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神の雷(トール・ハンマー)〜家族を奪われた天才物理学者の逆行転生。未来の知識で四大勢力に復讐する〜  作者: 天音天成
番外編(後日談)

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番外編② Dr.クリスの『南の島の神様とオモチャ箱』

 西暦2050年、夏。

 南太平洋の赤道直下に浮かぶ、常夏のプライベート・アイランド。

 かつて四大勢力の数百万発のミサイルを弾き返し、人類最大の防衛戦の舞台となった孤島要塞『ニヴルヘイム』の地上部分は、今や完全な南国リゾートへと生まれ変わっていた。


 真っ白な砂浜。透き通るようなエメラルドグリーンの海。

 その波打ち際で、派手なアロハシャツとサングラスを身につけた白髪混じりの男が、サーフボードの上で奇妙なポーズをとっていた。


「ヒャッハー!! 波が無くても関係ねえ! 俺の造った『プラズマ推進サーフボード・改』のスピードについてこれるか、海鳥ども!!」


 Dr.クリス・ウォーカーは、サーフボードの後部に取り付けられた小型の推進器から青白い光を噴射させ、海面から数センチ浮き上がった状態で、時速百キロを超える猛スピードで海上を爆走していた。

 かつて宇宙空間で戦闘機を焼き切ったプラズマ制御技術を、ただ波乗りを楽しむためだけに極限までスケールダウンして搭載した、世界で最も無駄で危険なオーパーツである。


「うひょおおおっ! 最高だぜ! やっぱ物理法則を力技でねじ伏せる瞬間が、一番生きてるって実感するな!」


 クリスは水しぶきを上げながら砂浜に豪快に乗り上げ、満足げにサングラスを外した。

 神盾宗一が表舞台から姿を消し、ヴァルハラの武装解除が宣言されてから七年。

 クリスはこの島に残り、有り余る資金と完全な自由を与えられて、悠々自適の『隠居生活』を送っていた。


 だが、狂気の天才科学者である彼が、ただビーチベッドでカクテルを飲んで満足するはずがない。

 彼の「遊び」は、常に常軌を逸していた。


「おい、AI! 冷えたビールとハンバーガーを持ってこい!」

 クリスが空に向かって叫ぶと、上空から『キュイィィィン』というかすかな音と共に、黒い流線型の物体が急降下してきた。

 それは、かつてG4の特殊部隊を海中で切り刻んだ『自律型マイクロ・ドローン(スウォーム)』の軍用群制御アルゴリズムを応用して作られた、超音速の宅配ドローンだった。


 ドローンはクリスの手元にピタリと停止し、アームから完璧な温度に保たれたビールと出来立てのハンバーガーを差し出した。

「サンキュー! いやぁ、平和ってのは本当に退屈だが、まあ悪くはねえな」


 クリスはビールを一気に呷り、ハンバーガーに齧り付いた。

 アメリカの軍産複合体(DARPA)で、倫理委員会のくだらない制約に縛られ、予算の打ち切りに怯えながら兵器を開発していた頃とは大違いだ。

 ボス(宗一)は、クリスに「真の自由」と「無限の予算」を与えてくれた。そして、彼らが共に創り上げた『神のトール・ハンマー』によって、世界は完璧な平和に縛り付けられている。


「……ボス。あんたは本当に、神様になっちまったんだな」

 クリスは、真っ青な空を見上げながら、ポツリと呟いた。


 その時。

 クリスの手首に装着された特殊なスマートウォッチが、かすかな振動と赤い光の警告アラートを発した。


「ん? なんだ?」

 クリスが画面をタップすると、ホログラムのディスプレイが空中に展開された。


『――警告。軌道上システムの自律メンテ・ドローンより報告。

 デブリ(宇宙ゴミ)の微小な衝突により、『神のトール・ハンマー』の第十二プラズマ排熱フィンに軽微な損傷が発生。自動修復プロトコルを開始しますが、作業効率の低下が予測されます』


 その報告を見た瞬間、クリスの顔から南国リゾートの緩んだ空気が一瞬で吹き飛び、かつて世界を終わらせる兵器を組み上げていた『狂気のマッドサイエンティスト』の顔へと切り替わった。


