇りで立ってるわけでもねぇ」


 黒い鎖が、右目の奥で鳴る。


「俺の強さに、綺麗な理由なんかいらねぇ」


 採石場の空気が、変わった。


 白煙の奥に、黒いものが混じる。


 闇ではない。


 底。


 どこまでも落ちていく、奈落の気配。


「来いよ、深淵鼓動(アビスハート)


 ハルトの声が低く沈む。


「全部使ってやる」


 その瞬間、闇が開いたような気がした。


 誰もが等しく恐怖した。


 黒牙(こくが)も。


 銀翼も。


 縁の上にいる全員が、息を止める。


 ルーカスでさえ、恐怖を感じているわけではないのに、膝が小さく笑った。


 ハルトの右目が、真っ黒に染まっていく。


 右目の奥で、鎖が外れる。


堕落の王(ルシファー):制限解除】


【深淵系統 部分開放】


深淵の魔眼(タルタロス) 使用制限を解除しました】


 ギリオが、初めて顔を歪めた。


「なんだ……その目は……」


 黒い右目。


 瞳の奥に、底のない穴がある。


「まるで、悪魔じゃねぇか」


 ハルトは笑った。


「悪魔にだってなるさ」


 血に濡れた歯を見せる。


「勝てるならな……」


「それも、理由はいらねぇってか?」


 ギリオは銀弾を展開する。


「悲しい奴だぜ、お前」


 銀弾が一斉に放たれた。


 ハルトは避けなかった。


 右目で、ただ見た。


 銀弾が黒に触れる。


 次の瞬間、弾丸が消えた。


 いや、違う。


 堕ちた。


 黒い奈落へ、音もなく落ちていった。


「俺の深淵の魔眼(タルタロス)に、魔力で作られた物は効かない」


「……そーかよ」


 ギリオは笑った。


「だが、俺も諦めが悪いんでね」


 掃射。


 銀弾が次々と生まれ、撃たれる。


 ハルトはゆっくり歩く。


 右目に映った銀弾が、次々と奈落へ落ちる。


六発銀弾(シルバーズリボルバー)!」


 高精度の銀弾が放たれる。


 それすら、堕ちる。


 ハルトは近づく。


 一歩。


 また一歩。


 白煙をまとい、黒い右目で、銀弾を飲み込みながら近づいてくる。


 ギリオは息を吐いた。


 恐らく、あの眼に底はない。


 タルタロス。


 地獄のさらに奈落の底の名。


 名の通りなら、深淵の底。


 なら、魔力で作った弾では届かない。


 だが。


「お前の身体は、どうかな」


 ギリオが銃の形にした指を上へ向ける。


「いつまで使い続けられる?」


 ハルトの右目に激痛が走った。


 足が止まる。


 黒い血が、目の端から一筋流れた。


「見たものを奈落に送る力と見た」


 ギリオは笑う。


「なら、死角からの攻撃ならどうだ」


 上空に銀が展開される。


銀弾雨(シルバーズレイン)!」


 銀の雨が、ハルトの頭上を埋めた。


「上を見なけりゃ死ぬぜ」


 同時に、ギリオの腕周りでリボルバーが回る。


「前を見なくても死ぬがな」


 六発銀弾(シルバーズリボルバー)


 上と前。


 どちらを見ても、どちらかで死ぬ。


「チェックメイトだ、白煙」


 銀弾が同時に放たれた。


 ハルトは、自分の手を見た。


 右手が黒く沈む。


 指先から、奈落へ落ちるように消えていく。


奈落転移(タルタロスシフト)


