表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生した底辺盗賊の俺、悪名を喰らって悪の帝王へ成り上がる  作者: タクト
第四章 白煙と新しい牙

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/108

第3話 白煙の新しい牙



 残ったのは十人ほどだった。


 ルーカス。

 シャノン。

 ベルノ。


 元冒険者らしい男。

 下部組織の力自慢。

 商家出身の真面目そうな青年。

 黒牙入りを狙っているらしいゴロツキ。

 妙に目つきの悪い男。

 それから、ここまで何とか残った数名。


 最初は百人以上いた。


 それが壁登りと特徴記憶で、ここまで減った。


 試験としては、かなり順調だ。


 ただし、残った連中を見ていると、順調というより、濃いものだけが煮詰まった気もする。


「次は実務試験です」


 セリカが告げると、残った候補者たちの顔に少しだけ安堵が浮かんだ。


 壁登り。

 観察と報告。


 そこまで来て、ようやく普通の試験らしいものが来たと思ったのだろう。


 だが、黒牙(こくが)の実務は普通ではない。


「内容は、筆記、簡単な計算、帳簿整理、地図読み、連絡伝達、報告書作成、平和税(へいわぜい)の分類、黒牙刻印の管理、そして裏稼業の基礎知識です」


「多くね?」


 俺が思わず言うと、セリカは冷たくこちらを見た。


「ハルト様が普段避けている仕事です」


「言い方」


「事実です」


 何も言い返せなかった。


 候補者たちには紙と筆が配られる。


 机の上には、簡単な帳簿。

 平和税の加入申請書。

 地図。

 複数の連絡文。

 黒牙刻印の管理表。

 偽の報告書。

 わざと数字を間違えた帳簿。


 見ているだけで頭が痛くなる。


 セリカはそれを毎日やっている。


 そりゃ補佐も必要になるわけだ。


「制限時間は半刻です。始めてください」


 候補者たちが一斉に筆を取った。


 まず目立ったのは、当然ベルノだった。


 黒髪眼鏡の男は、紙を見た瞬間に手を動かし始める。


 迷いがない。


 帳簿の数字を追い、誤記を見つけ、平和税の分類を整え、黒牙刻印の管理表と地図を照合していく。


 書き方も綺麗だ。


 読みやすい。


 無駄がない。


「……あいつだけ、本当に補佐試験を受けに来てるな」


「はい」


 セリカは珍しく素直に頷いた。


「ベルノは実務に関しては相当優秀です。オルガン様の推薦枠というだけはあります」


「他二人は?」


 セリカは少しだけ目を細めた。


「見れば分かります」


 まず、シャノン。


 猫目の少女は、筆を持ったまま固まっていた。


 目は真剣だ。


 姿勢もいい。


 一見すると、かなり集中しているように見える。


 だが、筆がほとんど動いていない。


「……何してんだ、あいつ」


「考えているようですね」


「考えてるだけか?」


「おそらく」


 しばらくして、シャノンがようやく書いた。


 俺は少し期待して、横からのぞく。


 問いは、契約書に書かれた項目の意味を答える問題だった。


 シャノンの答え。


『破ればいい』


 俺は黙った。


 セリカも黙った。


「……破るなよ」


「まだ言っていません」


「顔が言ってた」


 その後もシャノンの答えはひどかった。


 帳簿の空欄には、たぶん多い、たぶん少ない、と書く。

 平和税の分類には、金持ち、普通、弱そう、と書く。

 地図読みでは、危なそうな路地だけは正確に避けているのに、肝心の通りの名前が書けない。


 だが、まったく駄目というわけでもなかった。


 危険な場所。

 逃げ道。

 人が隠れそうな裏道。

 屋根へ上がれる場所。

 水場の匂い。


 そういうものだけは、やけに鋭く拾っている。


「実務は壊滅だな」


「はい」


「でも現場なら使えそうだな」


「はい。それが厄介です」


 次に、ルーカス。


 こいつもまた変だった。


 黒髪の高身長少年は、ぼーっとした目で問題を見ていた。


 筆の動きは遅い。


 だが、答えは妙に合っている。


 計算は正しい。

 地図読みも正しい。

 安全な経路選択も正しい。

 帳簿の数字の間違いも見つけている。


 ただし、報告欄の文章がまた小学生みたいだった。


『この道は暗そうなので、夜は危ないと思います。

 でも、右の道はもっと危ないです。

 なぜなら、角が多いからです。

 あと、猫がいそうです。』


「猫いるか?」


「いません」


 セリカが即答した。


「ならなんで書いたんだよ」


「分かりません」


 別の問題ではこう書いていた。


『このお店は、小コースでいいと思います。

 お金があまりなさそうだからです。

 でも、店の人はまじめそうでした。

 困ったら助けた方がいいと思います。』


