第1話 春の終わり
裏路地に、二つの足音が転がり込んだ。
「っ、くそ! なんなんだよ!」
ロッソが壁に肩をぶつけながら叫ぶ。
その横で、バルドが息を切らし、曲がり角へ目を走らせた。
逃げ道は、なかった。
細い路地の両側。
そこに、三つの影が立っていた。
ルーカス。
ベルノ。
シャノン。
三人は何も言わず、それぞれが路地の出口を塞いでいる。
「お、おいおい……冗談だろ」
バルドの声が裏返る。
「ハルトからの差し金か!? あの粛清の件をまだ恨んでんのか!?」
「いや、あれは、その、こっちにも事情があったっていうかよ!」
ロッソが両手を上げる。
「俺たち、別に今は何もしてねぇだろ!? なあ!? なあって!」
答える者はいなかった。
ルーカスは気まずそうに視線を逸らし。
ベルノは腕を組んで黙り。
シャノンだけが、にやにやと口元を歪めていた。
「逃げ足だけは健在だにゃ」
「うるせぇ! 褒められてる気がしねぇ!」
「褒めてないにゃ」
「だろうな!」
ロッソが叫ぶ。
その声に重なるように、路地の奥から静かな靴音が近づいてきた。
こつり。
こつり。
石畳を踏む音は、やけに落ち着いている。
ロッソとバルドの顔から、血の気が引いた。
セリカだった。
いつも通り、背筋を伸ばし、乱れのない歩き方で、細い路地の奥から現れる。
剣を抜いているわけでもない。
魔法を構えているわけでもない。
なのに、二人は壁際までじりじりと下がった。
「な、なんだよ……」
ロッソが唾を飲む。
「俺たち、ハルトに何かしたか?」
「してねぇよな? 最近はしてねぇよな?」
バルドがロッソの袖をつかむ。
セリカは、二人の前で足を止めた。
薄く開いた瞳が、二人を静かに見据える。
「あなた達に、聞きたいことがあります」
その声は、冷たくも荒くもなかった。
ただ、逃げ道を消す声だった。
◇
「気持ちいいだろ? 春の海は!」
ナザルの声が、潮風に乗って弾けた。
白い帆が風を孕み、小さなヨットが近海を滑る。
波は穏やかで、陽光は水面に細かく砕け、遠くの港には大小の船が白い線を引いていた。
ハルトは船縁につかまりながら、鼻先にかかる潮の匂いを吸い込んだ。
「いいな。穏やかで」
「だろ?」
ナザルは機嫌よく笑う。
「ハルト君の傷心には持ってこいってことで!」
「誰がハルト君だ! あと傷心してねぇ!」
「してねぇやつはそんな顔しねぇよ!」
「どんな顔だよ!」
「面倒くさい顔!」
「雑だな、おい!」
ナザルが大笑いする。
その笑い声につられるように、ヨットが波の上で軽く跳ねた。
明るい太陽。
爽やかな海風。
街には、綺麗な光が降り注いでいる。
王都ルヴェリア。
水の都。
港の都。
世界一の経済都市。
海側から見るその街は、陸から見る姿とは少し違っていた。
高い城壁も、無数の屋根も、水路を渡る橋も、まるで一枚の絵のように春の光を浴びている。
ハルトは、少しだけ黙ってそれを見た。
「……こんなことしてていいのか?」
「あ?」
「仕事とか、色々あるだろ」
「よくはねーな!」
「おい」
「だが、たまにはいいだろ!」
ナザルが帆の角度を変える。
「捕まってろよ、ハルト!」
「は?」
次の瞬間、ヨットが一気に加速した。
「うわっ!?」
風が顔に叩きつけられる。
船体が波を切り、海水が白く跳ねる。
「お前、急にやんな!」
「急だから楽しいんだろ!」
「そういう理屈嫌いじゃねぇけど今じゃねぇ!」
ナザルは笑いながら、港へ向けて舵を切った。
大きな商船の脇を横切る。
帆の影が一瞬だけ落ち、すぐに陽光が戻る。
小舟の間を縫うように進み、港の水路へ入った。
水路の両側には倉庫が並んでいる。