 ハルトの姿が、黒に欠けた。


 次の瞬間、ギリオの肩口に黒い穴が開く。


 そこから伸びたハルトの手が、短剣ごとギリオの肩を突き刺した。


「ぐっ……!」


 冷気が走る。


 ギリオの肩が白く凍っていく。


「くそ、しゃーねぇか……!」


 ギリオは右手を弾いた。


 爆発。


 火炎が散る。


 自分の肩ごと吹き飛ばすような爆発だった。


 ギリオの身体が後方へ弾ける。


 肩から胸にかけて、大火傷が走った。


 ハルトも炎に飲まれる。


 だが、焼けない。


 自分の身体を凍結させて、爆風と炎を受け流していた。


 全身に霜が降りる。


 血も、髪も、外套も、白く凍る。


 それでも、ハルトは歩き出す。


「イカれてやがる……」


 ギリオは荒く息を吐いた。


「自分を凍結させるのに、躊躇しねぇのか」


 ギリオは笑った。


「俺はしたぜ」


 ハルトは答えない。


 右目から黒い血が流れ続けている。


 足取りは重い。


 霜で動きも鈍っている。


 タルタロスはもう、まともには使えない。


 ギリオはそれを見抜いた。


 今ならまだ、眼を使えない。


 身体も遅い。


 ここで決めるしかない。


「白煙」


 ギリオは両腕を前に突き出した。


 凍った左腕が砕けそうに軋む。


 焼けた肩が悲鳴を上げる。


 それでも、両手の間に銀が生まれる。


 榴弾ほどの大きさ。


 巨大な銀弾。


 表面に刻まれた無数の溝が、風を噛む。


 弾丸が音を立てて回転する。


 両手の間に、紫電がほとばしった。


「これで死ななければ、お前の勝ちだぜ……」


 ギリオの声は、かすれていた。


「金剛を撃ち抜くはずだった、俺の最後の一発(ラストバレット)だ」


 空気が震える。


 銀弾がさらに高速で回る。


「俺の四つ目の属性だ。これでお前を殺し切る!」


 ギリオの目が、血走る。


「あいつらと、もう一度銀翼を立て直す!!」


 雷が腕の間を走った。


究極銀弾(ザ・シルバーズ)!!」


 無音だった。


 音より速く、銀弾が走った。


 ハルトの胸を貫いたように見えた。


 次の瞬間、背後の石壁に激突し、大爆発が起きる。


 採石場の縁まで爆風が届いた。


 黒牙(こくが)も銀翼も、必死に身を伏せる。


 石が飛び、砂が舞い、白煙が吹き飛ぶ。


「……これで、終わりだ」


 ギリオは膝をつきそうになりながら、笑った。


 だが、爆煙の向こうに、影があった。


 ハルトが立っていた。


 胸は貫かれていない。


 だが、右目から黒い血がぼたぼたと流れている。


 限界を超えて、深淵の魔眼(タルタロス)を引き出した。


 消したのではない。


 飲み込めたわけでもない。


 ただ、ほんのわずかに、弾道を後ろへ逸らした。


 それだけで、生き残った。


「くそ……」


 ギリオが笑う。


「本当に悪魔かよ」


 ハルトは短剣を手に、近づいてくる。


 霜が落ちる。


 冷気が薄れていく。


 だが、ハルトはまだ動ける。


 ギリオは魔力切れだった。


 全てを撃った。


 銀も、風も、爆発も、雷も。


 それでも、ギリオは笑った。


「悪いなぁ、白煙」


 ギリオの右手が、外套の内側へ沈む。


「嘘はついちゃいないぜ」


 魔力は空だ。


 その言葉に嘘はない。


 だが、外套の内側から現れたのは、黒い鉄の筒だった。


 本物の銃。


 魔力で作った銀弾ではない。


 奈落へ堕とせる魔力生成物でもない。


 動きの遅いハルトへ、銃口が向く。


 ハルトは鼻で笑った。


「底が見えたな……」


 ギリオの背筋が、ぞくりと震えた。


「気づけよ、銀弾(シルバーバレット)……」


 ギリオの背後。


 白煙が残っていた。


 消えたように見えた冷気が、地を這い、背後へ回り込んでいた。


 真っ白な冷気が、ギリオを抱いた。


氷冷爆発(ダイヤモンドダスト)


 白が爆ぜた。


 銃口が凍る。


 引き金にかかった指が凍る。


 腕が凍り、肩が凍り、胸元まで白く染まる。


 ギリオの身体が、完全に止まった。


 指一本、動かせない。


 ハルトは、血まみれのままギリオへ近づいた。


「凍っちまった奴がどうなるか……噂は聞いてるな」


 ギリオは答えない。


 だが、目だけはハルトを見ていた。


 凍ってから、粉々に砕け散る。


 白煙のハルトに凍らされた者は、最後には白い粉になって消える。


 見たことはない。


 だが、噂は聞いている。


 ハルトの短剣に、白い冷気が集まる。


「……殺れ」


 ギリオが、かすれた声で言った。


「……あぁ」


 ハルトは短く返した。


 致命の氷穿(アイシクルピアス)


