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神の雷(トール・ハンマー)〜家族を奪われた天才物理学者の逆行転生。未来の知識で四大勢力に復讐する〜  作者: 天音天成
第5章:審判の日

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第82話 封じられた悪魔の火と、龍と熊の同時蒸発

 アメリカの大統領が、全世界のモニター越しに涙と鼻水にまみれて命乞いを行い、そして極東の悪魔によって冷酷に拒絶された直後。

 宇宙から撃ち下ろされた『神のトール・ハンマー』の光の槍によって、アメリカの国防の中枢ペンタゴンと政治の中枢ホワイトハウスが、周囲の市街地を一切巻き込むことなく、一瞬にして蒸発した。


 この事実が全世界のニュース・ネットワークを通じてリアルタイムで配信された時、地球上のすべての活動は文字通り「停止」した。


『――そ、速報です……信じられない映像が入ってきました……! ペンタゴンとホワイトハウスが、巨大な光柱と共に完全に消滅しました……!』

『放射能の反応はありません……純粋な物理的破壊です! これは、イージス・イノベーションズの神盾宗一CEOが宣言した『裁き』が、実際に執行されたことを意味します!』


 ニューヨークのタイムズスクエアでも、ロンドンのピカデリーサーカスでも、東京の渋谷でも。

 大型ビジョンを見上げる群衆は、誰一人として声を上げることはなかった。ただ、恐怖と畏敬の入り混じった顔で、画面に映し出される赤熱した巨大な二つのクレーターの映像を呆然と見つめている。


 彼らは理解したのだ。

 これまで教科書で学んできた「国家」という枠組みや、核兵器という「抑止力」が、極東のたった一つの企業が保有する『未知の宇宙兵器』の前に、完全に過去の遺物へと成り下がったということを。

 人類は今日、自らの命殺与奪の権を完全に握る『新たな神』の誕生を、その目に焼き付けていた。


 だが、その放送を一般市民よりも遥かに深い絶望と戦慄で見つめていたのは、アメリカと共に『G4』を結成し、日本分割の青写真に加担した中国とロシアの最高権力者たちであった。


* * *


 中国、北京。

 紫禁城の奥深くに位置する中南海の地下核シェルター。強固な鉛と数十メートルの防爆コンクリートで覆われたその空間は、本来ならば国家主席と共産党最高幹部たちをいかなる攻撃からも守り抜く、絶対的な安全地帯のはずだった。

 だが今、その部屋にいる全員の顔から血の気が失せ、まるで死刑台に向かう囚人のようにガタガタと震え上がっていた。


「ば、馬鹿な……! アメリカが……あの世界最強のアメリカ合衆国が、極東の一企業に這いつくばって命乞いをし、そして見捨てられただと!?」

 国家主席が、モニターに映るブラックアウトしたホワイトハウスの映像を前に、信じられないものを見る目で呻いた。


「主席! 先ほど、我が国の軍事衛星がアメリカの熱源反応を捉えました! ……ホワイトハウスとペンタゴンは、物理的に完全に消滅しています! 直径数百メートルのマグマのクレーターだけを残して、跡形もなく蒸発したと!」

 国家安全部(MSS)のトップが、狂乱したように絶叫する。


「アメリカの指揮系統は完全に崩壊しました! 大統領の命乞いが拒絶された以上、次にあの『光の槍』が狙うのは、我々中国とロシアの中枢に他なりません!」

「そ、そんな馬鹿なことがあってたまるか! 我々は十三億の民を束ねる超大国だぞ! たかが民間企業が、国家を相手にそこまで……!」

「相手はもはや企業ではありません! 宇宙から我々の命殺与奪の権を握る『神』です!!」


 シェルター内に、阿鼻叫喚のパニックが巻き起こる。

 彼らは理解したのだ。自分たちが地下何十メートルに隠れようと、マッハ二五で撃ち下ろされるタングステン弾と数万度のプラズマの前には、このシェルターなどただの「熱伝導性の高いオーブン」に過ぎないということを。


「やられる前にやるしかない! 核だ! 我が国が誇る東風ドンフォンミサイルの全サイロを開け! 戦略原潜からも全弾発射だ! あの忌々しい南太平洋の要塞を、島ごとこの地球上から消し飛ばせ!!」

