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異世界転生した底辺盗賊の俺、悪名を喰らって悪の帝王へ成り上がる  作者: タクト
第五章 銀翼と不殺の牙

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第17話 遅咲きの銀弾



「俺はな、弾丸を生成して放つ魔法を持ってるわけじゃねぇ」


 白煙の中で、ギリオがゆっくりと指を鳴らした。


 銀が生まれる。弾丸へ整う。風が螺旋を刻み、背後で爆発が起きる。


 そのすべてが、ほとんど同時に成立した。


「銀を作る魔法。爆発を起こす魔法。風で回す魔法。全部、別々だ」


 ハルトは黒鋼(クロガネ)のナイフを構えたまま、銀弾から目を離さない。


「……それを同時にやってんのか」


「そうだ」


 ギリオは帽子の奥で笑った。


「俺は天才じゃねぇ。ユニークスキルもねぇ。銀を出すだけなら弟たちに負けた。爆発魔法も大した適性はねぇ。風魔法だって、最初は弾をまともに回せなかった」


 銀弾が、白煙の中で低く唸る。


「だから、負けてきたって言ったろ」


「負けた?」


 白煙の奥で、ハルトが眉をひそめた。


「あー、人生負けの方が多い」


「……よく生きてんな」


「そこは、あれだ。年の功だ。遅咲きなんでね」


 ふざけたような口調だった。


 だが、ギリオの周囲に浮かぶ銀弾は少しもふざけていない。六つの銀が、白煙の中でゆっくりと回っている。


「まあ聞けよ」


 ギリオは帽子の奥で笑う。


「俺がなんでお前に固執するのか。知りたくねーか?」


「……別に」


「これだからルーキーは。いいか、お前は金剛を先に砕きやがった。これくらい聞いてもらわなきゃ納得できねぇ」


「金剛……仲間だったんだろ?」


「仲間ねぇ」


 ギリオは鼻で笑った。


「銀翼は仲良しこよしじゃねぇ。力だけが重視される。そして、金剛はその象徴だった」


 白煙の底で、銀弾が鈍く光る。


「俺も金元素系だった。金属を扱う魔力だ。そこだけ聞けば、金剛と同じだろ?」


 ギリオの声が、わずかに遠くなる。


「けどな。同じなのは分類だけだ。中身は雲泥の差だった」


 思い出すのは、銀の匂いだった。


 ギリオは、銀職人の家に生まれた。


 長男だった。銀を生み出す魔力もあった。


 それだけ聞けば、恵まれているように思える。だが、違った。


 生成時間。細工。扱い。何を取っても、弟たちに負けた。


 ギリオが一日かけて歪ませた銀を、弟は半分の時間で美しく仕上げる。銀を細く伸ばし、薄く整え、器にし、装飾にする。弟たちは、それを当たり前のようにやった。


 ギリオにはできなかった。


 いや、できないわけではない。できる。ただ、遅い。粗い。雑い。そして何より、続かない。


 気楽で、楽観主義者。物事が長続きしない。腕っ節はそこそこ強いせいで、喧嘩っ早い。


 職人としては半端。人間としても半端。


 家族に呆れられるには、十分すぎた。


 色々な仕事をしてみた。荷運び。用心棒。酒場の雑用。商会の下働き。


 だが、どれも合わない。


 腕っ節でどうにかなりそうな仕事は、だいたい長続きしなかった。細かい仕事は向かない。頭を下げ続ける仕事も向かない。


 気づけば三十だった。


 銀職人の家に生まれた長男。けれど、銀職人にはなれなかった男。


 それがギリオだった。


 だから、盗賊になった。


 遅すぎる決断だった。それでもギリオにとっては、初めて自分で選んだ道だった。


 だが、盗賊になっても優秀ではなかった。


 腕は立つ。喧嘩もできる。だが、魔法がしょぼい。


 銀を出せる。それだけだった。


 銀で剣を作った。武器に向いていなかった。


 銀で盾を作った。大して守れなかった。


 銀で槍を作った。すぐに折れた。