荷を運ぶ男たちが声を張り、船乗りが手を振り、魚の匂いと木箱の匂いと潮の匂いが混ざっていた。
小さなヨットは、さらに水路を進んだ。
倉庫街を抜けた先で、ナザルは器用に船を寄せる。
「ほら、着いたぞ」
「……相変わらず無茶苦茶だな、お前」
「褒め言葉として受け取っとく」
「褒めてねぇよ」
ハルトは濡れた髪を手で払って、石段に足をかけた。
ナザルは帆を直しながら、ふっと笑う。
「まあ、あれだ。また飲みに行こーぜ」
ハルトは少しだけ目を細めた。
「あぁ。ありがとうな、ナザル」
「やめろやめろ、気持ちわりぃ!」
「なんでだよ」
「お前が素直だと海が荒れる」
「最低だな」
「これ以上サボるとスイレンにどやされちまう。じゃあな、ハルト!」
ナザルはそう言うと、また水路へ船を出した。
風を掴んだヨットが、一気に加速する。
白い帆が陽を受け、水路の向こうへ小さくなっていく。
ハルトは、その背中を少しだけ見送った。
自分のことを気にかけてくれる人間がいる。
それだけで、何か不思議な気分になる。
ナザルも、イグニスも。
兄と言うには違う。
友達と言い切るにも、少し違う。
けれど、確かに気にかけてくれる。
変な距離感だ。
なのに、悪くない。
数ヶ月前なら、こんな気持ちになるとは思いもしなかった。
ハルトは濡れた髪をかき上げ、港から街へ歩き出した。
今は、ここがある。
第六陣営館。
黒牙第六席の陣営。
ハルトの居場所。
館の門へ近づくと、門番の二人が姿勢を正した。
「お帰りなさいませ、ハルト様」
「あぁ。ただいま」
何気なく返してから、ハルトは少しだけ妙な気分になった。
ただいま。
自分の口から自然に出た言葉だった。
門を抜け、館の扉を開ける。
すぐに黒牙の構成員が駆け寄ってきた。
「ハルト様、タオルを」
「悪い」
差し出されたタオルで髪を拭く。
潮で少し固くなった髪から、水気が落ちた。
今日は、珍しくセリカから休むよう言われている。
それも今日と明日。
休み。
それはいい。
いいのだが。
「……急に休めって言われてもな」
することがない。
趣味らしい趣味もない。
遊びに行く場所も、思いつかない。
ナザルは少し付き合ってくれたが、あれでも黒牙第九席だ。昼間からずっと遊んでいられる男ではない。
結局、なんだかんだで館へ戻ってきてしまった。
体の傷も、かなり引いている。
まだ違和感は残るが、動けないほどではない。
クロードには散々怒られたが、腕は確かだった。
「そういや、三牙は何してる?」
口にしてから、少しだけ恥ずかしくなった。
白煙三牙。
自分の二つ名が入っている。
何度聞いても、むず痒い。
とはいえ、ルーカス、ベルノ、シャノンの三人は、ルヴェリアの一部では少しだけ知られるようになっていた。
王都を襲った危機から街を守った三人。
そんな噂になっているらしい。
特に子供人気がある。
ルーカスは分かる。
背が高く、顔も悪くなく、優しい。
ベルノも分かる。
いかにも頼れる兄貴分に見えなくもない。
シャノンまで人気なのは、よく分からない。
猫かぶりがうまいのだろう。
「三名でしたら、任務でセリカ様と出られました」
構成員が答える。
「四人で?」
「はい」
「そんなことある……のか」
セリカが現場に出るのは珍しい。
彼女はどちらかといえば、舵取り役だ。
書類をまとめ、動きを組み、必要な人員を動かす。
現場に出ることもあるが、三牙とまとめて動くとなると、少し引っかかる。
「行き先は?」
「分かりません」
「極秘なのか? 俺にも?」
「いえ、報告を受けておりません」
ハルトは眉を寄せた。
「そんなことあるか? セリカが?」
胸の奥に、小さな違和感が残る。