 国家主席は、恐怖を隠すように顔を真っ赤にして怒号を飛ばした。


 オペレーターたちが弾かれたようにコンソールに向かい、ミサイル発射のシークエンスを入力し始める。

 だが、彼らの指先は、絶望的な警告音によって止められた。


『――警告。指揮統制システム、応答なし。ルート権限がロックされています』


「だ、駄目です主席! 戦略ミサイル軍のシステムが起動しません! 未知のウイルスが、すべてのファイアウォールを内側から食い破り、発射プロトコルを完全に凍結しています!」

「なんだと!? 手動だ! 物理回線で各基地の司令官に直接命令を出せ!!」

「不可能です! 我が軍の通信網そのものが『イージス・リンク』に完全に依存しており、軍事専用回線すらも根こそぎ遮断されています! 我々は……外部と一切連絡が取れません!!」


「あ……」

 国家主席は、その言葉を聞いてその場にへたり込んだ。


 彼らは忘れていたのだ。十四年前、イージス社へのサイバー攻撃を仕掛けた際、逆に自分たちの最高機密ネットワークの深層部へ『バックドア』をこじ開けられていたことを。

 彼らは自らの手で、極東の悪魔に国家の心臓を差し出していた。核のボタンは、もはやただのプラスチックの塊に成り下がっていたのである。


「嫌だ……私はまだ……中華の覇権を……!」


 国家主席が己の浅ましい欲望を呟いた、まさにその瞬間だった。

 天井の分厚い防爆コンクリートを紙切れのように貫き、青白い閃光が地下シェルターを真昼のように照らし出した。


 ズバァァァァァンッ!!


 マッハ二五の運動エネルギーと数万度のプラズマが解放された。

 核爆発に匹敵する超絶的な熱量と爆縮インプロージョンが、中南海の地下施設を内側から完全に吹き飛ばす。国家主席も、最高幹部たちも、絶望の悲鳴を上げる神経信号が脳に伝わるよりも早く、細胞レベルで炭化し、一瞬にして蒸発した。

 十三億の民を支配してきた絶対的な権力の中枢は、周囲に一切の被害を出さず、直径数百メートルの赤熱したクレーターと化し、この世から完全に消滅した。


* * *


 そして、その数秒の遅れもなく。

 ロシア、モスクワ。


 大統領府クレムリンの地下指令室で、ロシアの大統領とFSB高官は、モニターに映っていた中国とのホットラインが突如としてノイズに変わるのを目撃していた。


「……北京が、消えた」

 FSB高官が、血の気の引いた唇を震わせて呻いた。


「我々も同じ運命だというのか……!」

 ロシアの大統領は、顔面を蒼白にさせながら、戦略ロケット軍の司令官の胸ぐらを掴んだ。

「早くしろ! 『死のデッドハンド』システムを起動しろ! 指導部が全滅しても自動で報復の核ミサイルを撃ち込む、あの絶対的な自動報復システムが我が国にはあるはずだろう!!」


「だ、駄目です大統領! デッドハンド・システムすら、何者かに完全に上書きされています! 発射サイロのハッチが物理的にロックダウンし、地下で完全に封印されています!」


「馬鹿な……ソ連時代から独立したアナログなシステムだぞ! なぜ極東の民間企業に手出しができる!」

「十四年前です……! あの時のサイバー攻撃の際、我々が逆に招き入れてしまった『トロイの木馬』が、十数年の歳月をかけて、我が国のシステムの末端まで完全に根食いしていたのです!」

 オペレーターが、泣き叫ぶように真実を吐露した。


「あの時に、すでに首輪をつけられていたというのか……! 我々は、ずっとあの悪魔の掌の上で踊らされていたに過ぎなかったと……!」

 大統領は、膝から崩れ落ち、自らの頭を抱え込んだ。


 かつて冷戦時代から世界を恐怖で支配してきた強権国家の最高指導者が、今や見えない宇宙からの恐怖に怯え、惨めに震え上がっている。

 前世の2065年、彼らは日本の資源を奪うために『神の雷』を容赦なく使用した。その報いが、五十五年の時を越えて、彼ら自身の頭上に全く同じ絶望として降りかかってきたのだ。


『――警告。熱圏上空より、極超音速の飛翔体が接近中。目標……クレムリンです!!』


「神よ……!」

 大統領が胸の前で十字を切った、その瞬間。


ドゴォォォォォォンッ!!