 しかも、ギリオの銀は一定時間で消える。売ることもできない。残すこともできない。大きな銀を作れば、そのぶん魔力を食う。消えれば、また作らなければならない。


 無能扱いされるには十分だった。


 そして、銀翼には金剛がいた。


 同じ金元素系。金属を扱う魔力。


 だが、金剛は刃も魔法も通さない怪物だった。


 ギリオは、消える銀を出すだけの半端者だった。


 比べるなと言う方が無理だった。


 下っ端とはいえ、性質が同じだからこそ目につく。


 金剛と同じ金元素系なのに。銀なんか出して何になる。武闘派の銀翼で、銀細工でも始めるのか。


 そんな声を聞くたび、ギリオは笑った。笑って、殴った。


 だが、殴っても現実は変わらない。


 金剛は上にいる。ギリオは下にいる。


 それだけだった。


 何かを変えたかった。


 武闘派として、一旗上げたかった。強くなりたかった。


「長く保たないなら、長く使うな」


 そう言ったのは、ロウエンだった。


 銀脈(ぎんみゃく)のロウエン。


 戦闘力では、ギリオの方が上だった。だが、金の流れ、人の流れ、組織の膨らませ方は、ロウエンの方がよほど見えていた。


「銀を使って戦うより、単発的に使え。短時間で勝負を決める使い方を考えろ」


 その言葉が、発想の源になった。


 銃は世の中にある。だが、ギリオに金はない。


 なら、自分が銃の中身になればいい。


 火元素。爆発魔法。


 ギリオはそれを覚えた。


 小さな爆発を起こして、銀の弾丸を飛ばす。


 最初の弾丸は、まともに飛ばなかった。


 あらぬ方向へ跳ねた。地面に刺さった。後ろへ飛びかけたことすらある。


 銃のような筒があるわけではない。


 精密な位置。精密な角度。正確な方向。小さく、しかし高火力の爆発。


 それを、銀弾の背後に置かなければならない。


 難しかった。


 ギリオは天才ではなかった。ユニークスキルもない。炎の適性だって大したことはない。


 笑われた。


 何してんだ。そんな小さい爆発で。弾丸? 無理だろ。才能がいる。なら、そもそも銃を使えよ。


 ギリオは諦めなかった。


 来る日も来る日も、魔力が空になるまで撃った。気絶するまで撃った。


 小さく。正確に。指定した場所へ。指定した角度で。


 何度も。何度も。


 やがて、銀弾は前へ飛ぶようになった。


 だが、それだけだった。


 鉄板を抜けない。石すら抜けない。


 これでは金剛に届かない。


 馬鹿にされるのは、もううんざりだった。


 ギリオは決めた。


 金剛を倒す。


 一番になる。


 そう決めた。


 変わったのは、ルヴェリア外縁の採石場だった。


 そこは銀翼のシノギの管轄だった。


 石を切り出す魔道具がある。回転式掘り出し機。


 魔力を込めると、先端が回り、石を貫通する。


 それを見た瞬間、ギリオは気づいた。


 これだ。


 ただ飛ばすだけでは足りない。


 回せばいい。


 風元素。風魔法。


 ギリオはそれを覚えた。


 弾丸を螺旋回転させる。


 だが、弾丸がぶれる。ぶれると、爆発で上手く飛ばせない。


 球体では駄目だった。


 円柱状にする。さらに、先を尖らせる。


 ドリルから発想を得た形。


 そこから難易度は跳ね上がった。


 銀を生成する。弾丸状に成形する。風で螺旋回転させる。爆発を精密な位置と角度で発生させる。


 そのすべてを、戦闘中に成立させる。


 神業だった。


 そこまでで二年かかった。


 三十二歳。


 それでも、まだ足りない。


 銀の生成が遅い。細工が粗い。弾丸が、ほんのわずかにぶれる。


 そこでギリオは家に戻った。


 弟と親父に頭を下げた。


「銀細工を教えてくれ」


 ギリオは言った。


「やっと道を見つけたんだ。一番になりてぇんだ」


 弟は怒った。