 その一撃が放たれる直前だった。


 人影が飛び込んだ。


 一人ではない。


 二人。


 三人。


 十人。


 銀翼の残党たちが、ギリオの前へ立ちはだかった。


 覆い被さるように。


 盾になるように。


 先頭にいたのは、ロザックだった。


 ギリオが目を見開く。


「お前ら……死ぬぞ……」


 誰も答えない。


 答えられない。


 アビスハートの恐怖で、喉が動かない。


 足がすくむ。


 肩が震える。


 それでも、退かない。


 ハルトの目が鋭くなる。


「それが、どういう意味か分かってんのか?」


 ロザックは震えていた。


 顔色も悪い。


 額には冷や汗が浮かんでいる。


 それでも、真正面からハルトを見た。


「ええ」


 声は震えていた。


 だが、折れていなかった。


「死ぬなら、ギリオさんの前と決めています」


 ロザックは一歩も下がらない。


「ギリオさんを守るんじゃない」


 腰は引けている。


 足は笑っている。


 それでも、そこに立っている。


「順番の話です」


 ロザックは言った。


「止めるつもりもありません」


 短く息を吸う。


「先に殺してください」


 ハルトの短剣に、冷気が集まる。


「なら、まとめてだ……」


 白煙が、ハルトの足元から広がった。


「お前ら全員な」


 刺すような突風。


 心臓を撫でるような冷気。


 白煙が、銀翼の残党たちを包む。


氷冷爆発(ダイヤモンドダスト)


 白が爆ぜた。


 採石場の底が、星屑のように煌めく。


 銀翼の残党たちは、目を閉じた。


 誰もが、死を覚悟した。


 だが、痛みは来なかった。


 服に霜がついただけだった。


 髪の先が白く凍っただけだった。


 誰も死んでいない。


 誰も傷ついていない。


 ハルトは、血まみれのまま立っていた。


「お前らは今、全員死んだ」


 静かな声だった。


「俺が殺した」


 銀翼の残党たちは、息を呑む。


「さっさと街から消えろ。今日中にな」


 ハルトの右目から、まだ黒い血が落ちていた。


「次にルヴェリアで見たら、その時は本当に凍らせる」


 ロザックは、膝をつきそうになりながらも、頭を下げた。


 ギリオは凍ったまま、ハルトを見る。


「白煙……」


「あ?」


 ハルトが睨む。


 ギリオは、少しだけ笑った。


「後悔するぜ」


 ハルトは黙っている。


「次は俺の弾丸がお前に届く。これまでも、そうしてきた」


「そうか」


 ハルトは血に濡れた短剣を下げる。


「なら……より早くお前を凍らせる」


 白煙が、静かに晴れていく。


「成長すんのが、お前だけだと思うなよ……」


 ギリオは、ほんの少し笑った。


「……約束だったな」


 銀翼の残党たちが、顔を上げる。


 ギリオは帽子のつばを指で弾こうとして、凍った腕が動かないことに気づき、苦笑した。


「銀翼は、白煙に負けた」


 その声が、採石場の底に落ちた。


 少し遅れて、ギリオは続ける。


「……俺の負けだ」


 ロザックの肩が震えた。


 ギリオは空を見上げるように、凍った体を預けた。


「結局、俺はずっと二番手シルバーだった」


 ロザックは首を横に振った。


「いいえ」


 静かな声だった。


二番手達シルバーズです」


 ギリオが、ロザックを見る。


 ロザックは震えたまま、それでもはっきりと言った。


「俺はついて行きます。ギリオさんがたとえ、一生一番手ゴールドになれなくても」


 ギリオは、少しだけ目を閉じた。


「……そうか」


 それだけ言って、ギリオは動かない腕の代わりに、首を傾けるようにして帽子を顔へ落とした。


 白煙が晴れていく。


 銀弾は、もう飛ばない。

あとがき


ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は白煙と銀弾の決着回でした。


ギリオは、才能ではなく努力と経験でハルトを何度も追い詰める敵として書きました。

白煙を面で潰し、奇襲を読み、奈落の魔眼すらすぐに攻略しようとするあたり、銀翼第一席としての強さが出せていたら嬉しいです。


一方のハルトは、追い詰められてからが本番です。

今回は深淵の魔眼(タルタロス)奈落転移(タルタロスシフト)が解放されました。

ただし便利な力というより、右目から黒い血が流れるほど危険な力です。


そして最後は、ギリオの本物の銃すら読んだ氷冷爆発(ダイヤモンドダスト)

白煙のハルトらしい、勝つためなら最後まで油断しない決着になりました。


銀翼は白煙に負けました。

けれど、ギリオとロザックたちの物語は、ここで完全に終わりではありません。


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