セリカが報告を残さない。
三牙を連れて出る。
行き先不明。
どれも、彼女らしくない。
けれど、緊急事態という空気でもない。
館内も落ち着いている。
門番も、構成員も、いつも通りだ。
「……まあ、いいか」
ハルトはタオルを首にかけたまま、廊下の奥へ歩き出した。
◇
夕刻ほどになると、四人は戻ってきた。
セリカ。
ルーカス。
ベルノ。
シャノン。
誰一人、怪我をしている様子はない。
それを見て、ハルトは少しだけ息を吐いた。
「セリカ、大丈夫だったか?」
「ええ。滞りなく」
いつもの声。
いつもの表情。
だが、どこか薄い。
「お前が出るなんて珍しいな?」
「……はい」
返事が短い。
ハルトは三牙を見る。
「三人がまたやらかしたか?」
「い、いえ! 何も!」
ルーカスの声が一瞬で跳ねた。
「何もありません」
ベルノが真顔で言う。
「なにもないにゃ」
シャノンがそっぽを向く。
おかしい。
誰が見てもおかしい。
「……お前ら、何か隠してるだろ」
三人が、揃って目を逸らした。
セリカだけが、涼しい顔を保っている。
「ハルト様」
「なんだよ」
「明日は、どうお過ごしで?」
「え? いや、決めてねーけど」
「そうですか」
セリカは小さく頷く。
「ハルト様。休みの日くらい、外に出られては?」
「そう思ったんだけどな。やることなくてさ」
ハルトは肩をすくめた。
「俺、仕事くらいしかすることねぇから」
「それはいけません」
「何が」
「心の静養が不足しています」
「心の静養」
「はい」
セリカは真面目な顔で続けた。
「では、明日は正午まで、館への立ち入りをお控えください」
三牙が、ぎょっとした顔をした。
ハルトも首を傾げる。
「……なんでだよ」
「趣味を探すのも仕事です」
「いる? それ」
「必要です」
「本当に?」
「必要です」
押し切る気だ。
ハルトはセリカの顔をじっと見た。
いつも通りに見える。
だが、やはり少しだけ硬い。
「お前、なんか企んでるだろ」
「心の静養です」
「それ万能の盾みたいに使うな」
「ハルト様には必要です」
「……分かったよ。なんか探してみるか」
「はい。それがよろしいかと」
セリカは静かに頭を下げた。
ルーカスが、なぜか安堵したように息を吐く。
ベルノがその脇腹を肘でつつく。
シャノンが笑いを堪える。
ハルトは、ますます怪しんだ。
◇
翌朝。
館の空気は、明らかにおかしかった。
廊下を歩く黒牙構成員が、ハルトを見るたびに不自然に姿勢を正す。
別の者は、こちらに気づくと慌てて角を曲がる。
小声で何か話していた二人組は、ハルトが近づくと同時に話を切った。
陰口を言われているような空気。
それも、かなり下手な陰口だ。
「なんだ……また悪名が悪さしてんのか?」
ハルトは自分の胸に手を当てる。
悪名。
ルシファー。
自分の周囲にまとわりつく、ろくでもない名前。
だが、今のこれは少し違う気もする。
嫌われているというより、避けられている。
廊下の先で、見慣れた三人を見つけた。
「おい、お前ら。今日は……」
「わわっ! ハルト様!」
ルーカスが飛び上がった。
「まだいらしたんですか!?」
「はぁ? 俺の館だろう」
「い、いえ! そうじゃなくて!」
ルーカスが露骨に慌てる。
シャノンがその後ろから顔を出した。
「外に遊びに行く予定にゃ!?」
「そうだけど……なんか隠してるか?」
「隠してないにゃ」
「早いな返事が」
「素直な猫だからにゃ」
「嘘つけ」
ハルトが目を細めると、ベルノが一歩前へ出た。
「ハルト様。この二人は熱があるので、私がクロード様の元へ連れていくところです」
「はぁ?」
「では」