 俺は少し黙った。


「……間違ってるのか?」


「分類としては正しいです」


「じゃあいいじゃねぇか」


「報告書としては不適切です」


「内容は?」


「合っています」


「こいつ、毎回それだな」


 ルーカスは顔を上げ、首を傾げた。


 自分が何を言われているのか、よく分かっていないらしい。


 やがて、実務試験が終わった。


 採点結果は分かりやすかった。


 ベルノ、満点。


 ルーカス、八十点ほど。


 シャノン、三十点ほど。


「三十点で残すのか?」


 俺が聞くと、セリカは書類を揃えながら答えた。


「残します。身体能力と観察能力が突出していますので」


「筆記三十点だけどな」


「そこは教育します」


「できるのか?」


「やるしかありません」


 セリカの声に、少しだけ覚悟が混じっていた。


 シャノンが遠くで胸を張っている。


 たぶん、自分がかなり低い点数を取ったことを分かっていない。


 ベルノは静かに結果を受け止めていた。


 ただ、目の奥に少しだけ悔しさがある。


 ルーカスは、結果を見てぼんやりしていた。


「お前、自分の点数見たか?」


「はい」


「どう思った?」


「八十は、多いと思いました」


「そうか」


「よかったです」


「よかったな」


 こいつは本当に、何を考えているんだろう。


   ◇


 実務試験の後、残った十人に面接を行うことになった。


 全員を見る必要はない。


 すでにある程度、点数で差はついている。


 だが、補佐見習いとして採る以上、最低限、何を考えてここに来たのかは聞いておきたい。


 最初の数人は、すぐに終わった。


 元冒険者の男は、経験は悪くなかった。

 だが、黒牙の裏仕事に踏み込む覚悟が足りなかった。


 下部組織の力自慢は、身体能力はある。

 だが、補佐というよりただの兵隊だった。


 商家出身の青年は、真面目だった。

 しかし白煙の噂に憧れて来ただけで、危険に対する理解が甘い。


 ゴロツキは、態度が悪かった。


 終わり。


 妙に目つきの悪い男は、セリカが質問を二つ投げただけで汗をかき始めた。


 シャノンが鼻を鳴らす。


「そいつ、嘘ついてる」


「何が分かる」


「匂い」


「また匂いか」


「汗の匂いが変だ」


 セリカが目を細める。


 少し調べると、男は他所の組織が入れた探りだった。


 その場で別室に連れて行かれた。


 たぶん、二度と面接には戻ってこない。


「……便利だな、匂い」


「便利だぞ」


 シャノンは真面目な顔で言った。


「でも報告書には使いにくいですね」


「なんでだ」


「臭い、とだけ書かれても困るからです」


「臭いもんは臭い」


 セリカが、早くも頭を抱え始めていた。


 そして、残った三人。


 ルーカス。

 シャノン。

 ベルノ。


 まずは、ベルノからだった。


 黒髪眼鏡の男は、背筋を伸ばして椅子に座る。


 姿勢がいい。


 俺よりよほど幹部っぽい。


「ベルノ。お前はオルガンの推薦だったな」


「はい」


「なんでうちに来た?」


「オルガン様より、ハルト様の下で実力を示してこいと命じられました」


「左遷か?」


「いいえ。昇進前の配置転換と認識しています」


「前向きだな」


「実務上、オルガン様の補佐枠はすでに厚く、私が上へ進む余地は限られていました」


「へぇ」


「私の担当していた仕事は、すでに部下へ引き継いでおります。第六席は現在、平和税、黒牙刻印、外縁区管理、銀翼領の再編など、未整備の実務が多い」


「未整備って言うな」


「事実です」


 セリカが小さく頷いた。


 頷くな。


「ですので、第六席で実績を作ることは、私にとって好機です」


 はっきりしている。


 出世したい。


 実力を示したい。


 オルガンの下で鍛えられた実務型の人材。


 俺のところに足りないものを、かなり持っている。


「分かった。次、シャノン」


「おう」


 シャノンは椅子に座った。


 姿勢はいい。


 見た目だけなら真面目そうだ。


 褐色肌に、顎までの白髪ショートボブ。

 黄色い猫目。

 縦長の瞳孔。


 人間登録らしいが、見た目も動きも、かなり猫だ。


「シャノン。お前はなんで応募した?」


「家族に飯を食わせるためだ」


 即答だった。


 思ったより、まともな答えが来た。


「家族?」


「親と、兄弟がたくさんいる。下のやつらがよく食う」


「普通の仕事は?」


「落ちた」


「なんで」


「猫っぽいから」


 シャノンは不満そうに腕を組んだ。


「王都では、獣人に対する偏見があります」


 セリカが横から説明した。


「獣人は、人間より知能が低いと見られています。また、本能的な行動が多く、犯罪率も高いとされているため、一般職では採用されにくい傾向があります」


「されてる?」


