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神の雷(トール・ハンマー)〜家族を奪われた天才物理学者の逆行転生。未来の知識で四大勢力に復讐する〜  作者: 天音天成
第5章:審判の日

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第83話 狡猾な狐と、第五の裁き

 アメリカのペンタゴンとホワイトハウスに続き、中国の中南海、ロシアのクレムリン。

 世界を軍事と恐怖で支配してきた三大超大国の心臓部が、宇宙から撃ち下ろされた『神のトール・ハンマー』によって一瞬にして蒸発してから、わずか数分後。


 ベルギー、ブリュッセル。

 欧州連合(EU)の合同軍事司令部が置かれた地下バンカーでは、絶望という名の疫病が猛烈な勢いで蔓延していた。


「通信が繋がりません! ワシントンも、モスクワも、北京も、完全に沈黙しています!」

 オペレーターが、泣き叫ぶように報告する。


「馬鹿な……。あのアメリカの国防中枢と、中国、ロシアの最高権力者たちが、一瞬で消え去っただと……!?」

 EUの安全保障理事会トップは、完璧にセットされていた白髪を乱し、床に座り込んでいた。


 数ヶ月前、スイスの古城で日本分割統治の皮算用に賛同した欧州の権力者たち。直接的な巨大軍事力で米中露に劣る彼らは、常に他国の強大な武力の影に隠れ、「人権」や「平和」というもっともらしい大義名分を掲げて甘い汁を吸ってきた。

 だが、その狡猾さが今、最大の仇となっていた。

 盾にしてきた米中露の武力が宇宙からの一撃で粉砕された今、彼らは極東の悪魔の前に、完全な丸腰で放り出されたのだ。


「早く、早くイージス社に連絡を繋げ! 我々は米中露に脅されて、仕方なくG4に参加しただけだと、神盾宗一に直接伝えるんだ! 今すぐ武装を解除し、全面降伏すると!!」

 トップが泡を飛ばして絶叫する。


「だ、駄目です! すべての軍事回線がイージス社のウイルスによって完全にロックされており、外部への送信が不可能です!」

「なら民間の回線を使え! テレビ局でもSNSでも何でもいい! 我々が降伏したことを、あの悪魔に知らせるんだ!!」


 彼らは、自分たちの命乞いが間に合うと本気で信じていた。政治的な妥協点と謝罪の言葉を見出せば、自分たちだけは生き残れると。

 だが、神の裁きに妥協など存在しない。


『――随分と見苦しい命乞いだな、欧州の化石ども』


 不意に、地下バンカーのメインスクリーンが強制的に切り替わり、漆黒の仮面を被った極東の悪魔の姿が映し出された。


「か、神盾総帥!!」

 EUのトップは、弾かれたようにスクリーンの前に這いつくばった。

「待ってくれ! 我々の話を聞いてくれ! 我々欧州は、貴社と敵対するつもりなど、当初から毛頭なかったのだ! アメリカの軍事力と、中露の暴力に脅迫され、無理やりG4に引きずり込まれただけの『被害者』なのだ!」


 彼は、涙と鼻水を流しながら、己のプライドも、つい数時間前まで肩を組んでいた同盟国への義理もすべて売り渡し、責任を死者たちへとなすりつけ始めた。


「考えてもみてください! 我々欧州は、日本の味方です! 貴社の提供するクリーンエネルギーと通信インフラを最も愛し、その普及に全面的に協力してきたのは、他でもない我々欧州ではありませんか! これまでの賠償ならいくらでも支払う! だから、あの光だけは……!」


『被害者、だと?』


 私の合成音声が、彼らの浅ましい弁明を絶対零度の冷気で一刀両断した。


『前世でも今世でも、お前たちのその狡猾さが一番の毒だ』


「ぜ、前世……? 何を言っている……!」


『他国の暴力の影に隠れ、自らは安全な高みから「平和」や「人権」を謳いながら、弱者の富を最も効率的に搾取する。スイスの古城で、日本の国土を四分割し、私の家族を殺して技術を山分けにする算段に、お前たちは嬉々として賛同していたではないか』


 私の脳裏に、前世の記憶が蘇る。日本が分割統治された際、最も巧妙に日本の法整備や知的財産を奪い取っていったのは、武力で制圧した米中露ではなく、あとから「平和的統治」の名目で入り込んできた欧州の連中だった。

 自らの手を血で汚さず、他人の流した血の上に城を築く。その腐りきった本質を、私は誰よりも理解している。


『お前たちは、米中露に脅されたのではない。自らの強欲によって、自ら進んで泥舟に乗り込んだのだ。……その責任を他者に押し付け、自分だけが助かろうとするその浅ましさこそが、この世界から消し去るべき『最大の病巣』だ』


「い、いやだ! やめてくれぇぇぇッ!! 私はただ、欧州の利益を――!」


『己の罪の重さを、その身で味わうがいい』


 私は通信を遮断し、最後の一撃を命じた。


『――警告。熱圏上空より、極超音速の飛翔体が接近中。目標……当司令部です!!』

 絶望のサイレンがバンカー内に鳴り響く。


 ズバァァァァァンッ!!