ベルノはルーカスとシャノンの首根っこを掴む勢いで、足早に廊下の奥へ向かった。
「お、おい!」
「失礼します!」
「またにゃ!」
三人は逃げるように去っていく。
ハルトはその背中を見送った。
「クロードは治療師で、怪我は治せるけど……医者や薬師じゃないと熱はどうにもならんだろ」
大丈夫か、あいつら。
そう思った後で、別の感情が胸に残った。
少し寂しい。
三牙とは、長いようで長くない。
短いようで、短くもない。
命を預けた。
背中を預けた。
怒鳴ったし、殴りかけたし、助けられもした。
世間話の一つくらい、できる仲だと思っていた。
「ハルト様」
「ん?」
振り返ると、セリカが立っていた。
気配が薄い。
いつの間にいたのか分からない。
「早く出て行ってください」
「な、なんでだよ!」
「館にいられると困るのです」
「はぁ!?」
「困るのです」
「理由を言え理由を!」
「心の静養です」
「絶対違うだろ!」
セリカは表情を崩さない。
しかし、言葉にいつもの滑らかさがない。
強引に押し通している。
そのまま、ハルトは半ば追い出されるように門の外へ出された。
門が閉まる。
ハルトは、門の前でしばらく立ち尽くした。
「……俺、なんかあいつら怒らせたか?」
胸が少し締まる。
身に覚えがないわけではない。
むしろ、ありすぎて分からない。
口が悪い。
態度も良くない。
無茶もする。
セリカには何度も怒られている。
三牙にも面倒をかけている。
けれど、あんなふうに避けられるほどのことをしただろうか。
「まずいかもしれねぇ……」
ハルトは頭をかき、館から離れた。
◇
「にしても、あの態度はないよな?」
「お、おう」
港で捕まえたナザルは、妙に歯切れが悪かった。
「まあ、セリカちゃんも年頃だしな!」
「はぁ? あいつの肩持つのかよ?」
「肩を持つとか、そういう話じゃねぇというかだな」
「じゃあどういう話だよ」
「俺も忙しくてな!」
ナザルが大げさに腕を回す。
「またな、ハルト! 昼には帰れよ、ちゃんと!」
「なんで昼なんだよ」
「いいから!」
「おい!」
ナザルは逃げるように港の方へ消えていった。
ハルトは眉を寄せる。
「……なんだよ、マジで」
次に、イグニスのところへ向かった。
イグニスなら、何か知っていれば顔に出る。
というより、隠せない。
だが。
「イグニス様は、今は不在で……」
出てきた部下が、気まずそうに頭を下げた。
「嘘だろ? あいつ肉焼いてる以外仕事してねーだろ」
「い、いえ、そんなことは……」
「あるだろ」
「伝えておきますので、今日のところはどうかお引き取りを……白煙様」
「あぁ。別にいいけどよ……」
ここでも追い返された。
完全におかしい。
ナザル。
イグニス。
セリカ。
三牙。
館の構成員。
誰も彼も、何かを隠している。
それなのに、自分だけが知らない。
ハルトは、街をぶらりと歩いた。
繁華街へ出る。
露店の呼び込みが響き、焼いた肉の匂いが漂う。
水路沿いでは、子供たちが木の船を流して遊んでいた。
橋の上では、商人が大げさな身振りで値切り交渉をしている。
店の一軒一軒までは知らない。
だが、道は少し分かるようになった。
どこを曲がれば港へ出るか。
どの橋を渡れば城下町へ近いか。
どの路地に入ると、ろくでもない店が多いか。
知らなかった街を、今は少し知っている。
足は自然と、城壁の方へ向かった。
門番に軽く声をかけ、階段を上る。
高い石段を登るたびに、街の音が少しずつ下へ落ちていく。
城壁の上に出ると、風が吹いた。
春の風だ。
ハルトは、手すりに手を置いて街を見渡した。
水路が光っている。
港には白い帆が並び、倉庫街の屋根が陽を返している。
