表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生した底辺盗賊の俺、悪名を喰らって悪の帝王へ成り上がる  作者: タクト
第五章 銀翼と不殺の牙

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/108

第11話 継ぐモノ



「第三戦、勝者」


 審判役の構成員が、乾いた声で告げた。


黒牙(こくが)第四席、回炎(かいえん)のイグニス!」


 大穴の縁が、遅れて揺れた。


 歓声。


 怒号。


 安堵。


 そして、畏怖。


「勝った……」


「あれで、反撃してねぇんだろ……?」


「黒点、落としてたらどうなってたんだよ……」


 黒牙側の構成員たちが、口々に騒ぐ。


 だが、単純な喜びだけではなかった。


 勝った。


 確かに勝った。


 けれど、見せられたものが大きすぎた。


 ライザの青雷も、白雷も、ルーカスにはほとんど見えなかった。


 イグニスの回帰も、黒点も、理解が追いつかなかった。


 ただ一つだけ分かった。


 黒牙の幹部は、凄い。


 化け物同士の戦い。


 その言葉が、頭の中から離れない。


 ラインハルトも、ハルトも、イグニスも。


 ルーカスが今まで見てきた黒牙の幹部たちは、誰も彼も常識の外にいた。


 自分は強いと言われた。


 才能があると言われた。


 けれど、今の戦いを見た後では、その言葉がずいぶん軽く感じた。


 黒牙の幹部って。


 すごい。


 子供みたいな感想だった。


 でも、それしか出てこなかった。






 逆に、銀翼側は静まり返っていた。


 ライザは自分の足で戻ってきた。


 倒れてはいない。


 意識もある。


 しかし、雷は消え、髪も元に戻り、拳も下ろしていた。


 誰の目にも分かる。


 ライザは負けた。


「ライザさんが……」


「強すぎる……」


「あれに勝てるわけ……」


「黙れ」


 低い声が落ちた。


 銀翼側のざわめきが、そこで止まる。


 ギリオだった。


 カウボーイハットのつばの下から、銀翼第一席の男が全員を睨む。


「たった一敗だ」


 その一言で、空気が締まった。


「一敗で顔を伏せるなら、最初からここに立つな」


 銀翼の残党たちは、誰も言い返せない。


 ギリオは大穴の底ではなく、戻ってきたライザを見た。


「ライザ」


「悪い」


 ライザは、焦げた拳を軽く上げた。


「負けた」


「見てた」


「それと、もう一つある」


 銀翼側が、わずかにざわつく。


 ライザは息を吐いた。


「私は、今をもって銀翼を抜ける」


「ライザさん!?」


「何言ってんだよ!」


 声が上がる。


 だが、ライザは一度も周囲を見なかった。


 視線は、黒牙側へ戻っていく赤髪の女を追っている。


「あの女について行く」


 ライザは笑った。


「惚れたぜ」


 銀翼側の空気が凍る。


 イグニスはそれを聞いて、片眉を上げた。


「おや」


「力も、生き様も、女としての格も、全部負けた」


 ライザは肩をすくめる。


「なら、近くで見る。あの女がどこまで燃えるのか」


 ギリオは黙っていた。


 怒るでもない。


 止めるでもない。


 ただ、ライザを見ている。


 ライザは、真っ直ぐギリオを見返した。


「悪いな、ギリオ」


「全力で負けたんだろ」


「ああ」


「まだ立ってるんだろ」


「ああ」


「なら、次の道くらい自分で決めろ」


 ギリオは、帽子のつばを少し下げた。


「好きにしろ」


 ライザは、少しだけ目を細めた。


「恩に着る」


「着るな。次に敵で立ったら撃つ」


「はは。そん時は焼かれる前に撃てよ」


 ギリオは答えなかった。


 銀翼側は沈んでいる。


 だが、ギリオだけは折れていなかった。


 たった一敗。


 そう言い切れる男がいる限り、銀翼はまだ終わっていない。






 イグニスが黒牙側へ戻ってくる。


 赤い光はもう落ち着いていた。


 黒点も、空の赤い太陽も、すでに消えている。


 だが、場に残った熱だけは消えていなかった。


「場は温めといたよ」


 イグニスは軽く笑った。


「温めすぎです」


 セリカが淡々と言う。


「真冬なのに汗をかきました」


「いいじゃないか。冷えたら体に悪い」


「限度があります」


 イグニスは肩をすくめ、ハルトを見る。


「一勝、取ってきたよ」


「ああ」


 ハルトは短く頷いた。


「助かった」


「ふふ。素直だねぇ」


「うるせぇよ」


 イグニスは満足そうに笑った。


 その目が、ふとハルトの腰元へ向く。


 黒鋼の短剣。


 かつてレヴィンが持ち、エイベルへ渡り、今はハルトの腰にある一本。


 レヴィンの優しさ。


 エイベルの意志。


 二人が残したものが、今は白煙の腰にある。


 レヴィン。


 エイベル。


 あんたたちが残したものは、ちゃんとここにあるよ。


 たぶん。


 この第六席陣営には。


 ハルトは、きっとまだ分かっていない。


 自分がどれだけのものを背負っているのか。


 それでもいい。


 分からないまま、進めばいい。


 そういう男だから、あの短剣は今そこにあるのだと思えた。


 イグニスは視線を外し、ルーカスを見る。


 ルーカスは、まだ固まっていた。


 目は大穴の底を見ている。


 けれど、意識はそこにない。


 たぶん、今見たものを自分の中で必死に整理している。


 イグニスは近づき、ルーカスの背中を叩いた。


 ばしん、と乾いた音が鳴る。


「うっ」


 ルーカスの体が前につんのめった。


「あとは任せた、新人」


「え……」


 背中が、ジンジンする。