「統計として高い部分もあります。ただ、それだけで全員を同じ扱いにするのは偏見です」


「で、シャノンは獣人じゃないんだよな?」


「登録上は人間です」


「登録上ってなんだ。人間だぞ」


 シャノンが少しむっとした顔をする。


 俺は頷いた。


「でも、お前、筆記……」


「それは、元からだにゃ!」


 俺は黙った。


 セリカも黙った。


「にゃって言ってるじゃねぇか」


「感情が高ぶると出るんだよ!」


「人間なんだよな?」


「人間だ!」


「でも猫だよな?」


「人間だ!」


 面倒くさい。


 だが、家族を食わせるために来たという理由は悪くない。


「冒険者は考えなかったのか?」


「考えた。でも、初めから稼げるわけじゃない。装備もいる。危ない。安定しない」


「黒牙の方が安定するか?」


「幹部補佐になれれば、早い」


「補佐見習いだけどな」


「見習いからでも、飯は出るだろ?」


 シャノンの目が真剣だった。


 そこかよ。


 だが、そこが大事なのかもしれない。


「ユニークスキルは、猫又(ねこまた)だったな」


「ああ」


「いつ発現した?」


 シャノンは一瞬だけ、目を伏せた。


「タマが死んだ時だ」


「タマ?」


「昔、一緒にいた猫だ」


「ふーん……」


 猫を飼っていたのか。


 それくらいに思った。


 シャノンはそれ以上、話さなかった。


 俺も深く聞かなかった。


 次に、ルーカス。


 黒髪の高身長少年は、椅子に座ってもぼーっとしていた。


 色白で、目の下に小さなホクロがある。


 見た目だけなら、黒牙よりも貴族の使用人見習いとか、どこかの本屋の息子みたいだ。


 だが、壁をふた飛びで登った。


 意味が分からない。


「名前は」


「ルーカスです。ルカでいいです」


「志望動機は」


「親に働きなさいって言われました」


 沈黙が落ちた。


「……それで黒牙に来たのか?」


「はい」


「なんで黒牙なんだよ」


「最初に見た広告が、これだったので」


「……」


「……」


 セリカがこめかみを押さえた。


「お前、店の皿洗い募集とかを先に見てたら、そっちに行ってたのか?」


「たぶん」


「たぶんなのかよ」


「はい」


「ここがどこか分かってるか?」


「黒牙ですよね」


「分かってて来たのか」


「はい。たぶん」


「たぶんをやめろ」


 こいつ、本当に大丈夫か。


「親は何してるんだ?」


「冒険者です」


「冒険者って何するんだ?」


 俺が聞くと、セリカが少し考えた。


「人によりますね。護衛、魔物討伐、遺跡探索、素材回収、要人警護、危険地帯の調査などです」


「うちの両親は、去年ドラゴンを倒してました」


「……は?」


「英雄祭の主賓になってました。よく分かんないですけど」


 よく分かんないのかよ。


「親のこと、尊敬してないのか?」


「好きです」


「尊敬は?」


「……親なので」


「答えになってねぇ」


 ルーカスにとって、両親は英雄ではないらしい。


 ドラゴンを倒した人間でもない。


 ただの親。


 家庭内の普通。


 だから感覚がズレている。


「夢とか、出世したいとかは?」


「特には」


「強くなりたいとか」


「痛そうなので」


「……」


 セリカが小さく息を吐いた。


「ハルト様」


「なんだ」


「この子、別の意味で危険です」


「分かる」


 だが、能力はある。


 高い身体能力。

 優れた観察眼。

 頭脳も悪くない。


 本人にやる気はないが、使えないわけではない。


 むしろ、どう育つのか分からない。


 俺は椅子にもたれた。


「分かった。面接はここまでだ」


 候補者たちが息を吐く。


 だが、試験はまだ終わっていない。


「最後に、もう一つだけ見る」


 俺がそう言うと、セリカが候補者たちを見た。


「全員、席を立ってください」


 残った候補者たちは、戸惑いながら立ち上がる。


「何をするんだ?」


 元冒険者の男が、警戒したように聞いた。


 セリカは淡々と答える。


「立っていてください」


「それだけか?」


「はい。それだけです」


 候補者たちの顔に、困惑が広がる。


 ベルノは背筋を伸ばした。

 シャノンは目を細めた。

 ルーカスは、ぼーっとしていた。


 俺は候補者たちの前に立つ。


「第六席の補佐見習いに必要なのは、能力だけじゃない」


 俺は息を吐いた。


「俺の近くで、立っていられるかだ」


 候補者たちは意味が分かっていないようだった。


 まあ、分からなくていい。


 俺は右目の奥に意識を向けた。


 黒い鎖の奥。


 堕落の王(ルシファー)


 その奥で、心臓のように何かが脈打つ。


 深く、冷たく。


 俺はそれを、ほんの少しだけ鳴らした。


 深淵鼓動(アビスハート)