 欧州のトップが悲鳴を上げ終えるより早く、宇宙空間から放たれた『第五の光の槍』が、ブリュッセルの空を真昼のように照らし出した。

 数万度に達するプラズマの爆縮インプロージョンと、タングステン弾の圧倒的な運動エネルギーが、強固な地下バンカーを内側から完全に吹き飛ばす。

 核爆発に匹敵する超絶的な熱量の中で、彼らの身体も、大国としての傲慢なプライドも、すべてが細胞レベルで炭化し、一瞬にして蒸発した。


 放射能汚染を一切伴わない、純粋でクリーンな神の業火。

 欧州連合の中枢機能は、周囲の市街地に一切の被害を出すことなく、直径数百メートルの赤熱したマグマのクレーターと化し、この世から完全に消去された。


     * * *


「――第五射、着弾確認。目標であるEU合同軍事司令部、完全に物理消去クリアリングされました」


 南太平洋の孤島要塞『ニヴルヘイム』。

 その地下深くに構築されたサイバー・コントロールルームに、橘玲奈の静かな、だが深い畏怖を帯びた報告が響き渡った。


 メインモニターには、ブリュッセル郊外に突如として現れた巨大な炎の柱と、赤熱したクレーターの衛星映像が映し出されている。

 アメリカ、中国、ロシアに続き、欧州連合の最高権力機関が、わずか数十分の間に地球上から完全に消し去られたのだ。


「ご苦労。……これで、私に牙を剥いた四大勢力の軍事・政治の中枢は、すべてこの地球上から消え去った」

 私は特注のレザーチェアに深く腰掛け、冷めたコーヒーを口に運んだ。


『ヒャッハー!! コンボ完走だぜボス! 世界を牛耳ってた四匹のデカい豚どもが、俺たちの造った神の雷で綺麗に丸焼きになっちまったな!』

 分割画面の向こうで、さらに地下の動力制御室にいるDr.クリス・ウォーカーが歓喜の涙を流しながら叫んでいる。


「ああ。クリス、プラズマジェネレーターの冷却シークエンスに移行しろ。……もう、次の弾を撃つ必要はないだろう」

 私は、壁面に広がる世界地図を冷酷に見据えた。


「ボス……。四大勢力の中枢が同時に消滅した事実を受け、各国の残存政府は完全に恐慌状態に陥っています」

 玲奈が、傍受した世界中の通信トラフィックの異常な急増を示しながら報告する。


「アメリカでは、大統領と共にホワイトハウスの地下にいた最高幹部が全滅。中国とロシアも同様です。……現在、事態の収拾に当たっているのは、各国の危機管理プロトコルによって『指定生存者』として別の秘密バンカーや空中指揮機(E-4B)に隔離されていた、副大統領や副主席、あるいは地方にいた首相たちです」


「ボスの指示通り、彼らNo.2たちの避難先は事前に『神の目』で完全に把握していましたが、あえて攻撃目標から外しました。……国家としての『降伏のサイン』をさせるためには、恐怖を骨の髄まで理解した正規の代理人が生き残っていなければなりませんからね」


「トップが消え、国家の存亡を突然押し付けられた彼ら『生存者』たちに、イージス社への徹底抗戦を叫ぶ気力など、もはや一ミリも残っていないだろう」


私は、手元のコンソールを操作し、全世界の通信ネットワークへのアクセス権限を再び解放した。


「玲奈。全世界のニュースネットワーク、および彼ら生存者たちが逃げ込んでいる残存政府の専用回線への通信を開け。……彼らの『降伏の儀式』を、特等席で見せてもらおう」


* * *


数分後。

 サイバー・コントロールルームの巨大なメインモニターが四分割され、アメリカの新大統領(元副大統領)、中国の副主席、ロシアの首相、そして欧州連合の臨時議長の顔が、一斉に映し出された。