 痛い。


 いや、熱い。


 イグニスの手の熱が、服越しに残っていた。


 さっきまで、二つ目の太陽を作っていた女の手。


 その熱が、ルーカスの背中に残っている。


 怖い。


 だけど、不思議と足が前に出そうになる。


「幹部ってのは、だいたい化け物なんだよ」


 イグニスが笑う。


「だいたいじゃなく全員だろ」


 ハルトが横から言った。


「お前も含めてね、白煙」


「俺は違う」


「一番怪しいやつが何言ってんだい」


 イグニスは笑い、またルーカスを見る。


 今度は少しだけ、声が柔らかくなった。


「怖いなら、ちゃんと怖がっとけ」


「……はい」


「怖いものを怖いって分かるやつの方が、長生きする」


 ルーカスは、背中の熱を感じながら頷いた。


 怖い。


 確かに怖い。


 でも。


 かっこよかった。


 怖いとか、強いとか、化け物だとか。


 そういう言葉より先に。


 黒牙の幹部は、こんなにもかっこいいのだと思った。


 自分も、あんなふうになれるだろうか。


 分からない。


 なれる気はしない。


 それでも。


 背中に残った熱が、まだ消えない。






 次の対戦者を決める空気が、自然と生まれる。


 銀翼側でギリオが顎を動かした。


「レイド」


 一人の男が前へ出る。


 荒々しく、無骨な男だった。


 白髪のストレートロングが肩下まで落ちている。


 年は三十五ほど。


 鍛え上げた体に、無駄な装飾はない。


 ただ、刃物のような殺気があった。


 銀翼第四席。


 百屍(ひゃくし)のレイド。


 その名が出た瞬間、黒牙側にも緊張が走った。


「第四席……?」


「おい、次は補佐見習いだろ」


「格が違いすぎる……」


 誰かが小さく呟いた。


 ルーカスにも、それは分かった。


 相手は銀翼の第四席。


 こちらは黒牙第六席の、補佐見習い。


 幹部ですらない。


 正式な補佐ですらない。


 自分は、まだ見習いだ。


 レイドの視線が、黒牙側をゆっくりと舐める。


 そして、ルーカスで止まった。


「次は、その子供か」


 低い声だった。


 ルーカスの心臓が跳ねる。


 子供。


 そう言われても仕方がない。


 自分はまだ、覚悟も決まっていない。


 戦い方も知らない。


 何を選べばいいのかも、まだ分かっていない。


 なのに、相手は銀翼第四席。


 足が、少しだけ重くなる。


「びびるな、新人」


 背後から、イグニスの声が飛んだ。


 ルーカスは振り返る。


 イグニスは、笑っていた。


「相手が格上なのは、見りゃ分かる」


「……はい」


「だからって、足を止める理由にはならないよ」


 イグニスが、自分の背中を親指で示すように言った。


「さっき言ったろ。あとは任せたって」


 ルーカスの背中が、まだ熱い。


 叩かれた場所が、じんじんと疼いている。


「怖いなら、ちゃんと怖がっとけ」


 イグニスは言った。


「でも、怖いまま行け」


 ルーカスは息を吸った。


 怖い。


 相手は明らかに格上だ。


 自分が出ていい相手ではないのかもしれない。


 でも。


 背中の熱が、まだ消えない。


「行きます!」


 気づけば、自分から声が出ていた。


 セリカが目を細める。


 ベルノが傷だらけの体で、少し顔を上げる。


 担架の上のシャノンが、白目気味のまま小さく鳴いた。


「ニャ……」


「お前は寝てろ」


 ハルトが言い、ルーカスを見る。


「ルーカス」


「はい」


「覚悟は決まったか?」


 その問いに、ルーカスはすぐには答えられなかった。


 決まっていない。


 胸を張って言えるものなんて、まだ何もない。


 だから、正直に言った。


「決まってません!」


 ハルトの眉が、わずかに動く。


 ルーカスは続けた。


「けど、決めてきます」


 黒鋼手甲を握る。


 手は震えていた。


 でも、足は下がらない。


 ハルトは少しだけ笑った。


「行ってこい」


「はい!」


 ルーカスは大穴の底へ向かって歩き出す。


 背中に、イグニスの熱が残っている。


 目の奥に、黒点の赤が残っている。


 耳には、レイドの低い声が残っている。


 怖い。


 でも。


 怖いままで、行く。


 第四戦。


 黒牙第六席補佐見習い、ルーカス・グランベル。


 対するは、銀翼第四席。


 百屍(ひゃくし)のレイド。


 継いだ熱を、まだ力とは呼べない。


 継いだモノを、まだ覚悟とは呼べない。


 それでもルーカスは、一歩目を踏み出した。

あとがき


第11話「継ぐモノ」でした。


今回は、イグニス戦の余韻を受けつつ、ルーカスへ流れを渡す回です。


イグニスが一勝を取ったことで、黒牙側の空気は一気に戻りました。


逆に銀翼側はかなり沈みますが、そこでギリオが「たった一敗だ」と締めることで、銀翼第一席としての格も出せたかなと思います。


そしてライザは、ここで銀翼を抜ける宣言。


全力でぶつかって、完全に差を知って、それでも折れずに「惚れた」と言える女です。


イグニスに続いて、ライザもかなり好きなキャラになりました。


後半はルーカス。


黒牙の幹部の凄さを見て、怖さも羨望も抱えたまま、それでも自分から前に出ました。


「覚悟は決まったか?」

「決まってません! けど、決めてきます」


この未完成さが、今のルーカスらしいところだと思います。


次回、ルーカス対レイド。


幹部補佐見習いと銀翼第四席。


かなり格上相手ですが、ルーカスが何を見て、何を決めるのか。


良ければ感想や反応をもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