 白い冷気が、足元を這った。


 空気が沈む。


 温度が下がる。


 理由のない恐怖が、訓練場に広がった。


 最大出力ではない。


 ほんの少し。


 試験用に、薄く流しただけだ。


 それでも、候補者たちは耐えられなかった。


「ひっ……」


 一人が泣いた。


 別の一人が膝から崩れ落ちる。


 元冒険者の男が歯を食いしばったが、額に汗を浮かべて後ろへ下がった。


 下部組織の力自慢は、武器を取り落とした。


 商家の青年は顔を真っ青にして祈り始めた。


 ゴロツキは逃げようとして、足がもつれて倒れた。


 残っていた数人も、次々に腰を抜かす。


 この程度で駄目なら、俺の近くでは働けない。


 悪いが、そういうことだ。


 その中で、三人だけが残った。


 ベルノは膝をついていた。


 逃げてはいない。

 気絶もしていない。

 意識もある。


 だが、膝をついた。


 拳を握り、悔しそうに奥歯を噛んでいる。


「申し訳、ありません……」


 セリカが板に書き込む。


「ベルノ。恐怖耐性、四十点」


「低くねぇか?」


「膝をつきました」


「逃げなかっただけマシじゃねぇか?」


「だから失格にはしていません。ですが、減点は大きいです」


 厳しい。


 だが、セリカの言うことも分かる。


 第六席直属として動くなら、俺の近くで膝をつくのは危ない。


 次に、シャノン。


 こいつは膝をついていなかった。


 気絶もしていない。

 泣いてもいない。


 ただ、一瞬で俺から距離を取っていた。


 猫のように身を低くし、背中を丸め、黄色い目を細める。


「シャーッ……!」


「威嚇すんな」


「本能だ!」


 セリカが淡々と書き込む。


「シャノン。恐怖耐性、九十点」


「十点引くのか?」


「距離を取りましたので」


「生き物として正しい反応だろ!」


「第六席直属としては減点です」


 シャノンが不満そうに唸った。


 だが、膝をつかなかったのは大きい。


 そして、最後。


 ルーカス。


 こいつは、何も変わっていなかった。


 ぼーっと立っている。


 白い冷気の中で、少しだけ首を傾げている。


「……お前、何も感じねぇのか?」


 俺が聞くと、ルーカスは少し考えた。


「少し寒いです」


「寒いだけかよ」


「はい」


「怖くなかったのか?」


「怖い、ですか?」


「今のだ」


 ルーカスはまた少し考えた。


「母が怒った時の方が怖いです」


 俺は思わず笑った。


「ははっ。お前の家庭環境、どうなってんだよ」


「普通です」


「普通の家庭は、俺の恐怖を母親以下で処理しねぇよ」


 セリカが板に書き込む。


「ルーカス。恐怖耐性、百点」


「理由が嫌だな」


「結果は結果です」


 その通りだった。


 結果だけ見れば、ルーカスは俺の深淵鼓動(アビスハート)を受けても平然としていた。


 気づいていないだけかもしれない。


 だが、気づいていないなら、それはそれで異常だ。


 最終結果は、こうなった。


 首席、ルーカス。


 身体能力百点。

 特徴記憶百点。

 実務八十点。

 恐怖耐性百点。