「あぁん? 俺の最高傑作ベイビーに傷がついただと!? 許せねえ! どこの馬鹿が飛ばしたデブリだ! 昔アメリカが自爆させたゼウスの残骸か!?」

 クリスはハンバーガーを放り出し、砂浜に直結された隠しエレベーターへと猛ダッシュした。


 地下数百メートル。

 冷暖房が完璧に効いた、かつての要塞ニヴルヘイムの中央作戦司令室。

 武装解除されたとはいえ、ここには世界最高峰の量子スーパーコンピュータと、宇宙空間の『神の雷』を遠隔操作するためのメインコンソールがそのまま残されている。


「おい、AI! 自動修復プロトコルの予測完了時間はどうなってる!?」


『――自動修復プロトコル、稼働中。対象の排熱フィンの完全修復まで、推定七十二時間。兵器の稼働に支障はありませんが、一時的に出力効率が低下します』


「七十二時間だぁ!? 遅え! 俺の最高傑作ベイビーに傷がついたまま三日も待てるか! マニュアル操作に切り替えろ!」


クリスはコンソールに飛びつき、凄まじい速度でキーボードを叩き始めた。

 メインモニターに、高度四百キロメートルの宇宙空間で光学迷彩に隠れながら静かに地球を周回する巨大な十字の要塞――『神の雷』の姿が映し出される。

 その巨大な砲身の一部に、確かにかすかな凹みと焼け焦げた痕があった。


「チッ、ミリ単位の歪みだが、このままプラズマを最大チャージすれば、磁場バランスがコンマ01パーセント狂う可能性があるな。……いいかAI、俺の指の動きをコンマ一秒の狂いもなく学習ディープラーニングしろよ! 俺が死んだ後は、お前が俺の代わりにこの神様を永遠に世話しなきゃならねえんだからな!」


クリスの指先が、キーボードの上で狂ったように踊る。

 彼は軌道上で待機している数千機の『自律型メンテ・ドローン』の制御権を直接奪い取り、自らの手足のように操り始めた。


「そこだ! 第三アーム、ナノカーボンパテを注入しろ! 第六アーム、プラズマトーチで焼きなませ! 角度は四十五度だ、ミリの狂いも許さねえぞ!」


モニターの中で、無数のドローンたちがクリスの神がかった操作によって完璧な連携を見せ、破損した排熱フィンを驚異的な速度で修復・研磨していく。

 それは、地球から四百キロ離れた宇宙空間で行われているとは到底思えない、まるで顕微鏡を覗きながら時計の歯車を組み立てるような、超精密な遠隔手術だった。


「ふぅ……。よし、修理完了だ。ついでに、磁場レンズの焦点アルゴリズムも最新の最適化コードに書き換えておくか。これで出力効率がさらに2パーセント上がるぜ」

 クリスは額の汗を拭い、満足げにエンターキーを叩いた。


『――システム・オールグリーン。マニュアル操作による修復プロセス、記録完了。……該当パターンの最適化修復アルゴリズムを、AIのディープラーニング・データベースへ統合・更新しました』


無機質な音声が響くと、クリスはニヤリと笑って画面を叩いた。

「よくできた生徒だ。……これで次から同じ傷ができても、お前が三分で直せるようになったな」


ボスは「二度と目覚めないことこそが平和の証明だ」と言った。

 確かにその通りだ。この悪魔の兵器が再び火を噴く日が来ないことを、クリス自身も心の底から願っている。ボスの愛する家族が、いつまでも笑顔でいられるように。


だが、人間(俺たち)の寿命には限りがある。

 だからこそクリスは、自分の持つ神がかった技術のすべてをこの要塞のAIに教え込み、百年後でも二百年後でも完璧に稼働し続ける『永遠のシステム』を創り上げようとしているのだ。


「万が一、歴史が再び狂って大国がボスの平和を脅かそうとする日が来たならば。……俺が育て上げたこの『神様』と『AI』が、必ず奴らの頭蓋骨をぶち抜いてやる」


「まあ、それまでは……俺は俺で、平和な世界を適当に楽しませてもらうさ」


クリスは悪魔のような笑みを浮かべてコンソールの電源を落とし、アロハシャツの襟を直した。


「さて、腹も減ったし、次は『プラズマ直火焼きBBQグリル』でも開発してみるか! 最高にジューシーな肉が焼けるはずだぜ!」


 狂気の天才科学者は、誰もいない地下要塞で高笑いを響かせながら、再び太陽の降り注ぐ地上の楽園へと、軽快な足取りで戻っていくのだった。

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