彼らは全員、尋常ではないほどの汗を流し、恐怖で顔面を蒼白にさせている。

 隔離されたシェルターや空中指揮機の中で、彼らは直前まで「いつ自分の頭上にもあの光が落ちてくるか」と死の恐怖に震えていたのだ。

 彼らの視線の先には、ニヴルヘイムの指令室で漆黒の仮面を被った私――ヴァルハラ総帥の姿が映っているはずだ。


『カ、カミタテ、総帥……!』

 アメリカの新大統領が、震える声で口を開いた。彼の声は、全世界のメディアを通じて同時生中継されている。

『我々アメリカ合衆国は、そして中国、ロシア、欧州連合は……貴社、いや、貴方に対して、一切の敵対行動を永久に放棄し、無条件降伏を宣言いたします!』


 新大統領は、カメラに向かって深々と頭を下げた。いや、その姿は画面越しに土下座をしているようにすら見えた。


『先の軍事行動は、すべて前任の首脳陣が独断で強行したものであり、我々現政府および国民の総意ではありません! 彼らの過ちを深く謝罪します! どうか、どうかこれ以上の攻撃は……!』

 中国の副主席も、ロシアの首相も、泣きそうな顔で何度も頷き、必死に命乞いの言葉を重ねる。


 かつて世界を支配し、他国の主権を平然と蹂躙してきた大国の権力者たちが。

 自らの富と威信を誇示し、私の家族を標的にして数百万のミサイルを撃ち込んできた彼らが。

 今や極東の一民間企業のトップに対して、文字通り地に這いつくばって命を乞うているのだ。


 これこそが、私が求めていた『完全なる絶望と服従』だった。


 私は、仮面の奥で極低温の笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開いた。

『……よろしい。その降伏を、受諾しよう』


 私の冷徹な合成音声が響くと、画面の向こうの四人は、安堵のあまり椅子から崩れ落ちそうになっていた。


『だが、勘違いするな。お前たちが許されたわけではない』

 私は、言葉の刃を彼らの喉元に突き立てた。


『お前たちが私の領域を侵し、私の家族を脅かそうとした罪は、前任者たちの死と失脚だけでは到底償いきれるものではない。……これより、お前たち四大勢力は、イージス・イノベーションズとの間に『絶対不可侵条約』を締結する』


 私は、あらかじめ用意しておいた条約の草案を、彼らの手元の端末へ強制的に送信した。

『第一に、日本およびイージス社の関連施設に対する一切の軍事的、政治的、経済的干渉を永久に禁ずる。第二に、今回の軍事行動に対する莫大な賠償金を、我が社および日本国政府へ支払うこと。第三に……宇宙空間への一切の兵器打ち上げを禁止し、お前たちの軍事・宇宙開発は完全に我が社の監視下に置く』


「そ、それは……事実上の国家主権の放棄に等しい……!」

 欧州の臨時議長が、絶望的な声で呟いた。


『不服があるなら、いつでも言ってこい。私の『神の雷』には、まだお前たちの主要都市すべてを灰にするだけの弾薬(タングステン弾)が装填されている』

「い、いえ! 異存はありません! すべての条件を無条件で受け入れます!!」


 アメリカの新大統領が、他の三人の言葉を遮るように叫び、震える手で電子署名を行った。それに続くように、中国、ロシア、欧州の代表たちも、自らの国家の誇りを完全に捨て去り、屈辱的な条約に次々とサインしていく。


 それは、人類の歴史が完全に書き換えられた瞬間だった。

 前世で私の祖国を分割し、家族を焼き尽くした「大国」という傲慢な概念は完全に崩壊した。

 地球上の覇権は、ただ一人の男――神盾宗一という絶対的な神の手によって、完全に、そして永遠に掌握されたのだ。


 私は、四つの電子署名が揃ったことを確認し、冷酷に宣告した。

『契約は成立した。……お前たちは、私が引いた境界線の内側で、二度と空を見上げることなく、大人しく這いつくばって生きるがいい』


 ブツンッ。

 通信を遮断し、全世界への電波ジャックを解除する。

 モニターの中では、各国の代表たちが力尽きたように泣き崩れ、世界中の人々が、新たな世界の支配者の誕生に畏怖し、言葉を失っている光景が映し出されていた。


「……終わりましたね、ボス」

 ニヴルヘイムのサイバー・コントロールルームで、橘玲奈が深い、深い安堵の息を吐き出した。

「四大勢力の軍事力は無力化され、国家の威信は完全に粉砕されました。もはや、この地球上に我々を脅かす存在は、何一つ残っていません」


「ああ」

 私は顔を覆っていた漆黒の仮面をゆっくりと外し、デスクの上に置いた。

 額に滲んだ汗を指で拭いながら、私はレザーチェアの背もたれに身を預け、長く重い息を吐き出した。


「……私の勝ちだ」

 私は、誰に聞かせるでもなく、静かに、だが確かな達成感を込めて呟いた。

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