城下町の通りには人が流れ、遠くの大鐘楼は春の空を突くように立っていた。
広い街だ。
一人でここに登るのは、初めてだった。
街の音が遠い。
人の声も、馬車の音も、船の鐘も、全部が少し離れたところで鳴っている。
ハルトは、ふと息を吐いた。
初めてこの世界に来た時のことを思い出す。
何も分からなかった。
金も、知識も、この世界の常識も。
自分がどこにいるのかさえ、分からなかった。
雪山で死んだ。
最後に願ったのは、焚き火だった。
暖かい火を見ながら、誰かと少しだけ話したい。
そんな、ひどく小さな願いだった。
目を開けた時、本当に焚き火があった。
ニオと荷車を押した。
腹を空かせて、泥をかぶって、ろくでもない街の端を歩いた。
粛清されかけた。
怖かった。
死にたくなかった。
だから、必死に手を伸ばした。
奪った力で、生き残った。
そこから、全部が始まった。
エイベルと出会った。
セリカと出会った。
文字を覚えた。
礼儀を叩き込まれた。
短剣の振り方も、魔法の使い方も、黒牙で生きる意味も、少しずつ体に染み込んでいった。
金剛を砕いた。
勝てるはずのない相手だった。
それでも、運と意地と、もらった全部で喰らいついた。
第六席になった。
王牙幹部なんて、大層な名前まで背負うことになった。
幹部たちとも出会った。
ナザルはうるさい。
イグニスは強引だ。
ラインハルトは、背中が遠い。
リスティアは近い。
ゼギルは、底が見えない。
変な人間ばかりだ。
強くて、面倒で、勝手で、普通じゃない。
けれど、その誰もが、ハルトの知らないものを持っていた。
レヴィンのことを知った。
黒煙の死の真相。
隠されていた悪意。
許せないもの。
許してはいけないもの。
胸の奥が、少しだけ重くなる。
ニオとも、向き合った。
最後の言葉は、今でもうまく整理できない。
ただ、あいつがいたから、ここまで来た。
それだけは、間違いなかった。
それから、白煙三牙が来た。
ルーカス。
ベルノ。
シャノン。
面倒で、うるさくて、勝手で。
それでも、あいつらは隣に立った。
銀翼の残党と戦った。
銀弾を撃ち落とした。
終わったものに、終わりを告げた。
エルナと出会った。
小さな手。
怯えた目。
銀と翡翠の髪飾り。
南諸島連合とやり合って、守って、笑って、別れた。
たった半年と少し。
それだけのはずなのに、あまりにも濃すぎた。
前の人生よりも、ずっと多くのものを得た気がする。
面倒なものも、痛いものも、なくしたものもある。
それでも。
ハルトは左手を見た。
人差し指には、黒牙の双環がある。
団長から託された、レヴィンの指輪。
団長の指輪と対になる、黒牙の大金庫を開く鍵。
正直、その意味をまだ何も知らない。
黒蓋がどこにあるのかも。
この指輪が何を開くのかも。
自分が何を背負わされたのかも。
何も知らないことだらけだ。
けれど、見下ろした街には、知っているものが増えていた。
ナザルと走った水路。
イグニスが肉を焼く場所。
セリカが涼しい顔で歩く通り。
三牙が子供に囲まれて困る広場。
エルナと歩いた道。
そして、帰れば誰かがいる第六陣営館。
知らない世界だった。
今は、少しだけ知っている街になった。
もう一度、ルヴェリアを見渡す。
春の光が、水路に落ちている。
風が吹く。
遠くで鐘の音が鳴る。
「ここは、もう第2の故郷なのかもな……」
口にしてから、少しだけ照れくさくなった。
平和な一日。
平和な日々。
たまに刺激的で、面倒で、騒がしくて。
それでも、最高の仲間がいる。
大鐘楼の針が、正午へ近づいていた。
帰ろう。
自分の家に。
ハルトは、素直にそう思えた。