 歴史あるクレムリン宮殿の美しい玉ねぎ屋根が、宇宙からの一撃によって内側から吹き飛び、プラズマの業火によってドロドロのマグマへと変わっていく。

 冷戦時代から世界を睨み据えてきた大国の心臓部もまた、極東の悪魔が放った神の雷の前に、為す術もなく完全に浄化されたのである。


* * *


「――第三射、第四射、着弾確認。……目標である北京・中南海、およびモスクワ・クレムリンの地下中枢、完全に物理消去クリアリングされました」


 メインモニターには、北京とモスクワの郊外に突如として現れた巨大な炎の柱と、赤熱したクレーターの衛星映像が映し出されている。

 アメリカのペンタゴンとホワイトハウスに続き、中国とロシアの最高権力機関が、わずか数分の間に地球上から完全に消し去られたのだ。


「見事だ。……これで、私に牙を剥いた四大勢力の最大の武力は、完全に機能を停止した」

 私は特注のレザーチェアに深く腰掛け直し、モニターに映る二つの焦土を冷酷に見下ろした。


『ヒャッハー!! コンボ完走だぜボス! 核ミサイルを撃とうとした連中の指先ごと、システムを完全にロックしてやったぜ!』

 Dr.クリス・ウォーカーが歓喜の涙を流しながら叫んでいる。


『あいつら、自分たちの核兵器で世界を脅かしてるつもりだったんだろうが、その足元はとうの昔に俺たちのウイルスが完全に支配してたってわけだ! 最高のザマだぜ!!』


「核という悪魔の火に手を伸ばした者には、神の雷(裁き)をもって報いる」

 私は、冷めたコーヒーを口に運びながら、静かに、そして絶対零度の声で告げた。


「彼らは自らの力で世界を脅かしていると錯覚していたが、その首根っこは十四年前から私が握っていた。……自らの罪を省みず、再び私の家族を焼き尽くそうとした傲慢な獣に相応しい末路だ」


「ボス……。これで、世界は完全に変わりました」

 玲奈が、傍受した世界中のニュースネットワークのパニック映像を確認しながら呟く。

「軍事指揮系統を失った米中露の三大国は、もはや国家としての体を成さず、完全な混乱と崩壊へと向かうでしょう。彼らの残存部隊や地方政府は、イージス社への報復どころではなく、自国内での権力闘争と暴動の鎮圧に追われることになります。我々を脅かす物理的な力は、完全に消滅しました」


「ああ。私の家族の平和を脅かす病巣の『九割』は、これで切除できた」


 私は、手元のコンソールを操作し、最後のターゲット座標をモニターに表示させた。


「残るは、最後の一つだ」

 私の視線の先にあるのは、ヨーロッパ大陸。

 スイスの古城で密談を交わし、G4の結成に加担し、日本の四分割統治に賛同した『欧州連合(EU)』の安全保障の中枢だ。


「彼らは直接的な軍事力こそ米中露に劣るが、その政治的な狡猾さと『偽りの大義名分』を作る能力は、最も厄介な毒となる。……ここで彼らだけを見逃せば、必ず数年後に『我々は米中露に脅されていただけの被害者だ』という顔をして、再び国際社会を扇動し始めるだろう」


 大国の歴史とは、常に責任を他者へ押し付け、自らを正当化する狡猾さの上に成り立っている。

 彼ら欧州のトップが、これからどれほど見苦しい命乞いと手のひら返しを見せるか。私はその滑稽な結末を、特等席で見届けるつもりだった。


「クリス。ジェネレーターの冷却を急げ。……第五射のチャージが完了次第、彼らにも同じ絶望の味を骨の髄まで教えてやる」


『了解だぜ、ボス! 最後の仕上げ、バッチリ決めてやる!!』


 極東の悪魔が引いたトリガーによって、世界の覇権構造は完全に崩壊し、新たな秩序への強行な塗り替えが、その最終段階へと突入しようとしていた。

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