 家を放り出した兄が、今さら何を言うのか。どの面下げて戻ってきたのか。


 当然だった。


 親父は、しばらく黙っていた。


 そして、道具を一つ作業台へ置いた。


「そうか」


 それだけだった。


「甘くねぇぞ」


 親父は言った。


「次は逃げんなよ」


 そこからは、ほぼゼロからだった。


 親父に細工を学んだ。弟に生成速度を学んだ。


 生半可ではなかった。


 怒鳴られた。呆れられた。何度もやり直した。


 それでも逃げなかった。


 逃げなかったから、弾丸は磨かれた。


 銀は速く生まれるようになった。形は正確になった。螺旋は安定した。爆発は弾丸の背を正確に押すようになった。


 そして何より、弾丸の表面に溝を刻めるようになった。


 風を受けるための、目に見えないほど細い溝。


 そこへ風が噛む。風が滑る。


 銀弾は、ぶれずに回る。


 銀を出すだけでは届かなかった。爆発で飛ばすだけでも届かなかった。風で回すだけでも届かなかった。


 銀細工の技術があって、初めて銀弾(シルバーバレット)は真っ直ぐ飛んだ。


 その頃には、ギリオはようやく銀職人としての入口に立っていた。


 だからこそ、弟は言った。


「残念だよ、兄さん」


 ギリオは荷物を背負ったまま、振り返る。


「その熱意と今の技術があれば、ここで……それに父さんだって、それを……」


 ギリオは少しだけ笑った。


「悪いな。お前らには迷惑をかける」


 それから、指先で銀弾を一つ弾く。


「でも、俺の目標はもうそこにねぇんだ」


 弟は言葉を失う。


 親父は作業台の奥で、銀を磨いていた手を止めた。


「行かせろ」


「父さん」


「どうせ、バカ息子だ」


 それ以上、親父は何も言わなかった。


 その頃だ。


 ロザックに会った。


 銀翼の中で、砂塵を使う剣士として笑われていた男。


 剣だけで勝たない。砂塵で視界を切り、足を鈍らせ、呼吸を乱し、最後に剣で喉元を取る。


 武闘派たちは、それを笑った。


 剣士の勝ち方じゃない。砂遊びで勝った気になるな。地味で、汚くて、小賢しい。


 だが、ギリオは笑わなかった。


 勝つために、自分にあるものを全部使っている。


 それの何が悪い。


 そう思った。


 ギリオ自身、笑われてきた男だった。


 銀職人として負け、盗賊としても馬鹿にされ、金剛と比べられ続けた男だった。


 だから分かった。


 ロザックは、逃げているのではない。自分の戦い方を、曲げずに貫いているだけだ。


「俺が幹部になったら、お前が補佐をやれ」


 ギリオがそう言うと、ロザックはしばらく黙っていた。


 その目は、冗談かどうかを探っていた。


 ギリオは笑っていた。だが、目だけは笑っていなかった。


 やがて、ロザックは静かに頷く。


「……なります」


 それだけだった。


 媚びるわけでもない。喜ぶわけでもない。ただ、その一言だけを置いた。


 だが、その後ロザックは、幹部の席を何度も蹴った。


 ギリオを待っていた。


 三十四歳。


 ギリオは、誰にも笑われなくなった。


 瞬時に作られる弾丸。銃など比べ物にならない火力。精密性。連射。魔法の持続性。弾数。速度。


 すべてにおいて、他を圧倒するほど強くなっていた。


 ギリオは銀翼の幹部末席に座る。


 その日、ロザックは当然のように補佐としてそこにいた。


「ロザック……俺は金剛も倒す。笑うか?」


 ギリオは、半分だけ冗談のように聞いた。


 ロザックは即答した。


「笑いません。あなたにしか出来ない」


 揺らぎのない声だった。


「あの日からずっと、ギリオさんを信じてます」


 ギリオは、しばらく黙った。


 笑われることには慣れていた。馬鹿にされることにも慣れていた。できないと言われることにも慣れていた。


 だが、待たれることには慣れていなかった。