 二席、シャノン。


 身体能力百点。

 特徴記憶百点。

 実務三十点。

 恐怖耐性九十点。


 三席、ベルノ。


 身体能力八十点。

 特徴記憶九十点。

 実務百点。

 恐怖耐性四十点。


「……実務満点で三席ですか」


 ベルノが静かに呟いた。


 声は落ち着いているが、少し悔しそうだった。


「上二人が事故だった」


「採点基準に事故を含めないでください」


「でも事故だろ」


「否定はできません」


 シャノンが胸を張る。


「私は二席か」


「実務三十点だけどな」


「でも二席だ」


「実務三十点だけどな」


「二回言うな!」


 ルーカスは、自分の名前が首席にあるのを見て首を傾げていた。


「俺ですか?」


「お前だ」


「なんでですか?」


「こっちが聞きてぇよ」


 俺は三人を見た。


 ルーカス。

 シャノン。

 ベルノ。


 どれか一人だけを選ぶなら、かなり悩む。


 ルーカスは意味不明だが、能力は異常。

 シャノンは実務が壊滅的だが、現場能力が高すぎる。

 ベルノは恐怖耐性に難があるが、実務では一番必要な人材だ。


 一人を選べば、別の穴が残る。


「……じゃあ、全員採用で」


 セリカが俺を見る。


「全員、ですか?」


「正式補佐じゃなくて、見習いだ。使えなきゃ落とせばいい」


「私の下につけるのですよね」


「ああ」


「私の仕事が増えますね」


「最初だけだ」


「その言葉、覚えておきます」


 怖い。


 ベルノは深く頭を下げた。


「ご期待に沿えるよう努めます」


 シャノンは手を上げた。


「飯は出るのか?」


「出る」


「ならいい」


 ルーカスは、ぼーっとした顔で言った。


「働くことになったんですね」


「お前、働きに来たんだろ」


「はい。たぶん」


「たぶんをやめろ」


 こうして、白煙のハルトの下に、三人の補佐見習いが加わった。


 一人は、何も考えていないようで、壁をふた飛びで越える少年。


 一人は、猫のように壁を駆け、危険の匂いを嗅ぎ分ける少女。


 一人は、誰よりまともに書類を整え、誰よりまともに頭を抱える青年。


 この時はまだ、誰も知らない。


 彼らがのちに、王都ルヴェリアでこう呼ばれることを。


 白煙三牙(はくえんさんが)


 白煙の下に立つ、三つの新しい牙として。

あとがき


第4章「白煙と新しい牙」第3話でした。


補佐見習い試験、後半です。


今回は実務試験、面接、そして白煙の近くに立てるかを見る恐怖耐性試験でした。


ルーカスは身体能力と観察眼だけでなく、恐怖耐性まで異常。


シャノンは実務がかなり怪しいですが、現場能力と感覚は抜群。


ベルノは実務面では文句なしに優秀ですが、白煙の恐怖には膝をついてしまいました。


結果、首席ルーカス、二席シャノン、三席ベルノとして、三人とも補佐見習いに採用です。


まだ正式な補佐ではありませんが、ここからハルトの周りに新しい人材が増えていきます。


この三人が今後どう成長していくのか、そしてセリカの胃は無事なのか。


次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