「……そうか」


 ギリオは帽子のつばを指で弾いた。


「なら、一番近いところでお前が見てろ」


 一年後。


 三十五歳。


 ギリオは、全ての弾丸の精度、火力、生成速度を上げた。


 一つ一つはSに届かずとも、膨大な弾丸は大魔法のような強さになる。


 S級。


 ギリオは、全員が認める形で第一席に座ることになる。


 その日、ロザックは泣いた。


 涙が止まらなかった。


「なんでお前が泣いてんだよ」


 ギリオが笑って聞くと、ロザックは一言だけ返した。


「初めから、わかっておりました」


 ギリオとロザックの勢いは、破竹だった。


 金剛と第一席陣営は、一年で黒牙に届く速度で団を取り込んだ。


 ロウエンが金と政治でまとめ上げた。


 最初の二年は、金剛のワントップだった。


 だが、後半一年は違った。


 銀翼の金銀。


 金剛が砕き、銀弾が撃ち抜く。ロウエンが血管のように金と人を流す。


 それが、銀翼だった。


 あの日までは。


 金剛が砕かれた。


 ロウエンも砕かれた。


 たった一夜。


 お互いの戦力を見て睨み合っていた二大勢力が、ぶつかる前に撃ち抜かれた。


 銀弾にとって、一番の夢が砕かれた。


 自分の居場所が、足元から砕けていった。


 黒牙に下るもの。逃げるもの。足を洗うもの。


 誰も制御できなかった。


 絶対的な力と、絶対的な支配力が同時になくなったのだ。


「ロザック」


 ギリオは問う。


「お前はどうする?」


 ロザックは、少しも迷わなかった。


「変わりません」


 静かな声だった。


「ギリオさんの言葉が全てです。そのためなら、俺は絶対に負けないです」


「そうか……」


 ギリオは、少し笑った。


「折れた翼でも、もう一度羽ばたける。そうだろう?」


「見てきました」


 ロザックは言った。


「信じています」


 ギリオは銀翼をかき集めた。


 ライザとレイドがそれに応えた。


 少しずつ、まとまっていく。


 だが、それは力とカリスマによるまとまりでしかなかった。


 ロウエンのような政治力はない。純武闘派の集まり。


 それでも、ギリオは笑った。


 どうやったら白煙とやり合えるか。


 白煙が作り始めた、平和税。黒牙刻印。白煙のシマ運営。


 それを見て、ギリオは思った。


 小汚いが、面白いことをしている。


 なら、そこを潰してみるか。


「俺が五年かけて磨いた弾が届く前に、お前が金剛を砕いた」


 現在へ戻る。


 白煙の中で、銀弾が回る。


「俺の夢も、銀翼の足場も、まとめてな」


 ハルトは黒鋼(クロガネ)のナイフを握ったまま、静かに返す。


「知らねぇよ。俺は俺の都合で金剛を殺した」


「ああ。そうだろうな」


 ギリオは笑った。


「だから腹が立つ」


 腕の周りに、銀弾が増える。


「だから、最高だ」


 六発の銀弾が、白煙の中で回転する。


「見せろよ、白煙」


 ギリオの声が、低く沈む。


「俺の弾が届かなかった金剛を砕いた男が、どれほどの化け物なのかを」

あとがき


ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は銀弾(シルバーバレット)のギリオ回でした。


ギリオは天才ではなく、ユニークスキルもなく、若くして完成した強者でもありません。

何度も負けて、笑われて、それでも自分の銀を戦い方に変えてきた、かなり遅咲きの男です。


銀職人としては半端だった技術が、戦場では弾丸を作るための精密さになる。

そういう「無駄だったものが、別の場所で武器になる」感じが出せていたら嬉しいです。


次回は、白煙と銀弾の本格的なぶつかり合いです。


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